強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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先日、予約投稿をミスったお詫び。(プチ)

・アッサラームにて?

商 人「おお、私の友達、お待ちしておりました。売っている物を見ますか?」

シャル「ええと、このフロントジッパー競泳水着って何ですか?」

商 人「おお、お目が高い。流行の品ですからお買いになりますよね?」

主人公「はあああっ、でやぁぁぁっ!」

商 人「へげぶっ」

シャル「お師匠……さま?」

主人公「はぁはぁはぁ……危ないところだったなシャルロット」

 しゅじんこう は せくはら しょうにん を たおした。




 え、何故本編でやらないかって? 世界観的にジッパーなんて無いと思ったからですよ。


第二百七十三話「やっちゃったぜ」

(あるぇ、待てよ……)

 

 問う前に思い出すべきだったのかも知れない。イシス防衛戦で自分と会ったシャルロットがその後何をしたかを。思い浮かんだのはシャルロットの声。

 

「水着なんて無い、ありのままのボ」

 

 その先は、言わせなかった。と言うか呪文で透明化させたので、水着を脱ぎだしたシャルロットの裸は見られては居ないと思う。

 

(うわぁ)

 

 ただ、よくよく考えてみれば、あの光景を遠巻きに見ていた可能性がある人達になる訳で、これはこっちの配慮が足らなかったと言わざるを得ない。つまり、シャルロットの症状は、ありのままの姿を晒そうとした黒歴史を思い出したことによるトラウマの再燃なのだ。

 

「すまん、シャルロット」

 

 どう考えても俺のせいだ。俺だって、小学校の時の自由帳を音読されたら叫びながら何も考えず全力で走りたくなる。

 

(加勢に来て主戦力を戦闘不能に追い込んでどーすんですか、俺)

 

 かくなる上は、シャルロットに替わって話を纏め汚名返上するしかない。

 

(ついでにシャルロットのアフターケアも、だな)

 

 もっとも、今優先すべきは、トレーニング用スペース借り受けの件だ。

 

「先程の話だが、保護者というかコーチが付いた場合ならどうなる? それで問題がないならコーチする者をこちらで一名用意しようと思っているが」

 

「そうですな、もし施設を使われる方が怪我をされたりした場合の責任についてそのコーチの方が全責任を負って下さるというのでしたら、年齢の件については特に言うことはありません。後は施設が損壊した場合の保証等について、納得の行く条件を提示してさえ頂ければ」

 

「わかった。破損が生じた場合は全額こちらで弁償しよう。これは保証金だとでも思ってくれればいい」

 

 オーナーの態度が変わったところで、先方の条件を承諾しつつ俺は財布から一掴みの金貨だけ取ってポケットに詰め込むと、財布をそのままオーナの方へと押しやった。

 

(とにかくこの場はさっさと収めて、シャルロットを連れて行こう)

 

 マリクをおろちの婿へ仕立てることへやっきになりすぎていたというと言い訳になってしまうだろう。状況把握とオーナーをいかにして説き伏せるかに気をとられすぎて落とし穴の蓋を踏み抜いたのだから。

 

「では、俺達はこれで失礼する。先方にも結果を伝えたりとせねばならんこともあるのでな。いくぞ、シャルロット」

 

「あ、えっ? お話は?」

 

「もう終わった。後は……戻ってから話そう」

 

 敢えて何処へかをぼかしたのは、結局マリクのことについて明かしていたかまで探れなかった為。

 

「それはそれとして……シャルロット、あのメタルスライムは?」

 

「ああ、あのメタルスライムでしたら当方のモンスター舎で預かっておりますよ。いや、あの魔物を手名付けることの出来る魔物使いはあまりおりませんでな。うちの飼育員も良い勉強をさせて頂いております」

 

 ただ、一つ残った疑問もシャルロットではなくオーナーの言葉で氷解した。

 

(それでシャルロットの荷物袋は静かだったのかぁ)

 

 すごろく場の一件を聞いた限り、ここでも何かやらかすんじゃと少し不安だったのだが、魔物のことを心配している場合じゃなかった。

 

(ここを出たら、シャルロットに詫びないとな)

 

 あの灰色生き物はこのまま預かっていて貰った方が良いだろう。二人きりの方が、話もしやすい。

 

(あとは、今日の宿も決めておいた方が良いかもなぁ)

 

 マリクのところで世話になるのも選択肢の一つとしては有りだし、泊まらずバラモス城に向かうのも一つの手だったが、シャルロットの精神状態を考えると、後者はとくにあり得ない。

 

「そうか。では、俺達はこれで。施設の方は宜しく頼む」

 

 灰色生き物のことで退出しそびれた俺は、改めてオーナーへ会釈してシャルロットの手を取り歩き出す。

 

(よし。ここなら、誰もいないな)

 

 徐に足を止めたのは、格闘場を出て町を歩き、壊れた民家の前にさしかかったタイミングでだった。前に見た家と違って修復さえ行われていないのは、きっと攻防戦の前に家主が何処かに逃げて空き家になってしまっているからとかそんな理由だと思う。

 

(だから、逆にちょうど良い)

 

 たぶん無断でお邪魔しても咎める人もいないだろう。

 

「……お師匠様?」

 

「シャルロット、こっちに」

 

 立ち止まってからシャルロットが訝しむまでにかかった時間も、弟子の手を引き壊れた民家の物陰へ引き込ませるのに充分な理由だった。

 

「えっ、あ」

 

「すまん」

 

 急いて手を引いたために蹌踉めいたシャルロットの身体を受け止め短い謝罪の言葉を口にすると、一瞬迷ってから、その身体を引きはがす様にして起こし、更にもう一度、すまんと言った。

 

「お、お師匠様?」

 

「シャルロット、俺は――」

 

 何故か顔を赤くし、慌てふためくシャルロットへ気付きはした。だが、勢いがなくては謝れない様な気がして、その揺れる瞳を見つめたまま、俺は謝罪の言葉を紡ごうとし。

 

「俺はお前に――」

 

 最後まで言い終えるよりも早く、きゅきゅるると言う可愛らしい音が割り込んだ。

 

「あ、ええと……」

 

「すまん、先に飯にした方が良い様だな。この格好では食い辛そうだし、中で食事をとれる宿屋を探すか」

 

 俺の腹の音でない以上、消去法で音の主は他に考えられない。シャルロットが俯いてしまった上でもじもじしてるなら、尚のこと。

 

「はぁい」

 

 もの凄く情けなさそうな声色に、フォローするにしてももう少しやり方があったのでは、と思った時には俺は既に宿を探す発言をしてしまった後であり。

 

「すまんな、シャルロット」

 

「いいえ、ボクがもっとしっかりしてたら良かっただけですから」

 

 もう一度詫びたところで見せるシャルロットの気丈さに、俺は己のふがいなさを恥じ入るばかりだった。

 

 




やっちゃったと思ったのにやらなかった。

壁ドンさせるべきか迷ったけど、自重しておきました。

さて、主人公はちゃんと(謝罪を)やっちゃえるのか。

次回、第二百七十四話「宿を取る時、シャルロットが二人部屋一つと言い出した件について」

あっ。(察し)

おかしいな。しゃざい する の に おんなじ へや へ とまる ひつよう ある の ですか?


あと、ちょうどお腹減ってきたところだったので、シャルロットのお腹の音があのタイミングで鳴ったのは作者が空腹だったせいでつ。

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