強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百七十六話「レベル上げとか大魔王討伐以外の理由でバラモス城に行くって普通だよね?」

「お師匠様ぁ、どうしたんでつか?」

 

「いや、少し今日のことを考えすぎてな」

 

 目の下にくまのある顔についてのものと思われるシャルロットの問いへ嘘をついてしまったが、仕方のないことだったと思う。

 

(くっ、自分にラリホーの呪文かけるという手段へもっと早く気づいていたら)

 

 どうも俺達の泊まった部屋は新婚さんとかカップル向けの部屋だったらしく、隣も同じ仕様だったらしい。しかも、この世界の文明レベルからして壁に防音効果が働いているかはお察しである。

 

(シャルロットだけでも充分凶悪だったっていうのに、お隣さん自重しろと言うか)

 

 新婚さんなのかカップルなのかは知らない、だが愛を確かめすぎ(比喩表現)だと思う。

 

(シャルロットががっちり片腕ホールドしてて壁ドンしにいくことだって出来なかったし)

 

 と言うか、もし仮に腕へ抱きつかれてなくても壁殴りの音でシャルロットが起きかねない。

 

(シャルロットみたいにさっさと寝ていられたら、いや止そう)

 

 あの状況で普通に寝るという前提にまず無理があったのだ。

 

(昨晩のことは俺の胸の中だけにしまっておく、それが一番平和なんだ)

 

 ほじくり返しても何の益もないことなのだから。

 

(ただ、もし宿の主人が「昨日はお楽しみでしたね」って言ってきたら、この右拳にバイキルトをかけて殴りかからないでいられるだろうか)

 

 おたのしみどころかなまごろしでしたよ、こんちくしょう。

 

(って、いけないいけない。いつものお師匠様を演じないとシャルロットが訝しむ)

 

 この後マリクの屋敷に寄ってからバラモスの城へ乗り込むことになるのだ。城の主は相当残念大魔王だったが、だからといって油断して良い理由にはならない。

 

(こっちは二人しか居ないわけだしな、ぎくしゃくして連係がうまく行かなかったりすれば、しなくて良い怪我をするかもしれない)

 

 この場合、怪我を負うのは俺ではなくシャルロットだ。お袋さんにシャルロットを託された以上、そんなミスはおかせない。

 

「まぁ、それでもお前の足は引っ張るつもりはない。体調管理に失敗しておいて言えたことではないかもしれんがな」

 

 苦笑しつつシャルロットの頭へポンと手を置いたのは、上目遣いに心配そうな目を向けてくる弟子に罪悪感を感じたからであり。

 

「ともあれ、着替えたらマリクのところへ向かうぞ」

 

「あ、はい」

 

 まだ鎧を着ていないシャルロットを見ると腕に押し当てられていたものの感触を思い出してしまいそうだからでもあった。

 

(王族ならコーチの方はコネで何とかなりそうな気もするし、やはり考えておくべきは発泡型潰れ灰色生き物の狩り方、だよなぁ)

 

 ゲームでは毒針という急所をつけば一撃で倒せるありがたい武器があったのだが、シャルロットが手懐けることを鑑みると、即死させてしまっては拙い。

 

(オーバーキルになるドラゴラムは論外、そもそも同行者はスレッジじゃなくお師匠様ってことになる訳だし)

 

 そうなってくると、手数を生かして削って倒すという一番効率の悪い狩り方しか残っていない訳なのだ。

 

(普通にやったら、まず逃げられるな)

 

 そもそも、標的だけでもこれだけ問題があるが、バラモス城は一度曲者の侵入を許し、主がボコボコにされている。

 

(だから、おそらく何らかの侵入者対策がされてる城の方も警戒しないといけないんだよなぁ)

 

 もっとも、今回は魔物使いの心得があるシャルロットが居る。

 

(手懐けた魔物から情報を聞き出せば……ただ、前回親衛隊に寝返られたバラモスがその返ノータッチと考えるのは楽観的すぎるかな、やっぱり)

 

 一応、裏切り対策が為されていたとしても、エビルマージのローブを剥いでかぶり、味方のふりをして聞き出すとか他の手段も考えてはいる。

 

(出たとこ勝負になっちゃうのは気になるけど、事前調査してる余裕もないし、やむを得ないか。今回が強行偵察も兼ねてるってことにして――)

 

 そんな風に着替えをしているはずのシャルロットを外に残し、腕組みして考えていた時だった。

 

「え」

 

 窓の外に見えた朝の空を飛ぶ、箒へ跨った人影が、白い旗を手に水色の東洋ドラゴンと一緒に飛んでいるのが見えたのは。

 

「エリザ、戻ってきたのか」

 

 白旗はバラモス軍と間違われない様にする為のモノなのだろう。

 

「……あっちはイシスの城がある方角、だな」

 

 俺達もすごろく場経由で竜の女王の城へ行ったりしていたのだ。何らかの成果を経て合流する為の情報を得に国主を訪ねたとしても不思議はない。

 

「マリクの方は後にするしかないな」

 

 ポツリと呟き、窓に背を向けた俺はドアをノックする。

 

「シャルロット、着替えは終わったか? 少々予定を変更したいのだが」

 

 水色東洋ドラゴン達は話せないが、飛行能力があるのは、大きい。敵に紛れて城を偵察出来るかも知れないし、飛行能力自体が障害物や罠を飛び越えるのに使えるかも知れないのだから。

 

(そもそも今回の目的は修行用の魔物の確保。バラモス自体には何の用も無いからなぁ)

 

 必要なのは、戦力ではないのだ。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

「うん。忘れ物はないよね?」

 

 多分睡眠不足の理由の原因の一つが仲睦まじげに言葉を交わすシーンに出くわし、少しだけモヤモヤとしたものを感じたが、それはそれ。

 

「ごめんなさい、お師匠様。お待たせしまし……お師匠様?」

 

「いや、何でもない。それよりな、つい今し方スレッジの知り合いが空を飛んでいるのを見かけた。城の方に向かったから、合流して協力して貰おうと思うのだが」

 

 今はシャルロットに事情を説明し、予定変更に承諾を得るべきなのだから。

 

「スレッジさんのお知り合いで空を飛んで……あ、ひょっとして箒に跨ってましたか?」

 

「あぁ」

 

 何頭かスノードラゴンを連れていたとも補足しつつ、振り返ると、複数の点という形ではあったが、空を行く者の姿が見え。

 

「シャルロット、あれが見えるか?」

 

 窓の前から退くと城の方へ降り始めたそれを示してやる。

 

「あ」

 

「見えたようだな。俺が見た時は、バラモス麾下の魔物と勘違いされぬ様速度を落とし白い旗を掲げてた」

 

 とは言え、魔物と一緒だ。即座に用件を果たせるとは思えない。

 

「今なら、追いついて合流出来るだろう。少し走ることになるかも知れんが」

 

「大丈夫です」 

 

「そうか」

 

 最後まで言い終えるよりも早く噛まずに頷いたシャルロットへこちらも頷き返すと、そのまま俺は弟子の脇を抜けて部屋に入るなり自分のもの以外の荷物を拾い上げた。

 

「なら急ぐぞ。流石にこのまま城には行けん、着替えてから追いかけるからお前は先に行け」

 

「わ、わかりました」

 

「ああ、チェックアウトは俺がするから宿の主人へその言づても頼む」

 

 素早さの差がある以上、先行させてもすぐ追いつけるだろう。シャルロットに荷物を押しつけると、もう一つお願いをしてドアを閉めたのだった。

 




とりあえず、時間切れにならなかったらどうなっていたかを少し補足してみました。

次回、第二百七十七話「再会そして出立へ」

エリザ再登場か?

ただ、……出発が一話延びちゃったのです。



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