「あれか」
真夜中の海岸、俺は全裸で腕を組んだまま遠くを見つめていた。
(うーむ、お城っぽいけど消去法で考えると……)
サービスシーンとか言い出す気もなければ、何か全裸主義に目覚めた訳でも無い。
(まあ、いいや)
俺はくるりと回れ右すると、折りたたまれた服の山から下着を探し出して足を通す。
(とにかく、あそこをルーラのリストに載せよう)
そもそもその為にこんな格好をするハメになったのだから。
(思ったより大変だったと言うべきか、何というか……)
そう、あれはレーベの村を後にした後のこと。
「考えてみると、夜は失敗だったかもな」
ゲームでは夜でも周囲を見ることは出来た、フィールドを俯瞰する形であったのも大きいと思う。
(草原はまだマシだったよなぁ)
だが、実際にゲームキャラの目線で見ると、夜の森はほぼ真っ暗闇である。月明かりがあって草原では何とかなったし、この身体のお陰か夜目は利くが、それでも昼と比べれば行軍のし辛さは雲泥の差だった。
「さてと、だいたいこの辺りだった筈だが……あれか」
俺が探しているのは、レーベの南東にある小さな建物。ナジミの塔に続く地下通路の入り口もこの側にあるが、俺のお目当ては建物の方。
(さてと、どこに繋がって居るんだったかなぁ)
入り口を閉ざす鉄格子の奥に見える淡く青い光。正体が、入ったものを瞬時に別の場所へ運ぶ「旅の扉」であることまでは俺も知っている。問題は、飛んだ先がどこなのかまで覚えていないことだ。
「アバカム」
呪文一つで頑丈そうな鉄格子はあっさり陥落して軋んだ音を立てながら道を空け、俺は念のため足音を殺して奥に進むと、旅の扉に身を投じた。
「うおっ」
よくよく考えれば、旅の扉に入るのは初体験である。視界が揺れてふやけてゆくと言う未知の感覚に思わず声を上げてしまうが、幸いにも目撃者は居ない。
「……出て早々鉄格子とはな」
レーベ側の鉄格子と比べれば倍近い大きさの扉だったが、解錠呪文の前には大きさなど関係ない。
(ん、階段? ふむ……)
扉を出てすぐ、壁の影に階段があったことに気づいた俺は少し考えてから階段を上り始めた。
(誰か居るかもしれないし)
高い建物であれば、周囲を見渡せる可能性もある。
(成る程、灯台ね……よっと)
一番上まで登って無駄に大きな光源と展望台と見まごうばかりのパノラマに建物の役割を悟った俺は、外に身を乗り出すと、外壁に取り付く。
(流石盗賊、と言うか本当にこの身体能力凄いわ)
もちろん、身体能力の確認にこんなことをしている訳ではない。
(えーと、高さ的にはどれくら……高ッ!)
下を見て少し怖くはなったが、天辺に登る必要があったのだ。
「さてと」
盗賊には心の目を大空に飛ばし周囲を探る「タカのめ」という呪文がある。
(何か見つかるといいなぁ……あっ)
わざわざ灯台の天辺まで登ったのもその呪文の精度が少しでも高くなればと思ってのことであり、俺の心の目は努力のかいがあったのか、海の向こうに人の手によると思われる明かりを捉えていた。
(となると、海を越えなきゃ行けないか)
当然ながら俺は船など持っていない。
(とりあえず、海岸に行ってみよう。実際の距離がどの程度あるか確認すれば……)
正直に白状すると、この時俺はまだノープランだった。
(うわぁ、潮の香りが)
現実で最後に海に行ったのはいつだったか。
(て、アリアハンも周囲海だったよな。そんなことより、今は向こうに渡る方法を見つけないと)
簡単に直せる打ち上げられた船でもあれば良かったが、そんな物質化したご都合主義など砂浜にはなく。
「……流木か」
見つけたのは、船とはほど遠い物体だった。
「もっとたくさんあれば筏ぐらいなら作れそうなんだが」
バニーさん用に持っていたロープは僧侶のオッサンに半分くらい使ってしまったが、まだ残っている。
「いや、筏が作れたとしても魔物と遭遇したらおしまいか」
ゲームの中で立派な船を貰うまで船旅が出来なかったことにだって理由はあるのだ。手作りの筏では海での戦闘に耐えうるとは思えない。
(此処まで来て手ぶらで戻るのもなぁ)
俺は流木を足で突きつつ、海を眺めて唸り。
(待てよ、この方法なら――)
不意に脳裏に閃いたアイデアに視線を海面に固定する。
「試してみる価値はある」
すっかり板に付いてきた師匠モードでの独り言を残すと、俺は流木に手をかけ、引き摺りながら歩き出した。
(さてと、上手くいくかな?)
思いつきを実行に移す為に。
船「解せぬ」
女戦士でさえ作中では見せなかった全裸、何故主人公がそこに至ったのか。
きっと誰特であろうサービスシーン(?)に秘められた訳とは。
次回、第三十話「全裸に至る訳(全裸注意)」――1回で終わらなくて、ごめんなさい。