「ベギラマっ」
「ギシュアアアッ」
雷光に打たれた魔物はエリザの放つ呪文に灼かれ、断末魔を上げて眼下に広がる水面へと墜ち始め。
「フシャアアッ」
「でやあっ」
騎乗中のスノードラゴンが攻撃をしかけるのに合わせて、俺もチェーンクロスを振るい、ヒャダルコの呪文を唱えようとしていた雲もどきを纏めて薙ぎ払った。
「……す、すごい」
感嘆の声を上げたのはエリザだろうか。
「お師匠様……」
「いや、すまん。大した援護など出来ないかと思っていたのは本当だぞ?」
言ってることとやってることが違いますよね的な目をしたシャルロットから視線を逸らし、自己弁護をしてみる。
(空中じゃキャッチが至難という意味合いでブーメランだって使えないし、まぁ使い捨てにして良いなら話は別だけど)
ともあれ、一番魔物を倒した形になってしまったのは、本当にたまたま雲もどきが固まって群れていたからなのだ。
「しかし、流石バラモス軍の本拠地周辺だけあるな。棲息している魔物もそれなりに強い」
鎖分銅の一振りで一掃した人間の台詞じゃありませんと言うツッコミは受け付けない。雲もどきはさておき、スノードラゴンの方は優秀な個体なら親衛隊に組み込まれる程に強い魔物なのだ。
「何より、空中戦では戦利品が殆ど獲られんのが痛いな」
倒した魔物達がゴールドやアイテムを持っていても、霧散してしまった雲もどきの死体は例外として、今頃死体ごと水底だろう。
「あぁ、そうでつね。この高さじゃ、落ちた時点で命もないでしょうし」
「やはり手懐ける方も無理か」
魔物が仲間になりたいと思った時点で蘇生呪文も効くか微妙だし、是非もない。
(とは言えなぁ)
今俺を乗せてくれている竜の同族だと思うと殺すのも微妙に後ろめたいものがあるのだ。
(ただの甘えだけど、さ)
だいたい、今までも散々魔物を屠ってきているのだから今更でもある。
「同族だし、こいつらに説得して貰えたら戦いも避けられるかもしれんと思ったが、流石にそんな甘くもなかろうしな」
どちらにしても、空中戦は実入りがないし、出来れば避けるべきだろう。
「あの岸までたどり着いたら下ろしてくれ。そこからは徒歩の方が良い。木々に隠れて魔物からも見つかりにくくなる」
「……そうですね。お願い」
「フシャアアッ」
俺とシャルロットのリクエストへ応じるように一鳴きした水色東洋ドラゴンは徐々に高度を下げ始め。
(これだけ低くなれば良いかな……って、あれは)
下を見ていた俺は、あるものを見つけドラゴンの上から飛び降りた。
「っと」
「え? お師匠様?」
竜の上からこちらの姿が消えたからだろう、シャルロットが声を上げたが、声をかける前に為すべき事がある。
「でぇいっ」
「ゴアッ」
「ガッ」
着地するなり俺が横に薙いだ鎖分銅は、地面から顔を見せていた氷の顔と腕を纏めて粉砕した。
「まぁ、飛んでいれば地上からは丸見えというわけだな。シャルロット、ここだ」
氷塊の魔物達が完全に動きを止めたのを確認してから、俺がようやく上空の弟子に声をかける。
「お師匠様、その魔物は?」
「降りてくるところを見つけて寄ってきたようだな……しかし、雪原ならともかく雪の欠片すらない場所にこいつを配置するとはバラモスも何を考えているやら」
飛び降りても大丈夫な高さであるかを見ていた俺が目にしたのは、陽光に輝いた何かだったのだが、その正体はチェーンクロスで砕かれ、バラバラの氷になって地面に転がっている。
「とりあえず、こちらが気づいたことへ気づかずに居た様だったから強襲させて貰ったが」
「確かに、草の緑の中だと目立ちますね」
「ああ。もっとも、こいつは地面に潜行出来るようだからな。だからといって油断してると足下から襲われかねん」
流石にここで敵を甘く見て失敗する気は俺にもない。
「よって、お前達はここで置いて行く……シャルロット、薬草はあるか?」
「はい、袋に常備してますけど」
「そうか。ならこいつらの傷をそれで癒してくれるか?」
ここまで運んでくれた水色東洋ドラゴン達に向き直り告げると、質問へ答えたシャルロットに回復を頼む。
「良いですけど、本当に置いて行くんですか?」
「ああ。空を飛べるのに下手に地面に居ては不覚をとりかねんし、何よりこれから向かう先には人がいる。魔物が来れば警戒もされるだろう。それにスノードラゴンが群れているだけなら、この辺りの魔物も不審には思うまい」
この水色東洋ドラゴンは元々この辺りにも棲息しているようなのだから。
「フシュオオオッ」
「すまんな。念のためにキメラの翼を預けておく、危なくなったらこれをジパングの方へ放り投げろ」
出来れば後で合流してバラモス城への再来訪にも付き合って欲しいとは思っているが、無理をさせる気はない。
「フシュウゥ」
「さてと、では行くとしよ」
そして、ドラゴンの手にキメラの翼を握らせ、出発を促そうとした時だった。
「お師匠様、どうしました?」
「いや、俺もまだまだだと思ってな」
完全に動かなくなったと思っていた氷塊の一つが、急に動き始めたのだ。
「まさか、しとめ損なっ」
「ええと、お師匠様、そうじゃないですよ。あれは――」
身構える俺へシャルロットが最後まで言い終えるよりも早い。
「は?」
むくりと起きあがった氷塊は、仲間になりたそうにこちらを見つめ、俺はあっけにとられたのだった。
やったね、ようがんまじんも仲間になれば配合してゴールデンゴーレムだ。(錯乱)
と言う訳で、愉快な仲間が増えるかも知れない主人公一行。
次回、第二百八十一話「なんと! ここまでたどり着こうとはっ?!」