「なるほどな」
表情を取り繕い、落ち着いた様を装うが、まだ少し混乱していた。
(どういう こと ですか これは?)
魔物使いの心得があるシャルロットに倒された魔物が起きあがるなら、理解は出来る。だが、じっとこちらを見つめる氷塊の魔物を倒したのは、俺の筈だった。
(シャルロットと一緒にいたからか、それとも……)
謎が残ってしまっているが、流石にこのままぼーっとしている訳にも行かないというのは解る。
「俺達と来るか?」
「ゴォ」
とりあえず、咆吼のようなモノはあげられても喋れない種族らしく、俺の提案へ返ってきたのは、首肯と短い音。
「凄いです、お師匠様……魔物使いの心得を学んだ訳じゃないのに」
「いや、その点については何で付いてきてくれるつもりになったか、俺にも解らないのだが」
流してしまうのも一つの手ではあるが、魔物使いの心得をきっちり学んだ人物がすぐ側にいるなら、ここは正直に打ち明けておくべきと判断した俺は「知らぬは一生の恥」と敢えて白状する。
「あれ? そうなんですか?」
「ああ。なるほどとは言ったが、凄いと言われるまでお前が何かしてくれたと思っていたからな」
そもそも俺が魔物を仲間にしたことなどないのだから。
(レタイト含む元親衛隊? あ、あれは会話成立した相手を無理矢理詐術にかけたようなものだから)
シャルロットの様な正規の魔物使い的な能力は皆無の筈だ。
「じゃあ、直接この子に聞いてみますね?」
「え」
だからこそ理由が知りたいとは思ったが、シャルロットの申し出に思わず素の声が漏れてしまったのは、仕方がないことだと思う。
「ええと、どうしてあの人について行こうと思ったか、ボクに教えて貰える?」
「ゴォッ? ゴッ、ゴオオッ」
「え? あーそっか」
「シャル……ロット?」
だからといって、明らかに人語を話せない魔物と会話出来るとか、勇者って俺の想像を遙かに絶するびっくり人間なのだろうか。
「ゴォッ、ゴゴッ、ゴァォッ」
「うん、それはわかるかも」
「ゴオオッ?」
「えっ? あ、違うよ。けど、いつかそうなれたら良いとは思ってるんだけど」
そして、何だか話が弾んでいたりする時、俺はどうすればいいのか。
「エリザ、あれに割ってはいるのはおそらく無粋だな?」
「えっ、あ、そ、そうですね……あの会話に殿方が入るのはちょっとオススメできないかもしれません」
「は?」
ちょっと待って下さいな、エリザさん。
「お前も何を言ってるのか解るのか?」
「あ、はい。あたし、この間まであっち側でしたから……その、簡単な意思疎通ぐらいは出来ないと、困るだろうっておばあさん達に……」
あぁ、そう言えば元バラモス軍でしたね、エリザさんってば。
「……結局、話がわからないのは俺だけか」
自分だけ話を理解出来ないと無性に気になるのですが、うん。
「す、すみません……内容が内容だけに、勝手に話しちゃうのも拙いと思いますし」
「いや、気にするな」
恐縮するエリザにそう応じはしたものの、余計に気になってしまったのは言うまでもない。
(と言うか、殿方がってことは……あのひょうがまじん、女?)
OK、落ち着こう。魔法生物に性別があったっておかしくはない。もみ上げ髭なオッサンの彫像という見た目の魔物であるうごくせきぞうが性別メスだったら、全力で抗議するけれど。
(うん、大丈夫。俺は冷静だ)
たまたま仲間になりたそうにしていた魔物の性別が異性だったくらいでうろたえていては、この先生きのこれない。脳内でおばけキノコとマタンゴの、キノコの魔物達による学園ドラマが始まるぐらいで乗り越えられるはずだ。
(そうそう「先生っ、駄目です教師と生徒でこんな……あ」「わかっている、解っているよ。おばけキノ子さん、だが君の傘はこんなに」って、学園ドラマじゃねーじゃねーかっ!)
うぐぐ、何故だ。俺の想像力、自重しろ。
「くっ」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。すまんな、努めて気にせぬ様に他のことを考えようとしたのだが……」
その結果が、放課後キノコの恋愛事情とか、混乱呪文をかけた相手を探さないといけないレベルの取り乱しようである。もっとも、何だかんだで時間は潰れてくれもしたのだけれど。
「あ、お師匠様、お待たせしました。理由聞いてきましたよ?」
「そ、そうか。それで、あいつは何と?」
がーるずとーくの終わったシャルロットへ声をかけられた俺は我に返ると、平静を装おうと努力しつつ尋ね返し。
「ええと、お師匠様があの子達……スノードラゴンの子達を大切にしてるのを見て、この人に付いていきたいって思ったそうですよ」
「ああ、そういうことか」
聞いてみれば何のことはない。原因は俺の行動だったのだ。
(それで「何故あんなに話が進んだんだ」って聞きたくもあるけど、聞いたら後悔しそうだよな、何となく)
エリザも殿方が入るのは拙いと言っていたぐらいだ、一時の好奇心で墓穴を掘ることにだってなりかねない。
(だいたい、今すべきは話の詮索じゃなくて、ほこらに行ってオーブを貰ってくることな訳で)
大切なことを思い出した俺は、氷塊の魔物と目を合わせ、言った。
「お前の気持ちはわかった。だが、俺達はこの後近くに住む人間へ会いに行く。そこに魔物のお前を同席させるのは拙いのでな、あのスノードラゴン達とここで帰りを待っていて貰えるか?」
と。
「ゴッ」
「シャルロット、回復呪文を」
会話していたから大丈夫だと思ったが、やはり人の言葉は理解出来るのだろう。頷きを返したひょうがまじんがスノードラゴン達の方へ動き始めたのを見て、俺はシャルロットへ頼む。
「わかりました、ベホイミっ」
(こういう時歯がゆいよなぁ、自分で付けた傷だけど、ここで回復呪文使う訳にもいかないし)
ベホイミならエリザも使えるだろうが、直接攻撃も出来るシャルロットと比べると、呪文以外に身を守る術のないエリザの精神力を消費させる訳にも行かない。
「想定外のハプニングだったが、これで何とかなったな。とりあえず、この先は気配を殺して行くぞ」
嘆息しつつ仲間を振り返る俺がこの後行くことになるバラモス城へ少し不安を覚えてしまったことをどうか責めないで欲しい。
「そうですね、仲間が増えるのは良いですけど、増えたら引き返さなきゃいけないですし」
「あ、ああ」
戦えば増えることを前提で同意するシャルロットの言葉に、思わず顔が引きつったことも。
「では、行ってくる」
「ゴオオッ」
「フシュアアアッ」
仲間の魔物に見送られ、再出発した俺達はその後、魔物と出会うことなく森を抜け、ほこらまでたどり着く。
「ぬ……なんと! ここまでたどり着こうとはっ?!」
「あ、えーっと、お師匠様?」
「まぁ、言いたいことは解る。お前が」
思い切りズルをしたのに、やって来た俺達を見てゲームの時同様のリアクションをしてくれた大臣風のオッサンへ後ろめたさを感じつつ、視線をくれたシャルロットへ首肯してみせると、そのまま用件を切り出そうとし。
「そなたらならきっと魔王を滅ぼしてくれるであろう! さあ! このシルバーオーブを受け取るがよい!」
我に返るなり、銀色の竜像という台座ごと宝珠を差し出してきたオッサンの声にかき消されたのだった。
マージマタンゴ「いけませんな、マタンゴ先生」
マタンゴ先生「教頭先生?!」
マージマ教頭「なんと言うことをしてくれたのです。これは戒告処分や休職では済まされませんよ? フルパワーによるお仕置きを覚悟するのですね……」
ゴゴゴゴゴ……
マタンゴ先生「な、何て戦闘力だ……」
マージマ教頭「ちなみに、私のモンスターレベルは14です」
「放課後キノコの恋愛事情・この先生キノコれない」は主人公の脳内で好評連載中!
次回、第二百八十二話「人員が増えたので」
城まで移動はルーラ、たぶん。