強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百八十三話「発泡型潰れ灰色生き物」

 

「お師匠……さま?」

 

 だが、シャルロットが声をかけてくれたから、茫然自失の態だったのは、ホンの刹那の間。

 

「シャルロット……左手の動く石像の群れの足下、滑る様に走っている灰色のモノが見えるか?」

 

「えっ、灰色の? それって」

 

「ああ、はぐれメタルだ。おそらくあの石像共の出撃に予期せず紛れ込んで流されてしまったのだろうな」

 

 俺の声で慌てて言及した場所へ目をやるシャルロットへ推測を口にした俺は、まじゅうのつめを右手から外して腰にぶら下げると、自由になった手を差し出す。

 

「ほのおのブーメランを」

 

「あ、はい」

 

 地面の上なら使うのを自重する理由はない。まして本気を見せつけるかの様な数の敵が視界の前面を埋め始めたとあっては、尚のこと。

 

「さて、シャルロット。あのはぐれメタル、後ろのスノードラゴン達と協力すれば手懐けられるか?」

 

「お師匠様、流石にそれは厳し」

 

「俺が残りの魔物を全て引き受けるとしたら、の話だ」

 

 質問の途中で早合点した様だったので、敢えて言葉を被せてちらりとシャルロットを見やる。

 

「あれを、全部?」

 

 呆然としていた、無理はないが、俺は不可能だとは思っていない。

 

「作戦は、こうだ。俺は突撃しながら敵を駆逐し、城門を抑える。そこで、うごくせきぞうの増援をとめつつ、城門から出ようとする魔物と上を通り抜けようとする魔物を迎撃する」

 

 城門前で激しい戦闘をしていれば、臆病な性格の発泡型潰れ灰色生き物が近寄ってくるとは思えない。あとは俺の討ち漏らしによる攻撃に逃げ込む場所を失った標的をシャルロット達で潰れ生き物の様に倒すのだ。

 

「あの早さでは補足するのも骨だろうが、お前達には数の利がある。俺が痛手を与えた敵を倒し、手懐けられれば補足に回す人員も増えるだろう」

 

 ブーメランは広範囲の敵を纏めて攻撃出来る優秀な武器だが、当たるごとに威力が減退する。いくら俺の攻撃でも一度目では仕留め損なう魔物も少なからず出るのは否めない。

 

(本当なら、仲間を増やすのは避けたいところだけど)

 

 発泡型潰れ灰色生き物ことはぐれメタルのお持ち帰りが最優先だ。

 

(倒しても起きあがるのなんてごく一部だろうしなぁ)

 

 油断が禁物なのは解ってるが、氷塊の魔物だって起きあがってきたのは一体だけ。石像も東洋風ドラゴンも既にジパングという新天地である程度馴染み始めた魔物だ。新種ではないのだから、少しぐらい数が増えても問題ないと思う。

 

「本気……なんですか?」

 

「シャルロット、せっかくの好機なのだ。それに、俺としては新しく加わった仲間が減るのを見たいとは思わん。それに、乱戦になった場合後ろにいるスノードラゴン達と前の同族を見分ける自信が俺にはない」

 

 視線を弟子から前方に戻して続けるが、単独で動こうとしているのにはもう一つ理由もある。

 

(シャルロットが側にいると、こっそり補助呪文かけるのが難しくなるからなぁ)

 

 守備力をスカラの呪文で最大まで引き上げれば、うごくせきぞうに関してはまぐれ当たり以外は怖くない。

 

(ドラゴンの方のブレスは厄介だけど、そっちは優先して叩けば良いし)

 

 そもそも、全部を倒そうとする必要も皆無だ。

 

(成功条件は、シャルロットが標的を仲間にすること。そこまで耐え切れれば、後はルーラで逃げればいい)

 

 こんなこともあろうかと、ルーラのいい訳用にキメラの翼は用意してある。

 

「お師匠様……」

 

「フシュルルゥ」

 

「ゴォ……」

 

「良いかお前達、作戦は『いのちだいじに』だ。危なくなったらシャルロットかそこの猛禽に癒して貰え。シャルロット、最悪の場合、お前に渡してあるあれの使用も許可する」

 

 複数の視線を感じながら告げ、答えも反応も待つことなく、俺は歩き出した。

 

「お師匠様っ」

 

「すまんがシャルロット、お前と話をしている余裕はもう無い。どうやら、向こうも待ちかねていたらしいのでな」

 

 魔物達にしても、俺が単独で向かって来るのは想定外だったのだろう。一瞬動きがとまっていたものの、立ち直りはかなり早く、シャルロットの声が背にかかった時点で魔物の軍勢は再び動き始めた。

 

(さてと、じゃあ……始めるとしますかね)

 

 身体を前に傾け、飛び出す姿勢を作ると、まず右手に持っていたブーメランを空へと投擲する。

 

「行くぞっ」

 

 命の惜しい者は退けと一喝することも考えたが、いの一番にはぐれメタルが城に引っ込みそうだったから自重した。

 

「「ギャアアッ」」

 

「「フシュオアアアッ」」

 

 断末魔を上げ、ブーメランの軌道上に居た水色東洋ドラゴン達の両断された骸が空から降り注ぎ。

 

「ゴアッ?」

 

 一緒にびちゃびちゃと振りまかれたドラゴンの血に足を取られたもみ上げ髭の石像が、傾いで転倒する。

 

(大丈夫だ、俺だって無策で突っ込んだりはしない)

 

 死した魔物の骸は消滅しない。ならば、それさえ、使いようによっては相手の行動を阻害させる即席の罠として作用する。

 

「お次はこいつだ、でやあああっ」

 

 ぬかるみが出現し、足下がおぼつかなくなった石像達目掛け、脛あたりを狙った横一線に鎖分銅を俺は振るった。

 

「「ゴォォッ」」

 

「「オォォォォッ」」

 

 足を破壊され、あるいは衝撃で踏ん張りの効かなくなった石像達が、泥濘に倒れ込み、起きあがろうと軋ませる身体は、一時的な敵からのバリケードへ早変わりする。

 

「悪いな、そのでかい図体、利用させて貰った」

 

 ドラゴン以外の攻撃は直接攻撃。近寄らせなければ痛恨の一撃だって受けようがない。

 

「破壊されたく無ければじっとしていろ。お前達とて無能な上司のせいで犬死にするのは、本意でなかろう?」

 

 魔法生物っぽい連中にこの手の説得が効くかにはやや疑問が残るが、新しく加わった氷塊の魔物の一件もある。

 

(さてと、次だ)

 

 とりあえず、何体かはしとめたが足止めだけではシャルロットの方に残りが向かって行きかねない。

 

(シャルロット、うまくやってると良いが)

 

 そも、一応眼前の敵は足を封じたが、左右や上空から魔物が迂回してくる可能性だって残されているのだ。視線をやって

確認する程の余裕はいくら反則的なスペックを誇るこの身体にもなかった。

 

(せめて攻撃呪文が使えたら、なんてのは言っても仕方ないしなぁ)

 

 俺に出来るのは、ただひたすら敵戦力を削ることだけだった。

 




主人公無双? いいえ、ドラクエだからきっとヒーローズです。

と言う冗談はさておき、単騎でおっ始めてしまった主人公。

そのまま千人斬りでも目指すつもりか。

次回、番外編19「ボクのすべきこと前編(勇者視点)」

ちょっと本気出しちゃった主人公の裏側で、シャルロットは――。
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