「あ」
ボクが間違っていたことは、すぐに判明した。お師匠様が投げつけたほのおのブーメランがどういう物なのかは、自分の分もすごろく場のお店で購入したから知っている。かなり強力な武器ではある、ただボクが投げてもああはならないことも。
「……お師匠様」
よくよく考えてみれば、お師匠様が本気で戦っているところを見たことは殆どなかった気がする。
(ごめんなさい、お師匠様)
ボク達の為に自分を犠牲にするんじゃってホンの少しでも考えた自分を恥じた。お師匠様は、勝算があって一人で敵陣へ突っ込んで行かれたのだ。一度に何匹ものスノードラゴンを屠り、その血さえ利用して動く石像達の足を止めたのを見れば、解る。
(ボクもまだまだだなぁ)
同時に、もしボクがお師匠様の加勢に向かったとしてもかえって邪魔にしかならないことまで解ってしまった。
「あ、あの、シャルロットさん?」
「あ、うん。ゴメン。あれだけの魔物を引き受けて下さったんだから、ボク達もお師匠様の期待に応えないと駄目だよね」
エリザさんの声で我に返ると、頷いて振り返る。
「お願い。みんな、ボクに力を貸して――」
「しゃ、シャルロットさん?!」
期待には応えたい、けど一人じゃたぶん目的は果たせない。だから、ボクが始めにしたことは頭を下げること。
(ごくらくちょうのくーちゃんはともかく、ひょうがまじんのひょうかさんもスノードラゴンのみんなもボクを慕って着いてきてくれた魔物じゃないし)
ひょうかさんの方は、おしゃべりである程度親しくなったつもりはあるけど、ひょうかさんの主人はお師匠様だ。
(勘違いしちゃいけないよね)
ボクはあくまで主人の意向を受けたあの子達に協力して貰ってるだけ。
「一歩間違えば命を落としかねない危険と隣り合わせの状況だから、ちゃんとしておかないといけないと思ったんだ。今回だけで良いから、ボクの指示に従ってくれる?」
「ゴオオ」
「っ」
答えを待つ必要さえなかった。じっとこちらをみていたひょうがまじんのひょうかさんはすぐさま首を横に振る。
「ゴオオッ。ゴッ、ゴォ? ゴッ、ゴオオッ」
「あ」
ただ、落胆するのも浅慮だった。今回きりとは水くさい、私達もう友達なのですよ。そう言ってくれたひょうかさんは続けていったのだ。
「さ、何でも言って」
と。
「フシュアアアッ」
「シュオオオッ」
「えっ、あ、ええと……ボク、まだそう言うのじゃ」
少し遅れたスノードラゴンのみんなの方は、少しリアクションに困ったけれど。
(「あの方のつがいなら、我らの主人も同じ」って……)
お師匠様は魔物の言ってることが解らないみたいだけど、みんながこういう見解なら期待しても良いのかな。
(そう言えば、ひょうかさんも最初にお話しした時、聞いてきたよね)
お師匠様にお似合いの人だって見て貰えてるなら照れるけれど、嬉しい。
(けど、今は――)
考え事をしてる時じゃない。
「ありがとう、みんな」
協力してくれた子達の為にも、はぐれメタルを仲間にするんだ。
「それじゃ、飛べるみんなはスノードラゴンに注意しながら空からはぐれメタルを追跡して。ボクとひょうかさんも手負いになってる魔物の数を減らしながら追いかけるから」
もし、仲間になってくれる魔物がいればこちらに加わって貰い、最終的にはエリザさん達とボク達とで挟み打ちにする。
「大丈夫、お師匠様がヒントをくれたから」
ボクにも作戦が出来た。
「行こう。お師匠様が、抑えてくれてるうちに」
「わ、わかりました。そちらもお気を付けて」
「クエーッ」
ボクが視線を戻せば、エリザさんの返事の後にくーちゃんが鳴き。
「フシュアアアッ」
「シュオオオオッ」
スノードラゴンのみんなも挨拶する様に吼えてから離れて行く。
「ひょうかさん、もし動く石像がやって来たら足下を息で凍らせて」
「ゴオッ」
お師匠様は敵の血でぬかるみを作っていたけれど、流石にあれは真似出来ない。ただ、こちらには仲間が居る。
(ひょうかさんに氷のブレスは効かないし)
相性を考えて立ち回れば、道は開ける。ボクは倒れた仲間を迂回する形でお師匠様へと寄って行く魔物達を視界に収めながら走り始めた。
「ほら、どうした? 人間一人捕まえられんのか?」
(やっぱり)
そして、魔物を挑発するお師匠様と、横たわる魔物達の位置を見て、理解する。
(お師匠様、魔物をこっちから遠ざける様に動いてる)
結果として、瀕死や大きな負傷、損傷を受けて動けない魔物と血のぬかるみだけがボクの目の前に取り残されていた。
「フシュォアアッ」
「フシュウゥ」
「グゥ」
威嚇するもの、ボクの姿を見て絶望するもの、もはや虚ろな目に殆ど何も映していないもの、どれもがもう戦う力の残されていない魔物であることは明らかで、きっとこれもお師匠様の狙い通りなのだろう。
「イオラっ」
手を突き出し、呪文を唱える。
「グギャアアッ」
「ゴアアアッ」
生じた爆発が、起きあがりお師匠様の方へ向かおうとしていた「負傷度の軽い」魔物達を吹き飛ばす。
「……そのままでいいの?」
命を盾に言うことを聞かせるというのは、卑怯だと思う。けど、このまま放置してもその子達は命を落とすだけだったから、ボクは言う。
「選ばせてあげる。そのまま、息絶えるか、ボクと行くかを」
冷酷に二択を強いながら、答えを待つ。らしくないのは解っているつもりだったけれど、従うつもりのない子達まで助ける余裕がないのも確かだったのだ。
あんな感じで、仲間モンスターの何割かは既にシャルロットを主人公のつがいと認識してたりまします。
個体によってはクシナタ隊もひっくるめてハーレムのボスだと認識しているものも。
基本的にそう言う思考をしてるのは、人語を話せないドラゴンとかが中心ですけどね。
次回、番外編19「ボクのすべきこと後編(勇者視点)」