強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百八十四話「で、俺はどこから突っ込めばいいんだ?」

 

 突如前方の城から魔物が空高く舞い上がった時、俺は虚を突かれた。慌てて追いかけ、黄緑色のローブを纏ったそいつらがシャルロットへ襲いかかる前に何とか倒すことには成功したのだが、あれには本当にヒヤヒヤさせられた。

 

(と言うか、キメラの翼でこっちの頭上を飛び越えるとかいったい何処の誰が思いついたのやら)

 

 バラモスが想像以上に残念だったせいで敵を侮りすぎたのかも知れない。それについては、俺のミスだ。猛反省せねばならないとも思う、ただ。

 

「これは……一体、何がどうなった?」

 

 黄緑ローブの一団を倒したところで敵の攻勢が弱まり、それどころか大半の魔物が潰走し始めたので、ようやく他所へ目をやる余裕が出来た。ここまでは良い、そして無事シャルロット達と合流出来たのも重畳だろう。

 

「え、ええっと……」

 

 正直、説明して欲しかった。明らかに息絶えた発泡型潰れ灰色生き物数匹の骸と、叱られた子犬の様に小さくなっている数頭の水色東洋ドラゴン、目を泳がせるシャルロットとその後ろに控える魔物の集団。

 

「あ、あの、あの子達を許してあげて下さい」

 

 罪状さえ明らかになってないのに、弁護を始めてしまったエリザさん。

 

「あなたは誰と戦って居るんですか、法廷的な意味で」

 

 とか一瞬ツッコミたくなったが、自重してもう一度問う。

 

「何があった、シャルロット? はぐれメタルの件もだが、お前が後ろに従えている魔も」

 

「シュアゥゥゥ……」

 

「ゴオ、オ……」

 

 問いかけながら、後ろの魔物達をちらりと見たら、怯えられた。

 

「あ、みんな大丈夫だから。お師匠様は仲間にはやさ……優しい人だから」

 

(や、さっきまで散々同胞屠っていたから仕方ないと言えば仕方ないってのは解ってるんだけどさ)

 

 なんで一瞬言葉に詰まるんですか、シャルロットさん。

 

(あるぇ? ひょっとして……最初に助けた時に胸を触ったこととか色々気づいたとか?)

 

 いや、だがあれはルイーダさんとかが密告でもしない限りシャルロットは知りようがないはず。

 

(待て、ここで決めつけるのは危険だ)

 

 何か付け加えようとして撤回した可能性もある。

 

(……って、そんなことを考えている場合かっ)

 

 優先すべきは、状況確認だ。

 

「エリザ、説明して貰えるか? シャルロットは魔物を宥めるのに手一杯のようだからな」

 

 これで俺が魔物の言いたいことを理解出来たらとなりにいる氷塊の魔物へ聞くのだが、是非もない。

 

「あ、はい。その、この子達も悪気があった訳じゃ無いんです。その――」

 

 前置きで再び水色東洋ドラゴンを庇いつつエリザは説明を始め。

 

「なるほどな」

 

 とりあえず、追いかけつつの牽制でうっかりやっちゃったというか、速度が付きすぎてた発泡型潰れ灰色生き物が手の込んだ自殺に走ったところまでは理解した。

 

「「フシュオ」」

 

「いや、事故は誰にでも起きうる。それを咎めるつもりはない」

 

 いくら言葉がわからなくても、状況と態度を見れば鳴き声が許しか断罪のどちらかを請うものだということぐらいの見当はつく。

 

「それに、まだ手はあるからな。シャルロット、この骸の氷をベギラマで溶かせるか?」

 

「で、お……様は……て、あ、まだそう言う……ゃないん……えっ? あ、はい。けど、どうするんです?」

 

 魔物とお話し中に呼んでしまうことになったが、そこは勘弁して貰うしかない。

 

「先程倒したエビルマージが、この世界樹の葉を持っていた。すりつぶして与えるとザオリクの呪文と同じ効果があると聞く。あとは……わかるな?」

 

「そっか、後ろの子達にこのはぐれメタルの名前を知ってる子がいないか聞いてみて、名前を呼びかけつつその葉を使って貰うんですね」

 

「正解だ。倒したエビルマージは複数居たからな。俺は引き返して死体を漁ってくる。葉が複数手に入れば蘇生の可能性もあがる」

 

 ゲームでは魔物が魔物にザオリクを使っても蘇生が叶った。同じ条件が働いているなら、シャルロットの後ろにいた魔物が使うことで、俺達の仲間ではない発泡型潰れ灰色生き物が生き返る可能性はある。

 

「まぁ、絶対という訳ではないけどな」

 

 そう言いつつ、肩をすくめて踵を返そうとした俺は。

 

「フシャアアッ」

 

「ぐおっ?!」

 

 背中にいきなり感じた衝撃を感じ、次の瞬間には視界一杯に地面が迫っていた。

 

「っ、何のつも」

 

「シュフシュオオオッ」

 

 跳ね起きて身構えた俺は詰問しようとして言葉を失う。俺を転ばせたと思わしき水色東洋ドラゴンは必死な様子で俺の足にすがりついてきたのだ。

 

「「あ……」」

 

「……そう言うことか」

 

 その鳴き声の意味を察したらしく、女性二名が声を上げるが、シャルロット達の表情と、自分が何をしに行こうとしていたかで、だいたいのことは察した。この場にいた魔物と言うことであれば、俺は同胞の仇だというのに、ドラゴンの瞳にあったのは敵意や憎悪以外の何かだったのだから。

 

「生き返らせて欲しい者がいる、と言うことだな?」

 

「はい、お師匠様。この子の親がさっきの戦いで命を落としていて……」

 

「ふむ。……一応聞いておくが、シャルロット、お前の精神力は?」

 

 たぶん蘇生呪文のザオラルを行使出来る程残っていないのだとは思うが、敢えて聞く。

 

「すみません、緊急脱出用にルーラが一度唱えられるかどうかでつ」

 

「いや、すまんな、意地の悪いことを聞いた。そうなってくると、救える者の数は最大でも世界樹の葉の数か」

 

 俺自身がザオリクを使えば別だが、シャルロット達の前で使う訳にもいかず、そもそもシャルロットかエリザの通訳を解さないと助ける相手の名を知る術がない。

 

(はぐれメタルなら当てずっぽうで呼んでみるという手もあるんだけどなぁ)

 

 それとも、追加で葉を見つけたら蘇生を試してみると言う名目で先に名前を聞き出し、葉を探しに行くふりをしてこっそり蘇生呪文を使うか。

 

「……というわけだ、こちらにも事情はある。あまり期待するなよ?」 

 

「フシュオオオッ」

 

 こちらの言葉がわかっているのか、解っていないのか。嬉しそうに鳴いたと言うことは人の言葉は理解している方だと思う、ただ。

 

「ちょっ、だ、駄目」

 

 水色東洋ドラゴンの鳴き声を聞いた直後、シャルロットが血相を変え。

 

「ところで、エリザ。さっきの鳴き声だが……」

 

 嫌な予感がした俺は水色の身体に抱きつかれたというか巻き付かれたまま、通訳を求めた。

 

「あ、えっと……」

 

「何故そこで言葉に詰まる?」

 

 嫌な予感が更に増し行く中。

 

「フシャオ?」

 

「え、駄目な理由? そ、それは、ええっと……」

 

 俺はシャルロットとドラゴンのやりとりを聞きつつ密かに祈る。また変な墓穴を掘っては居ません様に、と。

 




迎撃の魔物を退け、状況を大まかに把握した主人公。

はぐれメタルを蘇生させる為、あちこちへ骸の転がる戦場へと戻る。

次回、第二百八十五話「たたかいのあとに」


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