「とにかく、離れて貰えるか? これでは世界樹の葉を探しにいけん」
巻き付いてきていた水色東洋ドラゴンにはそう言って、離れて貰った。
「さてと……」
グロい死体を漁らなければいけないというのは、精神的にきついものがあるがこれも自分がまいた種。
(こんな時カナメさんが居てくれたら……って、よく考えると俺はカナメさん達に毎回そんなことをさせていたのか)
今頃になって自分の至らなさに気づくものの、詫びるべき人はここにいなくて、目の前にあるのは血と土で出来た泥濘に横たわる幾つもの骸。
「確かあの辺りだったな……あれか」
黄緑色のローブが草と同化して見つけにくいかとも思ったが、何のこともない。毒々しい血の色が血に汚れていないローブの色を際だたせていた。
「……っ、これはまた」
歩み寄れば、モザイクがかかってもおかしくないような光景であることが解ってきたものの、この場にいる盗賊は俺一人だ。
(とりあえず、この連中の中に女性が居なかったのは救いかな)
シャルロットが危ないと思って咄嗟にブーメランを投げたから、あの時は性別がどうこうなどと考えている余裕はなかった。
(明らかにバラモス派の魔物だろうから、レタイト達の友人とかは混じっていないと思うけど)
親衛隊の誰かに着いてきて貰っていれば、味方に引き込んで死者をもっと減らせただろうか。
(いけないいけない、「~たら~れば」は禁物だよな)
そも、知り合いが居たなら蘇生呪文のザオリクで生き返らせると言う最終手段もあるのだから。
(レタイト達の友人なら、勇者一行ってギリギリこじつけられるレベルの筈)
一定以上の遺体が残っており、相手の名前が解っていて、勇者一行に所属していることの三条件をクリアしていればいいのだ。
(聞くだけなら割と万能そうにもとれるなぁ。……ただ)
ほこらの牢獄で救えなかった人、おばちゃんの旦那さんと言う前例もある。それに、はぐれメタルを確保しに来た理由の大元である竜の女王は蘇生不可能なことも解っている。
(そりゃ、全てを救おうなんて烏滸がましかったり傲慢だったりするんだろうけど)
些少インチキをしてでも救いたいと思ってしまう俺が居た。
「ん? とりあえず一つめか。……しかし、こいつらは何故、これを持ってるのやら」
やはり倒された仲間を生き返らせるのに使うのか。
「の、割には逆に仲間を殺していたな」
今懐を漁ってる黄緑ローブの魔物達が名乗ったのは、督戦隊だったか。
「まぁ、死兵と言うか退路を断たれた兵を作ると言うところまでは確かに効果的だったかもしれん」
俺に対してだったら、無駄な被害を増やすだけに終わっただろうが、この黄緑ローブ達の狙いはおそらくシャルロットだった。
(シャルロットがギガデインまで使えれば、結果も変わっていただろうが……いや)
倒れた魔物達の中、どれが味方でどれが敵か解らない状況下で範囲攻撃呪文を撃とうとしたら、シャルロットの性格なら、躊躇うか。
「まさか、そこまで考えていたとでも……」
こちらを一度は出し抜いてくれた相手だ、知恵が回るのは間違いない。
「なら、甘く見る訳にはいかんな」
野戦でこれだけの策を練ってきたのだ、城の中はどうなっていることやら。
「まぁ、敗走して城に逃げ込んだ連中が侵入者撃退用の罠に引っかかって全滅とかしていたら『やっぱりただの馬鹿だった』でいいかもしれんが」
流石にそこまでベタなオチが待っているとは思えない。
「……ふむ、これで二枚目か」
考え事をしていても、身体はきちんと動いてくれているらしい。
「もう少し手に入るかと思ったが」
ゲームで言うところの落として行く確率はかなり低いのだろう。調べ終えた印の付いた死体はもう半数を超えていた。
(これはこっそり蘇生呪文コースかなぁ、うん)
もしくは、シャルロットに精神力を回復して貰ってザオラルを唱えて貰うか。
(世界樹から一度に摘めるのは一枚だけだったし)
お一人様一個限りの特売へ家族でばらけて人数分確保する様にシャルロットの手懐けた魔物の団体さんに一体一枚のノルマで収穫して貰うと言う手もあるが、収穫して戻ってきた日には、この辺りの死体も鳥や獣に荒らされたり、虫が集ったりして更に酷い状況になって対面しかねない。
(やはり、一応ザオリクをまず試してみるか)
葉が沢山手に入ったらその場で試してもみたいからと理由をでっち上げて、あの巻き付いてきたドラゴンの親については名前を聞いてある。
「駄目なら駄目で、その時だな」
悩んでいたところで時間の浪費でしかないことは解っていたのだ。
「シャルロットの話では、身体を両断されたスノードラゴンだった筈……と、なると」
黄緑ローブの死体から離れ、シャルロットが手当を行っていたらしい場所まで移動して、俺は周囲を見回した。
「なんと、やくそうを見つけた! ……って、違う」
余程大変な状況だったからか、それとも手当に向かおうとしてあの督戦隊に攻撃された魔物の手から落ちたのか、あちこちに転がるのは、焦げたり血に汚れた薬草達と倒れ伏すいくつもの骸、そして石像の残骸。
「石像はさておき、これも割と骨だな」
ほのおのブーメランは地面と平行に飛ぶ。つまりは、俺のブーメランで即死もしくは致命傷を負った水色東洋ドラゴン達はだいたいが上半身と下半身という形で両断されて事切れていたのだ。
「総当たり、はきついモノがあるな。となると、ヒントはシャルロットに縋ったと言う点か」
薬草の分布から最初にシャルロットの居た場所を特定し、付近のスノードラゴンに絞れば、効率も上がるはず。
「と言う訳で、レミラーマッ」
俺が呪文を唱えた瞬間、周囲のあちこちが光った。
と言う訳で、死体漁りのお話でした。
次回、第二百八十六話「はぐれメタル」
子スノードラゴンの親も蘇生させられるといいなぁ。