「ふむ、おそらくはこの骸で間違いなかろう」
薬草の位置からだいたいの見当を付け、立ち止まった足下に横たわるのは水色をしたドラゴンの骸が一つ。
(さてと、あとはシャルロットが何をしているか、だなぁ)
こちらを注視されていたのでは、世界樹の葉ではなくザオリクの呪文を使ったことがバレる可能性もある。
(あ、居た……って、やっぱこっち見てるか)
魔物の骸以外遮蔽物のない場所なのだ、見晴らしはもの凄く良い。
「ん? あれは丸か?」
よく見れば、こちらに視線をやるシャルロットは、両手で大きな「○」を作っている様に見えた。
(そっか、この死体で正解と……)
教えてくれるのはありがたいが、この状況はありがたくない。
(うーむ)
諦めて世界樹の葉の方を使うか、それとも開き直って呪文を使ってしまうか。
「いや、もう一つあるな……よし」
俺は水色東洋ドラゴンの骸に目印を付け、踵を返した。何もせず帰ってくる俺に丸を作ったままのシャルロットが驚いている様に見えるが、まぁ当然だろう。
(何もせず戻ってくるんだもんな)
だが、これにも理由はある。
(シャルロットの視線が邪魔なら、こっちに注意する余裕をなくしてやればいい……何でこんなことにもっと早く気づかなかったのやら)
要するに、世界樹の葉をシャルロットに一枚渡し、こっちが蘇生を試みている間、発泡型灰色生き物の蘇生を試していて貰おうと言う訳だ。
(そもそもそっちがメインな訳だし)
俺が蘇生を試すまでの時間を無駄にする必要はない。
「どうされたんです、あの子の親は」
「ああ、そのことで少し、な。とりあえず手に入れられた世界樹の葉は二枚だけだった。想定より手に入らなかったが、この内一枚を先にお前へ渡しておこうと思ったのが一つだ。ほら」
声の届く距離まで来て、質問してきたシャルロットへ説明しつつ、戦利品を見せ、うち一方を差し出す。
「これが、せかいじゅの……は」
「俺がこいつを使う間を無為に過ごすことはない。そっちでも蘇生を試みておいてくれ……あ、残ったはぐれメタルの死体も埋葬したりしないようにな。アンの元に運べば蘇生出来るやもしれん」
暫く前に別れたっきりで、ほこらの牢獄での一件から立ち直っているかも定かでないが、スレッジは魔法使い。俺が他人に成り済ましてザオリクを使うにはまた偽りの姿を考える必要があるし、その間不在になると言う問題を解決しないかぎり実行にも移せないのだから、是非もない。
「そっか、あの人も居たんでしたね……」
「あ、ああ。別れる時、一人にして欲しいと言って居たからな……頼りに行くのも少々気が引けるが、教会の神父に頼る訳にもいかんしな」
流石に怒られるとか言うレベル以前に拒絶されるんじゃないかな、と思う。
「一応お前の精神力が回復するのを待つという選択肢もあるが」
「流石に時間がかかりすぎますよね。それにザオラルは失敗もしますし」
「ああ」
そもそも発泡型潰れ生き物側は敵モンスターの蘇生というケースだ。こじつけ理由が弱いからシャルロットに従った魔物が世界樹の葉を使う場合でなければ、成功率はさらに低くなると思う。
「わかりまちた。それじゃ、ボクもやって貰ってみます」
「頼むぞ。ただ、相手ははぐれメタル……生き返った直後、事情説明さえ出来ないまま逃がさんようにな?」
とりあえず、上手いこと希望に近い展開へ持って行けたことに安堵しつつも、俺は一つ気がかりを覚えて釘を刺す。
「あ、はい。それじゃ、みんなに壁になってもらった中で試してみようと思いまつ」
「そうか、それなら安心だな……ん? シャルロット、それは?」
シャルロットの答えに安堵しつつ今度こそ踵を返そうとした俺は、シャルロットが見慣れぬ板を袋から取り出しているのを見つけ、思わず問うた。
「え? あ、これですか? 携帯用の折りたたみ棺桶の部品です。組み立てて、残ったはぐれメタルの死体を入れようかなぁって」
「か、棺桶……か」
ゲームで死亡したキャラクターが棺桶のグラフィックに変わるのだが、まさかこんな形で反映されているとは想定外である。
「はい。自分が入る可能性もあると思うと複雑なモノがあるんですけどね」
「そ、そうだな」
困った様に笑うシャルロットへ応じる自分の顔が引きつってないと良いのだけれど。
「すまん、つまらないことを聞いた」
「いえ、お師匠様もあの子の親のこと宜しくお願いしますね?」
「ああ……出来る限りのことはしてみるつもりだ」
一応子ドラゴンが仲間になっている分、発泡型潰れ生き物と違って俺の呪文でも対処は可能なはず。
(うまく行けば、世界樹の葉を一枚ストックだって出来るし)
悪くはない。
「ではな、シャルロット。そっちも上手くやれよ」
軽く手を挙げて弟子に背を向け、歩き出した俺は、そのまま歩き出した。釘も刺したし、シャルロットなら大丈夫だろう。
「うみゃあああっ」
「な」
思った矢先に悲鳴があがるなどと、誰が予想するだろうか。
(くっ、甘かった。何処かで様子を見ていた魔物が居て俺が離れたのを好機と見たのか)
悲鳴が上がった直後、即座に振り向いては見たのだが、悲鳴の主は魔物で作られた壁で見えず。
「嫌っ、あ」
(シャルロットが悲鳴をあげてるのになんでじっとして……いや、隙間なく積み上がってるせいで、下手に動けないのか)
想定外の状況に焦る気持ちを心の冷静な部分で御しつつ、俺は魔物の壁をにらみつけたまま駆け出した。
「無事で居ろよシャルロット」
この身体のスペックなら、大した時間はかからない。問題は中のシャルロットが無事かどうかだ。
「駄目っ、奥まで入ってこないでぇっ」
「え、奥? 入る? あ」
前のモノと比べて何処か艶っぽい悲鳴に一瞬気をとられた俺は、足下に転がっていた石の小指に思いっきり足を取られ。
「がべっ」
本日二度目の転倒をしたのだった。
途中で書き直し。おそくなりまして、すみません。
次回、第二百八十七話「発泡型潰れ生き物」