強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百八十七話「発泡型潰れ生き物」

 

「い、生き返ったはぐれメタルがシャルロットさんの鎧の中に」

 

「あ、あぁ……声からしてそんなことだろうとは思った」

 

 気が付けば自分を殺した魔物達に囲まれて逃げ場がない、そんな状況に置かれた発泡型潰れ灰色生き物がパニックに陥りながらも何処かに隠れようとした結果が、エリザの語る状況なのだろう。

 

(けどさ、メタル系モンスターって、かならず せくはら しなきゃ いけない ルール とか が そんざい するんですか?)

 

 下着を被って走り回った灰色生き物も酷かったが、タチの悪さで言うならこっちが上だ。

 

「しかし、この状況……俺が手を出すわけにもいかん」

 

 鎧の中に入ったなら、方法は限られてくる。

 

「追い出すか、引きずり出すか、誘き出すか――もしくは鎧自体を脱がせるかぐらいしか思いつかんが、どれも……な」

 

 男の俺が手助けしたら社会的に死ぬのは間違いない。

 

「すまんが、シャルロットの救助を頼めるか?」

 

「え?」

 

 俺がシャルロットなら、異性にそんな姿は見せたくないし、声を聞かれていた事を知っただけでものたうち回りたくなると思う、と言うか何というか。

 

「ふぇ? あ、ちょ、ちょっと、そ、そこは」

 

(うん、今すぐ全力で逃げ出したい)

 

 これはフラグだ。時々ポカをやらかす俺でも解る。師匠がこの場に居たことを後でシャルロットが知って、凹むか荒れるか、ともかく一波乱訪れるのだろう。

 

「お前がシャルロットだったとしたら、俺にああいう状況にあったことは知られたくあるまい? 異性が出て行くと拙い以前に、俺がここにいたことをシャルロットへ悟らせることも拙いのだ。俺は気づかなかったことにして親スノードラゴンの蘇生を試みに戻る」

 

 しゃるろっと の うわずった こえ に うしろがみ を ひかれる こと なんて ない。

 

「んぁ、やっ、やぁっ」

 

 思わず耳で声を拾ってしまう何てことはなかった。

 

「……頼んだぞ」

 

「あ、ちょ、ちょっと」

 

 エリザは何か言いたげだったが、こちらにも譲れぬモノがある。

 

(まぁ、あの発泡型潰れ灰色生き物に関しては、マリクの相手が終わったらジパングでスノードラゴンハーレムでも楽しんで貰うけど)

 

 シャルロットにあんな事をしたのだ、報いは当然受けさせる。その前にボロ雑巾の様になるまでこき使ってやるつもりだが。

 

(はぐれメタルとの模擬戦が出来れば、勇者一行やクシナタ隊も大幅に強化出来るもんなぁ)

 

 効率を考えるなら、しとめたはぐれメタルは全て蘇生を試して数を揃える必要があるが、仲間になった魔物を率いて世界樹へ出かけ、一人一枚葉を摘ませれば、多分おつりが来る。

 

「一つだけ不本意な点を挙げるとしたら、城への侵入計画がおじゃんになったことだな」

 

 対策を完全に立てられた訳でなく、行き当たりばったりの感は否めないが、それでも身構えては居たのだ。

 

(肩すかしを食らったというか、何というか)

 

 今回は、いろんな意味で想定外の方向へ転がりすぎた。

 

(クシナタさん達と再会したら何と言われることやら……その前におろちか)

 

 あんなに多くの魔物をゾロゾロ連れ歩ける訳がない。何処かに預けるしかないだろうが、イシスの格闘場へ預けるのはいささか拙い。

 

(イシスを襲ったのと同種の魔物を大量に預けに行くとか、嫌がらせ以外の何だって話だし)

 

 同族が多く、国主も魔物のジパングと比べれば、ジパングの方に軍配が上がる。

 

(このネクロゴンドも山地が多い土地だからなぁ)

 

 水色東洋ドラゴンにしても、昼間はとことん暑くなる砂漠とこの地に地形の似たジパングのどちらで暮らしたいかを選ばせれば、後者を選ぶと思うのだ。

 

(まぁ、発泡型潰れ灰色生き物には選択権なんて与えないけどな)

 

 別に羨ましいからとか妬ましいからとか、そんな理由ではない。あいつにはマリクの模擬戦相手をやって貰わなければ困るのだ。

 

(その為にわざわざバラモス城まで来たんだからな)

 

 俺に倒された城の魔物は、ある意味酷いとばっちりだったかも知れないが、向かってきたのはあちらなので、その辺りは諦めて貰おうと思う。

 

(と言うか……今回の「督戦」とやらで下手すればバラモスの人望は相当悲惨なことになってるんじゃないだろうか)

 

 味方殺しを許可し、送り出した督戦隊は全滅。迎撃の軍勢にも被害を出し、一部が敵に寝返ってまでいる。

 

(城内の魔物に向けてこちらの魔物に説得させたら、裏切りが続出するんじゃないか、これって)

 

 寝返り工作するならば、バラモス側が失態をやらかした今は明らかに好機に思える。

 

(ただなぁ……ここでバラモスの部下がごっそり減ると、今度こそこれまで以上に想定外な行動をし出すかもしれないし)

 

 例えば、城の防衛を諦めざるを得ないと判断、叱責覚悟でバラモスがアレフガルドへ逃げ帰るなんて展開にでもなったとしたら。

 

(アリアハンの国王は追い払ったからそれで良し、とするのか。「追跡して引導を渡してこい」とシャルロットへ追撃を命じるのか)

 

 原作を知る俺からすれば前者は論外だが、アリアハン国王を含め、この世界の人々は知らない。バラモスがゾーマという名の大魔王のしもべに過ぎないことを。

 

(前者で安心してたら数ヶ月後、アレフガルドに棲息する今までと段違いの強さの魔物を率いて本気になったゾーマ軍の侵略が始まる……と。まぁ、そんなことになる前に忠告が行くと思うけれど)

 

 シャルロットへ夢で語りかけたルビスの使いが、シャルロットに。

 

(シャルロットへ接触した理由だって、ルビスを解放して欲しいからとかだろうし。そうなってくると、バラモスを追い払ったぐらいで満足されちゃ拙い……って、ちょっと先走り過ぎだな。まだバラモスが逃げ帰るって決まった訳でもないのに)

 

 現実逃避というか、後方の声を出来るだけ意識しない様にしようとした結果、ちょっと思考が暴走したらしい。

 

「いかんな、これから一仕事あるというのに」

 

 蘇生後のハプニングはさておき、シャルロットには先を越されているのだ。

 

「雑念まみれでは、成功するものとて成功せん。今は蘇生に全力を注がねば」

 

 目印を残したから、骸を間違える可能性はない。

 

「さて、始めるとするか」

 

 足を止めた俺は、片膝をつき、祈り始めた。

 




ふぅ、やっぱり健全な闇谷では、これが精一杯ですね。

次回、第二百八十八話「えいしょう、いのり、ねんじろ」

え、ゲームが違う?

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