強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三十話「全裸に至る訳(全裸注意)」

「こんなものか」

 

 流木の内側をまじゅうのつめで削って空間を作った俺は、そこに肩からかけていた鞄をはめ込んだ。

 

(まずは服と靴、次に装備で一番上はキメラの翼かな)

 

 服を脱ぎながら鞄に収める順番を考え、時折手を止めては周囲を見回す。

 

(魔物が近づいてくる様子はなし、と。まぁ、その為にたいまつもつけずに月明かりで作業してるんだけどさ)

 

 今の姿は、挙動不審の一言に尽きる。

 

(シャルロットにはというか人には見せられないよなぁ、こんな格好……)

 

 とりあえず一糸纏わぬ姿になった俺は、ため息をつきつつ流木を押して海に入る。

 

「ふむ、高波でも来なければ荷物は大丈夫そうだな」

 

 そもそも、これで荷物が濡れるようなら、裸になった意味がない。

 

「じゃあ、泳ぐか」

 

 この身体の持ち主が泳げるかは知らないが、俺も夏になれば体育で水泳の授業は受けてたし、ビート板には不格好だがそれなりに浮力を備えた流木がある。

 

「いざ、新天地へ」

 

 一声発すと、俺は水の抵抗を考え流木を脇に抱えるような形で泳ぎ出す、タカのめで明かりを見つけた方角へ。

 

(ふぅ、この辺りでいいかな?)

 

 ただし、100mほど。そこで一旦足を止め、流木に巻き付けたロープで身体を固定し、両手を自由にしてから右手を口の前に持って行く。

 

(何が来るかは呼んでからのお楽しみっと)

 

 遊び人の唯一覚える呪文に「くちぶえ」というものがある。呪文の分類で本当にいいのかには疑問を覚えるが、これを使うと、周囲のモンスターを呼び寄せることが出来るのだ。

 

(ゲームの時はお世話になったなぁ)

 

 しあわせのくつを盗めるモンスター狩りに乱用したことを思い出しつつ、俺は口笛を吹く。そして、数秒後。

 

「フシャァァ!」

 

「シュゴォォォォ!」

 

 ラブコールに応じてくれたのだろう、少し先の波間が盛り上がると大きなゲソ足が海面を突き破り、下半身が魚の半漁人っぽい魔物がイルカよろしく大きなジャンプを見せる中、俺は呪文を詠唱し。

 

「ザラキッ」

 

 まずはゲソ足の主目掛け死の呪文をお見舞いする。

 

「シュォォォォッ」

 

(よし、効いた)

 

 効果は抜群だった。一瞬痙攣したイカの足が力をなくして波間に消えて行き。

 

「「フシャシャン」」

 

 此方に向かって泳いできていた半漁人「マーマン」達がまだ間合いが遠いと見て口々に防御力を低下させるルカナンの呪文を唱えてくるが、俺にとってこれはありがたかった。

 

(此処で倒してしまえばノーダメージだもんな)

 

 両手を前に突き出し、唱える呪文は攻撃呪文。イオ系やギラ系など爆発やら熱放射やら夜の闇では目立ちそうなので使えない、だから。

 

「バギクロスッ」

 

 俺の唱えた呪文が複数の竜巻を呼び、波間を泳いでいたマーマン達を水上に巻き上げながら切り刻みつつ、一つの巨大な竜巻に合体する。

 

(よし、お次は……)

 

 テロップが流れるなら「魔物の群れを倒した」辺りだが、これで終わりではない。

 

「モシャスッ」

 

 続いて俺の唱えたのは、変身呪文。

 

(さて)

 

 味方の誰かそっくりに変身し能力をコピーする呪文だが、Ⅲ以降のドラクエでは敵に変身するモンスターが存在していた。

 

「だったら此方も敵に変身出来るのではないか」

 

 という仮説を元に俺が狙ったのは、海の魔物へ変身すること。

 

「フシャッ!(やった!)」

 

 呪文で生じた煙が晴れると、俺の手は水かきを有し手の甲は鱗に包まれていて、足のかわりに尾の感覚があった。

 

(元々海を住処とするなら、俺が泳ぐより早いよな、きっと)

 

 一応モシャスの呪文がどれくらい保つか、と言う疑問点はあったものの実験は概ね成功。

 

(まぁ、途中で切れたらまた呼び寄せて化ければいいだけだし)

 

 時間はかかるし、MPや天候が変化する可能性、俺の疲労的な問題で短い距離しか渡れないとは思うが、船のない序盤でこれは大きい。

 

(疲れる上に人前では絶対にやれないのが弱点と言えば弱点かな、うん。あとは、時々変身を解いてタカのめで方角確認しないといけないかもしれないし……)

 

 全裸であることとかを思い出して微妙に何とも言えない気持ちになりつつこの後俺は海を泳ぎ切り、人の姿に戻って海岸に上がったのだ。

 

(本当に誰得だったんだろう)

 

 本来なら行けるはずのない場所にたどり着けたのはいい。タカのめで見つけた明かりがルーラの呪文で飛べる街か城、もしくは村ならば、かなり大きい。

 

(アリアハンは半鎖国状態だし、ルーラで交易すれば確かにかなりの利益が上がりそうだもんなぁ)

 

 実は、アリアハンの国王と謁見した後、女戦士のハニートラップに引っかかった俺は国王から幾つかの仕事を「頼まれ」ていたのだ。

 

(どっちかって言うと、押しつけられたというか強制的に引き受けさせられただけど)

 

 その一つが、交易網作成の協力。これからバラモスの暗躍で生活が厳しくなるであろう国民を交易の利益で救いたい、と言うのが国王の弁なのだが、どこまで本当なのやら。

 

(完全なただ働きよりはマシ、かぁ)

 

 一応、利益の何割かは勇者達の装備を調える費用として支給するとも言われてはいるのだが。

 

「ま、何にしてもあそこが何処なのか確かめねばな」

 

 服を着終えた俺は再び武器防具を身につけると、ちらりと東の空を見てから走り出した。

 

(願わくはアリアハンから離れた大きな街でありますように)

 

 そして、朝になる前にたどり着けるようにと祈りながら。

 




ロマリア「解せぬ」

まさかのショートカットにより主人公はかの地へ。

果たして主人公の見つけた明かりの正体とは?

次回、番外編3「O・SI・NO・BI・ばけーしょん(勇者視点)」

初めて訪れるアリアハンの外、その時勇者は?

ようやく全裸が終わりました、はふぅ。

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