強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百八十八話「えいしょう、いのり、ねんじろ」

「……ザオリク」

 

 詠唱を終え、呪文を唱える。

 

(名前は解っている。子供の方との繋がりでこじつけも出来ているはず)

 

 例によって肉体が構成されて行くシーンはグロいので、目を瞑ったまま、だが意識を取り戻したところで向こうの発泡型灰色生き物のように混乱して予期せぬ行動をすることも想定し、身構えつつ耳を澄ませた。

 

「これは……失敗か」

 

 何の物音すらしない様子に目を開いてみれば、案の定。死体は依然死体のまま。

 

「集中力を欠いたから……と言うことはないな」

 

 こじつけがうまく行かなかったのか、それとも。

 

(……もう一度蘇生呪文をかけてみるか)

 

 ゲームで言うところの「しかし なに も おこらなかった」になりそうな気がしたものの、一度失敗しただけで諦める訳にも行かない。

 

「ザオリク」

 

 もう一度呪文を唱えてみた、何も起こらない。

 

「むぅ」

 

 最初のザオリクと状況は同じままで唱えたのだ、効果が無くても驚きはしないが、蘇生呪文を唱えただけではどうにもならないことが証明されてしまった訳でもある。

 

「衰弱している訳ではないから意味があるとは思えんが、魔物を呼び出して戦闘中に蘇生呪文をかけてみるべきか」

 

 もしくは世界樹の葉を試してみるべきか。

 

(けど、葉を使うなら俺じゃなくてシャルロットが助けた魔物に使って貰った方が成功する可能性は高いよなぁ)

 

 だいたい、葉を使うなら魔物が立ち会っても口止めの必要もない。

 

「このタイミングで引き返すのは微妙に気がひけるが……やむを得まい」

 

 子ドラゴンを連れて行こうと思っていたが、シャルロットの鎧の中にはぐれメタルが逃げ込んだ一件で動揺し忘れていた、と言うことにすればエリザには納得して貰えるだろう。

 

(とにかく、あの子ドラゴンを連れてこないと)

 

 発泡型潰れ生き物が生き返ったことで、あの子ドラゴンの親も大丈夫だとどこか楽観的に捉えていたが、その結果が蘇生失敗である。

 

「今度は万全を期す……が、その前に」

 

 俺は鞄を開けると、布を取り出して、水色東洋ドラゴンの骸にかけた。

 

(魔物なら、要らない気遣いかも知れないけど)

 

 子ドラゴンにとっては親だ。

 

「世界樹の葉を使うなら顔が見えていればいい」

 

 致命傷を与えた人間が今更何をと言われるかもしれないが、仇である俺に抱きついてまできた子ドラゴンのことを思うと、どうしてもそうしたくなった。

 

(後ろめたさからって言われても否定は出来ないよな)

 

 だが、今は考える時でも、弁解する時でも、詫びる時でもない。動く時だ。

 

「うまく行くならそれで良し……だが」

 

 うまく行かなかったら、どうするか。

 

(一応、「あまり期待するなよ」とは言ってはあるけど……)

 

 世界樹の葉を探しに行こうとした時の反応を思い出すと、蘇生が失敗した時のことは考えたくない。

 

(ただ、なぁ……)

 

 世界はこちらの都合に合わせて回ってはくれない。

 

「いかん、また思考がネガティブな方へ……」

 

 呪文に依る蘇生が失敗したことは俺自身が思っている以上に自分にとってショックだったのか。

 

(いや、まぁ……自分で取りうるべき手段が殆どなくて、子供の水色ドラゴンが頼りともなれば仕方ないのかも……)

 

 そう言えば、あのドラゴンは人間換算だと何歳くらいなのだろう。

 

(ああ、駄目だ。聞いてみて一ケタとか十代前半だったら)

 

 まず、ロリコン疑惑が発生する。

 

(って、発生するかぁぁぁぁぁっ!)

 

 これをナイスと言うべきか、不謹慎と窘めるべきか。

 

(時々、わかんなくなることあるよね。「何をどうしてそうなった、自分の想像力」って)

 

 だが、冷静に考えてみると、はっとさせられることもある。

 

(うん。何の脈絡もなく年齢なんか聞き出したら、変な誤解されるわなぁ)

 

 そう考えてしまえば、墓穴掘りを一回回避出来たともとれる。

 

「だいたい、年齢を聞くにしても何を言いたいのか理解出来ない時点で、その仮定は成立せんだろうに」

 

 と、同時に理論の穴も見えてきたけれど、まぁ、まともに討論する様な内容でもない。

 

(悲観しすぎてもあれだけど、連想の果てに思考が迷子になってもね)

 

 尚、思考が迷子については常習犯という指摘は、受け付けない。

 

(だいたい、もう自分の想像力と遊んでる時間は終わりみたいだし)

 

 きっと、気になっていたのだろう。

 

「フシュオオオッ」

 

「そうか、まぁ当然だな」

 

 シャルロットの元に戻るつもりで歩き始めていた俺は、途中で件の子ドラゴンと鉢合わせのだ。

 

「あ、すみません。ちょっと目を離したらその子行っちゃって」

 

 箒に乗って追いかけてきたエリザとも。

 

「いや、気にするな。それよりも、お前がここに居ると言うことは、シャルロットの方はもう良いのか?」

 

 さうんどおんりーだったものの、漏れてくるシャルロットの悲鳴とかを聞いた俺としては、この短時間で救助を頼んだエリザがフリーになっていることに驚きを隠せないのだが。

 

「あ、はい。メタルスライムに効果的だったからって食べ物で釣ったら、あっさり大人しくなりまして」

 

「なるほど、食べ物か」

 

 言われてはたと膝を打つとは俺もまだまだなのかもしれない。

 

「では……後はこちらだけ、と言う訳だな」

 

 子ドラゴンと合流も出来た。後は戻って子ドラゴンへ世界樹の葉を渡し、成り行きを見守るだけなのだが。

 

「はい……どうかされました?」

 

「いや、何でもない」

 

 ただ、俺は今だ心の何処かで不安を消せずにいたのだった。

 

 




 主人公、自分とコントする。 

 次回、第二百八十九話「奇跡を願いて」

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