強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第二百九十二話「算数」

 

「いいか、ジパングに着いたらお前達はその場で待て。いくら人と魔物が共存していると言っても、いきなりこの数で押しかけては混乱を招きかねん。元バラモス親衛隊の者とこのエリザで国主である女王の元へ赴き、受け入れる態勢を整えて貰うので、連絡が来るまで待機していて貰う」

 

 ルーラでの飛翔中、新参の魔物達へ俺はそう説明する。

 

(流石にこの数の魔物が全く人の目に触れないとは思えないからなぁ)

 

 隠すのが無理なら、逆にこちらから報告しようと言う訳だ。もちろん、馬鹿正直に真実を報告して貰うつもりはない。

 

「新しくジパングへやって来た魔物達は、バラモスのやり方について行けず城を出た者達で、たまたま旅の途中だったエリザや元親衛隊と出会い、そのツテを頼ってジパングへやって来た」

 

 と言う設定の元、おろちの注意を引いて貰う役目も担う。

 

「エリザは報告後『既にジパングに暮らす魔物達にも話を通しておかなければならない』という名目で、元親衛隊の魔物と接触し、俺からの伝言を伝えてくれ」

 

 そして、エリザから話が伝わった元親衛隊の面々が俺の元を尋ねてきたところで、ようやく親ドラゴンへ思いつきを試すことが出来る訳だ。

 

(他の魔物に人の目がいってる内に、親ドラゴンの身体と一緒に抜け出さなきゃいけない訳だけど、まぁこの身体は盗賊だからなぁ)

 

 逃げるのとか抜け出すのは得意中の得意だと思う。

 

(問題は子ドラゴンの説得かぁ)

 

 他の面々は住む場所を案内されるのでそれについていって欲しい、と言うつもりではあるが、親と一緒にいるとごねる可能性が残っている。

 

(一緒にいると主張する様なら、ある程度話すしかないかもな)

 

 ただ、話すと言うことは親ドラゴンの魂が既にないと言う残酷な真実を突きつけてしまうことでもあった。

 

(話してしまって良いのかとも思うけど、いつまでも誤魔化しが効くとも思えないし)

 

 先延ばしにするにも限界は存在する。

 

「先延ばし……か」

 

 ポツリと漏らした時、ようやくジパングの列島が見え始め、俺は忠告する。

 

「そろそろ高度が下がり始める、着地に備えるようにな、得に石像」

 

 着地へ失敗して倒れ込んで来ようものなら犠牲者が出かねない。

 

「「ゴオッ」」

 

「解っているならいい。さてと、あの連中はよしとして、次はお前の親の件だが」

 

「フシュオゥ……」

 

「エリザ、通訳を」

 

「あ、はいっ。『うん……』返事ですね」

 

 着地後に揉めては面倒なことになるし、エリザが抜けてしまう為、会話にもことをかく。故にここで話を付けてしまうより他になく。

 

「お前の親にの身柄ついては俺が一旦預かる。お前にも暮らす場所は必要だろう。他の者達が呼ばれたら、お前もそちらへ着いていって欲しいのだが」

 

「フシュア? フシュウウッ?」

 

「えっと……『私だけ? その後は?』」

 

 こんな時に思うことではないのかも知れないが、エリザもシャルロットも凄いと思う。

 

(と言うか、全く解らない。あの鳴き声、前の時との違いとかもだけど……うーむ、本当に会得出来るんだろうか)

 

 別の件で不安を感じてしまったが、対面的な意味合いで今更撤回する訳にもいかないし、そもそもそんなことを考えてる場合でもない。

 

「暫くはあのジパングで暮らして貰う。親と会わせられるかは……敢えて正直に言うなら、何とも言えん」

 

「フシャ」

 

「不満に思うところまでは解る。だがな、この通り、未だ意識が戻らん。こちらとしては手を尽くしてみるつもりで居るが、うまく行く保証もないのに、こちらとしても確約は出来ん」

 

 子ドラゴンには酷かも知れないが、下手に気休めを言うことは出来なかった。

 

「……フシュウ、シュオオッ」

 

 短い沈黙の後、子ドラゴンは鳴き。

 

「えっ」

 

「ん? どうした?」

 

 何故か硬直したエリザの姿へ俺は反射的に尋ね。

 

「い、いえ……通訳お望みですよね?」

 

「あ、ああ」

 

「『……わかった。未来の旦那様を信じる』です」

 

「……は?」

 

 確認に首肯を返した後でぶん投げられた爆弾発言を理解するのに数秒を要した。

 

「ちょっと待て、何だその旦那様とやらは?」

 

 ようやくおろちの婿フラグが折れてほっと一安心していたところで、落とし穴へ突き落とされたような感覚。

 

(シャルロットが騒いで居たのは、ひょっとしてこの件だったとか? 「お師匠様の奥さんが魔物なんて嫌」みたいに)

 

 と言うか、ロリコン疑惑の回避思いっきり失敗してんじゃねぇか、どちくしょう。

 

(これはあれですか、流れ的に「お父さん(orお母さん)を生き返らせてくれたら結婚してあげるから」なんて言っていたとかそう言うことですか?)

 

 何と言う、知らぬが仏。

 

(不謹慎なのは承知で言うと、ギリギリだったのか)

 

 あの世界樹の葉で親ドラゴンが生き返っていたら、うん。

 

「……とりあえず、受け取るのは気持ちだけと言うことにさせておいてくれ」

 

 いっそのことヒャッキ辺りを紹介してみようかななんて割と酷いことをこっそり考えたのは、「龍」ってかかれた道着を着ていたからだと思う。

 

(いや、確かあの人はシャルロットに片思いしてたような気がするし、紹介したところでカップル誕生とはならないと思うけど)

 

 結果、ヒャッキにお断りされたロリドラゴンがこっちに求愛してくるオチあたりまで想像してしまった俺は毒されてしまったのだろうか。

 

(そもそも、おろちと違って人の姿をとれない訳だし)

 

 爬虫類相手が奥さんで喜ぶのは、イシスの某王族少年だけだと思う。

 

(つまり、「おろち×マリク×ロリドラゴン」で、「マリクのドラゴンハーレム」が完成する、と)

 

 あれ、足し算するつもりだったのに、気が付いたら脳内でかけ算が為されていた。

 

(あ、うん。自分でもよっぽど衝撃的だったんだろうなぁ、うん)

 

 おろちから逃れ得たと思ったところに潜んでいた『伏兵』からの奇襲は。

 

「どわっ」

 

 だから、気をとられてルーラの着地に失敗しかけたのは、なかったことにしておいて頂きたかった。

 




気づいてしまった主人公。

そして、相変わらずの振り回されパート書いてたら、結局足し算出来なかったと言う。

次回、第二百九十三話「かけ算してる場合じゃないからっ」

今度こそ足し算だっ!

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