強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百七話「続・夜会話」

「ここバハラタに着いた時のことだが」

 

「っ」

 

 言及に至れば当然のように横へ座ったシャルロットの肩が跳ねる。

 

(まぁ、気にしてなかったら直後にあんなリアクションはしてなかっただろうし)

 

 問題はここからだ。

 

「シャルロット……俺は過失を咎めようとは思わん。一生に一度も失敗をせぬ者など世界の何処にも居るまい」

 

「お師匠、さま?」

 

 シャルロットの出方を最初は待つつもりだったが、様子を窺うつもりが結果としてピンチを招いた。

 

(だったら、こっちから動いて話を無難なところへ持って行く)

 

 思えば、今まで振り回された事例の幾つかは、俺が受け身の姿勢で状況を対処しようとしたことにあった気がする。おそらく俺に足りなかったのは、過去を顧みて教訓にすることだったのだ。

 

「俺とていくつもの失敗を経験した。大切なのは、それを次に活かせるかだ」

 

 思いっきり無駄にしてきた自分に見えないブーメランがバカスカ命中してる気もするが、ここは堪えどころである。

 

「け、けどお師匠様。ボク――」

 

「お咎め無しでは気が済まんか?」

 

 反論が出るのも想定の範囲内。

 

「ならば、罰は与えよう。失敗を悔いるその気持ちがあれば同じ失敗は二度とおかさんだろう」

 

「えっ」

 

「そう身構える必要はない。罰と言っ」

 

 罰と言っても修行のようなものだ、と俺は続けるつもりだった。

 

「あ、ちょっと、まだ、あ、んぅっ」

 

 そう、壁の向こうから女性の上擦った声とかが聞こえてこなければ。

 

(ちょっ、町も宿も違うのにまたこの展開かぁぁぁぁぁぁっ!)

 

 いや、状況としてはまだイシスの方がマシだった面もある。あの時シャルロットは既に寝ていて、隣の声を聞いたのは、俺だけだったのだから。

 

(えーと、どうする? 流石にここでお隣の声をシャルロットが聞いていなかったという展開はまずあり得ないよなぁ)

 

 俺の発言に思いっきり被る形だったのだ。直前まで耳を傾けていた筈、なら。

 

「お、お師匠様、今の……」

 

 うん。やっぱり きいて きますか しゃるろっとさん。

 

(なんですか、この ぴんち)

 

 俺が悪いのか、自分の都合で一人部屋へ泊まることを画策した俺が悪いのか。

 

「う、あ、お、おそらく昔のミリーの様に何かやらかした者が、仕置きされているのだろう」

 

 聞かれはしたが、この状況下で推測をまんまシャルロットへ話すことなど俺に出来ようはずもない。

 

(元バニーさんには悪いけど、OSIOKIと言うことにすれば、一時的に誤魔化すぐらいは――)

 

 賭ではある。賭ではあった。だが、お隣がお楽しみ始めた状況下でシャルロットとごく普通の会話が出来るかと問われたら俺は確実にNOと答えるだろう。

 

(と言うか、こんな状況でまともな話が出来るかぁぁぁぁぁっ!)

 

 これはあれか、巷で流行の壁ドンとやらをしてお隣に自重を要求すべきだろうか。

 

(いや、俺の力で壁を叩いて声さえ漏れるような薄い壁が無事で済むとも思えない)

 

 焦りと憤りと苛立ちが乗った拳による強力なノックで壁が壊れ、隣とこんにちわしてしまった日には、詰む。

 

(こんな所で社会的に死ぬ訳にはいかない)

 

 隣から抜けてくる声に追い込まれているとは言え、まだ絶望するにはほど遠い状況なのだ。

 

(「流石にこれでは話しも出来んな。続きは明日にしよう」とシャルロットへ告げて、日を改めれば何の問題も……あ)

 

 何の問題もないとしかけてふと思い出したのは、今日元バニーさんへかけた言葉。

 

「……なら、解らないことがあれば、聞きに来い。今日は合流したばかりで余裕はないが、明日以降であれば時間を作ろう」

 

 ああ。その たいろ、おもいっきり じぶん で ふさいで ましたね。

 

(あぁぁぁああぁぁぁああぁっ、拙い、明日に延ばしたら高い確率で元バニーさんとブッキングするっ)

 

 どう言うつもりか結局解らないが、シャルロットが今の格好で俺と居るところに元バニーさんが訪ねてきたらアウトだ。逆に元バニーさんと居るところにシャルロットが来ても、二人が俺のところに来る途中で鉢合わせても拙い気がする。

 

(や、だからってお隣からの声がするこの部屋で話なんて続けられるかっ!)

 

 シャルロットにお帰り願ったとしても、その後この部屋で寝なければいけない、だが寝る寝ない以前の問題である。

 

(とは言え、だったらどうしよう? シャルロットを帰してそれについて行き、女性用の部屋で話す訳にもいかないし)

 

 元バニーさんにこんな格好のシャルロットと一緒にいるところを見られたら拙いというのに自分から行くなど論外中の論外だ。

 

(二人で耳栓でもして筆談する……のもないな。いっそのこと人目を避けて何処かに連れ出して……)

 

 見つかったら終わりという危険性はあるが、耳の毒にしかなりそうもないこの部屋に留まるよりは遙かにマシか。

 

「お師匠様?」

 

「ん、あぁ……流石にこの状況では落ち着いて話もできまい? 静かな場所に移動出来たらと思うのだが、お前の格好ではな」

 

「えっ? あ……」

 

 シャルロットを凹ませたりするのは本意ではないが、この状況で黙り続けるのも不自然だし、このまま留まるのもいろんな意味で宜しくない。だったら、理由を打ち明けた上でシャルロットにも協力して貰った方が良いと判断したのだ。

 

「すみません、お師匠様」

 

「気にするな。お前に謝らせたくて言った訳ではない」

 

 言いつつ俺は上着を脱ぐとそれをシャルロットへかける。

 

「あ」

 

「こうして、俺のモノを羽織らせる理由を先に告げただけだ」

 

 追いつめられたからだろうか、簡単すぎて失念していた解決法へ俺が気づいたのは。そう、スケスケネグリジェが危険なら上から何か着せれば良かったのだ。

 

「お師匠様、お師匠様ぁっ」

 

 ただ、それで うれしそうなかお を した しゃるろっと が とびついてくる ところ まで は そうていしていなかった。

 

「うおっ」

 

「わ」

 

 バランスを崩した俺はシャルロットごとベッドの上に倒れ込み、そこへ隣から聞こえてくる声。

 

「ふふふ、抜け駆けしてスー様とお会いしてくるとか有罪過ぎます。私達はカナメ一筋だと思っていたから目をつぶっていたというのに」

 

「ご、誤解です。私はお姉様に頼ま、あ、ひぃっ、止め――」

 

 その一つがエピちゃんのものであったことにこの時ようやく気づいた俺は口から迸りそうになるツッコミをかろうじて押さえ込んだ。

 

 




お楽しみかと思ったら知り合いのつるし上げ会場とブッキングしていたというサプライズ。

次回、第三百八話「お、お、おおおししょうさま、い、一緒にその……お、お、お風呂入りませんか」

今話で言わせるつもりだった台詞を次話のサブタイトルへ。

シャルロット、遂に勇気を振り絞ったか?
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