「さてと、お前への罰だが……」
用意した品のお陰か、危惧したようなハプニングもないともなれば、残っているのは部屋でお隣の声によって中断された一件のみ。
「っ」
「そう構えることはない。お前に科す罰は、ただ一つ。アランやミリー達の修行へ付き合うことだ」
息を呑むシャルロットへ振り返らず、俺は告げた。
「えっ、そんなことでいいんですか?」
「ダーマの後で向かう地球のへそは一人でしか挑むことを許されぬ迷宮だ。ならば、探索に秀でた盗賊である俺が一人で行くのが一番手っ取り早い。そもそも全員で行った場合、挑戦者以外は待たされることになるのだ。ならば、最初から単独で行き俺が攻略している間にお前が二人をバラモスとの決戦に耐えうるレベルまで鍛え上げた方が時間の節約になるだろう?」
修行ならシャルロットに危険が迫ることもない、従って俺が単独で動いても問題がなく。
「それに、俺は『アランやミリー達』と言った。サラに運搬役を頼み、アリアハンに在留してる者達も呼び寄せて全員纏めて修行させておいた方が良かろう。このままではお前達と残留組に実力の差が開きすぎて、残留組の存在が無意味になりかねん」
「あっ」
ちなみに、その残留組に元祖せくしーぎゃるとか腐った僧侶少女が居るからシャルロットへ押しつけてしまえなんて意図は全くない。
(何にしても、これで一件落着かな)
一応、これから魔窟と化したダーマ神殿に向かわなければいけないと言う問題が残ってはいるが、それについてはもう明日以降に考えればいいだろう。ぶっちゃけ、ピンチの連続で疲れたのだ。
(風呂から上がったらさっさと寝たい)
せめて夢の中でくらいは、安らぎが欲しかった。
「えっと……お師匠様、お湯かけますね?」
「ああ」
いや、この状況を安らいで居ないと言ったら罰が当たるか。
(けど、このまま長湯してのぼせる訳にもいかないし)
他にも利用客がやって来るかも知れない。
(そうか、他の客が来るかもしれないんだ。……あっ)
図らずも、クシナタ隊の何人かが同じ宿に泊まっていることを知ってしまった俺は、やって来るのが知り合いである可能性にも思い至り。
「ところで、シャルロット」
「何です、お師匠様?」
「あがった時、ミリーやアラン達と鉢合わせになることはないな?」
「えっ」
クシナタ隊以外の名を出してみると、想像もしていなかったのか、シャルロットはものの見事に凍り付いた。
(誘ってきたのはシャルロットの方だし、ひょっとしたら入っていないのは自分だけかな、とか思ったんだけどこの反応を見る限りだとなぁ)
入り口で今晩はするかもしれないということだ。
(あるぇ? と言うか、よくよく考えると既に入り口に来ていて、風呂の中の会話を聞かれてる可能性もあるんじゃ)
どうやら俺は思った以上の社会的危険地帯へ知らずに踏み込んでいたらしい。
「お、お師匠さ、さま」
「どうした、シャルロット?」
思い切りどもりまくってる辺り、シャルロットも想定外の事態に混乱しているのだろう。突拍子もない発言が飛んでくるのもある程度覚悟しつつ俺は応じ。
「せ、責任とりまつからっ!」
予想を遙かにぶっ飛んだ一言に、理解した。シャルロットが重度の混乱状態へあることに。
(と言うか、のぼせたのかもな)
顔も赤いし、思い返せばシャルロットは今日二度目の入浴だ。
(となると、さっさとあがるべきか)
ここでシャルロットがのぼせて倒れるようなことになれば、最悪出発を遅らせざるを得ないし、そもそものぼせたシャルロットを運び込む必要が出てくる。
(ん? ……ひょっとして、運び込むでは済まないんじゃ)
濡れた水着姿のシャルロットをそのまま運び出せば床も運び込んだ先も全部水浸しである。防ぐには、水着を脱がせて身体を拭くという作業を挟む必要がある。
(うわぁ)
バレても良いなら女性陣を呼んで代わりにやって貰うことになる訳だが、その場合でもシャルロットと風呂に入ったことが露見する。
(一人で全てこなして隠蔽は論外だしなぁ)
自分の着替えを異性である俺がしたことにシャルロットが気づいた日にはどうなることか。そも、師匠という以前に人として駄目だと思う。
「とりあえず、その気持ちは嬉しいが、落ち着け。一応解決策はある」
「えっ」
「大きな声を出すな。……俺の服には密かにきえさりそうが縫いつけてあってな。俺一人なら姿を消して抜け出すことが可能だ」
勿論、そんなビックリギミックなんて無い訳だが、俺は自分やパーティーを透明にするレムオルの呪文が使える。
「時間差で風呂から上がれば、おそらく入り口で鉢合わせになるケースとなっても問題ない」
さっきまでのやりとりを聞かれていた場合は、腹話術だったとか苦しい言い訳をするしかないが、最悪の事態になるよりはマシである。
「わ、わかりまちた。ごめんなさい、お師匠様……ボクがよく考えず背中流すなんて言い出したせいで」
「気にするな。それより、お前は先にあがって居るといい、顔も赤いしな。この状況でのぼせるようなことがあったら、ことだ」
詫びるシャルロットへ頭を降った俺は退出を促し。
「えっ、こ、これはその……」
「シャルロット」
「は、はい。お、お先に失礼します」
少し挙動不審になっていたシャルロットも二度目の呼びかけでこちらへ背を向け。
「はぁ……」
シャルロットがあがったのを見届け、嘆息する。本当に危ないところだったと思いながら。
あれ? 結局何も無かったぞ?
次回、第三百十三話「何か忘れていませんか?」