強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百十五話「ダーマの神殿(閲覧注意)」

「やはり、ルーラの呪文ならさして時間はかからんな」

 

 そもそも、原作で言えばバハラタから見てダーマは次の目的地、所謂次の町だ。徒歩とは移動速度が段違いの呪文による移動を使えば一瞬とは言わないまでも所要時間はかなり短縮される。

 

(と言うか、もう既に神殿見えてるもんなぁ)

 

 どんどんと近づき大きくなる神殿。

 

(このメンバーでは俺とシャルロットだけかぁ、初めてなのは)

 

 ちらりと横を見やれば、バハラタでの失敗を繰り返すまいと既に着地を意識し始めているシャルロットが居て、俺は声に出さず、ポツリと呟いた。

 

(下手に声をかけて着地失敗でもしようものなら、昨晩のぢごくがもう一晩なんてことになりかねないし)

 

 眼下に迫りつつある神殿は情報通りならせくしーぎゃるの園と化している筈。

 

(こんな所で自分からピンチの種をまいてる場合じゃないんだ)

 

 転職予定のメンバーは既に賢者になっている、本来なら幾つか話を聞くだけで次の目的地へ向かえば良かった。と言うか向かいたいが、流石にダーマをせくしーぎゃるで満たそうとするような輩を放置して行くなどと言うことが出来よう筈もなかった。

 

(資金力のない駆け出しの魔法使いや僧侶には手が出ないモノかも知れない、けど――)

 

 ダーマで流行したなら、職業訓練所があるアリアハンも第二のダーマとなりかねない。

 

(交易網を広げてしまったのが完全に間違いだったとは言わない)

 

 ただ、大魔王バラモスを倒してアリアハンへ凱旋した際、シャルロットを出迎えてくれるお袋さんがガーターベルトを付けていたりでもした日には。

 

「お帰りなさいシャルロット。母さんはムラムラして――」

 

 うん、何だろうこの悪夢。

 

(そもそも、「バラモスを倒した=勇者一行は英雄ご一行様」だもんなぁ)

 

 いくら中身が残念な俺だったとしても肩書きとガワで騙される人が少数ながら居る可能性はある。

 

(まぁ、俺より元僧侶のオッサンの方が大変そうな気もするけどね)

 

 転職で見た目が若返り、しかも賢者となればせくしーぎゃるったお姉さん方がよってくることは火を見るよりも明らかだ。

 

(そして、魔法使いのお姉さんと修羅場が展開される、と)

 

 何て酷い凱旋であろうか。

 

(やはり、駄目だな。ここで、このダーマで決着を付けないと)

 

 これ以上、がーたーべるとを蔓延させてはならない。

 

(世界平和と俺の心の安寧の為にも)

 

 静かな決意と共に俺は着地の姿勢を作る。気づけば、高度は徐々に下がり始めていたから。

 

「ふっ、……さて、と」

 

 危なげなく着地を済ませると、顔を上げ。

 

「あ、皆さ――」

 

「これでキメラの翼で立ち寄れるようになったし、次の目的地へ行くか」

 

 入り口でこちらを待っていたらしい魔法使いのお姉さんの横にあったモノを見た瞬間、おれは気づくとダーマに背を向けていた。

 

「お師匠様?」

 

「ご主人様?」

 

 左右で驚きの声が上がるが、許して欲しい。

 

(だって、がーたーべると を つけた すのーどらごん が でてきたじてん で にげる いったく しか ない じゃない ですかー、やだー)

 

 はっはっは、おれ の かんじた いやな よかん は えりざ では なく、おとなり の どらごん に かんする もの だったんだね。

 

(ないわー、これはないわー)

 

 女性専用の筈の忌まわしきアレが装着出来てるのは、肉体と魂の片方の性別が女であると判定されたからではあると思う。

 

(試す気はないけど、モシャスすれば俺でも装備出来るだろうからなぁ)

 

 理論上は間違っていないと思う、思うけれども。

 

「シャルロット、正直に言う……流石にあれは俺の脳が受け付けん」

 

「あ、いえ、き、気持ちはわかりまつけど」

 

 何という恐るべき存在だろうか。俺を引き留めようとしたシャルロットに同意させてしまっている。

 

(と言うか、あれの存在を肯定出来る者って居るのかな? マリク? いや、いくらマ

リクでも、あれは流石に……うん、止めよう)

 

 脳内でドラゴンズ好きの王族少年とアレを遭遇させてみようとしたが、俺の頭がそこから先の想像を拒絶した。

 

(せくしーぎゃる化した人外と言うだけならおろちが居るけど、魂と肉体の性別が違うと言う要素を一つ足しただけで、これほどまで恐ろしいモノになるなんて……)

 

 想定外も良いところである。

 

(と言うか、どうしよう……親のこんな姿見せたらあの子ドラゴンに殺される)

 

 主にいたたまれなさとか罪悪感で。

 

「……ところで、どうしてその様なことになったのですかな?」

 

「「あっ」」

 

 ただ、俺が頭を抱えたくなっている間も元僧侶のオッサンは冷静だった。口を開いたとたん、ごくごく当たり前の疑問に自分を含む面々は揃って声を漏らした。

 

「そうか……そんな基本的なことにも気づかなかったとはな」

 

 あの視的終末生物を見て、余程動揺していたらしい。

 

「お師匠様?」

 

「その疑問ももっともだが、とりあえず、あれを脱がせよう」

 

 冷静さの戻ってきた俺も、一つ意見をあげる。

 

「あっ」

 

「そ、そうですね」

 

「フシュオオオオッ」

 

 何人かの支持を得られた中、ソレが鳴くが、魔物の言いたいことを理解出来るのは、シャルロットとエリザのみ。

 

(うん、このまま魔物の言いたいことは解らなくていいかもしれないなぁ)

 

 心から思っていたから、俺は二人に通訳を頼む気はなかった。

 

「それと、脱がせながらで良いから先程アランの質問したことの経緯について説明して貰えるか?」

 

「あっ、そ、そうですね……あ、あたしの主観が混じった話になりますけど、それでも宜しければ――」

 

 代わりに口にした要請に頷いたエリザは、何故か顔を赤くしつつ、ガーターベルトドラゴンの後ろ足に手を伸ばしつつ語り始めるのだった。

 

 




うごご……どうしてこうなった。

次回、第三百十六話「おお! 私の友達! お待ちしておりました!」

諸悪の根源(ゾーマにあらず)登場、か?

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