強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百十八話「第二ラウンド」

「しかし……覆面だからだろうかッ」

 

 こう、油断するとマシュ・ガイアーしてしまいそうになるのは。

 

(説明しようッ、あんまりご無沙汰な感は無いのだが、このいかにもマッチョな姿と覆面と言うシチュエーションが俺の中に眠る何かを呼び起こそうとしてしまうのだッ!)

 

 静まれ、静まるんだ俺のマシュ・ガイアー。

 

(って、遊んでる場合じゃないか。さて、と)

 

 モシャスには効果時間という縛りがある。頭を振って気持ちを切り替えると、俺は返品されたガーターベルトを仕舞い終えた商人に近づき、声をかけた。

 

「よう、さっきは凄い騒ぎだったな、オッサン?」

 

 と。

 

「おお! 私の友達! お待ちしておりました! 売っている物を見ますか?」

 

 あれだけの戦いの後だというのにすぐさま反応を見せたのは、流石商人と言うべきか、ただ。

 

(ここでまた同じ台詞を繰り返してみたらどんな反応をするだろうな)

 

 相手が諸悪の根源だと理解していると、どうしてもそんな発想が浮かんできてしまう。

 

(けど、駄目だ。今回は敵情視察なんだから――)

 

 ここは素直に売り物を見せて貰うべきだろう。

 

「おう。さっきは面白いモン見せ」

 

 そこまで言いかけて、固まる。

 

(あるぇ? さっきの戦い、よく考えると人を集めてしまったって意味でこのオッサンを宣伝してしまったってことになるんじゃ?)

 

 迂闊だった。どうやら俺は気づかぬ間に眼前の商人を利して、いや利用されていたらしい。

 

(ぬうッ、戦いに負けて勝負に勝ったと言うことかッ!)

 

 流石は諸悪の根源、このマシュ・ガイアーを手玉に取るとはッ。

 

(や、だからマシュ・ガイアーじゃねぇぇぇっ!)

 

 落ち着け、落ち着くんだ俺。動揺を見せるな。

 

「大丈夫ですか友達? 売っている物を見ますか?」

 

「……あ、あぁ。まぁ、そうじゃなきゃ話しかけねぇだろうよ?」

 

 気遣われたことを含めて謎の敗北感を感じつつも、頷く。

 

(大丈夫だ、もう落ち着いた。早々取り乱すようなことは)

 

 ないと思った。

 

「なになに……?」

 

「ひのきのぼう、こんぼう、とげのむち……」

 

 だが、フラグだったっぽい。こっちが文字を読めないと思ったのか、それとも先程の失敗を省みてなのか、商人は商品リストを読み上げ始めたのだ。

 

「ちょっ」

 

「ステテコパンツ、あぶないみずぎ、きんのネックレス、ガーターベルト、えっちなほん、さとりのしょ、以上です」

 

 以上です、じゃねぇ。

 

(なんで ほとんど いかがわしい しな しか おいて ないん ですか)

 

 もはや最初の方にあった武器さえロクでもない使用目的に思えてくる程だった。

 

(というか さいご に しれっと とんでもない もの まで うって ません でしたか?)

 

 他のラインナップのせいで全く別の意味合いでの悟りの方の様な気がしてならないけれど。

 

「おっと、私口が滑りました。最後二つ、全ての品物を買ってくれた友達にだけ売る特別な品でした」

 

「な」

 

 付け加えられた言葉を聞いた瞬間、俺は戦慄した。

 

(このオッサン、まさかわざと――)

 

 ダーマに来た者はたいてい転職目的の筈だ、そんな者達に選ばれた物しかなれない筈の賢者へなれるアイテムを提示したらどうなるか。

 

(いや、あぶないみずぎをラインナップに入れてる時点で全て購入出来る人間なんて大富豪ぐらいだろうけれど)

 

 商品の値段に疎い者なら、武器の方から順番に買って、あぶないみずぎに到達した時点で跳ね上がる値段に愕然とすると言うことも考えられる。

 

(さとりのしょが見せ札なら)

 

 この商人、とんでもない狸かもしれない。エリザにがーたーべるとを押しつけようとした流れでは残念さを醸し出していたが、全てがこの商品一覧を見せる為の単なる導入だとすれば。

 

(これは作戦を一から練り直さないと)

 

 バラモスなど比ではない、遙かにこちらの方が厄介な敵だ。

 

(いや、だからこそこのダーマにせくしーぎゃるが溢れるような結果になったのか)

 

 俺は、何処かで今回の敵を侮っていたのかも知れない。

 

「おや? お気に召しませんでした?」

 

「あ? そ、そうじゃねぇ。モノを買うのにちょっと金が足りねぇってだけだ」

 

 商人の言葉で我に返った演技をすると、出直してくる旨を商人に告げ。

 

「残念です。またきっと来て下さいね」

 

「おう」

 

 見送りの言葉へ応じて見せつつも、胸の中は敗北感で一杯だった。

 

(くっ、まさかあれほど手強い相手だったなんて)

 

 計算違いも良いところだ。

 

(最初に絡んできたごろつきを捕まえて締め上げれば芋づる式にあの商人の悪事まで暴けるかと思ったけど)

 

 最後の辺りで窺い知れた狡猾さの方が本性だとすれば、トカゲの尻尾よろしくごろつきを切り捨てて逃げる可能性もある。

 

(どう考えても一人で何とか出来る相手じゃないなぁ)

 

 協力者が要る。立ち回るには出来れば知恵の回る人間も必要だと思う。

 

(とりあえず、頭が回りそうで協力してくれそうなのは、勇者一行だと元僧侶のオッサンと魔法使いのお姉さんかな)

 

 クシナタ隊にも心当たりは何人かいるものの、大半はこのダーマに居ない。

 

(あ、バハラタにならスミレさんはまだ居るかも)

 

 頭の良さという意味合いで一番頼れそうだったのは、エピちゃんのお姉さんだが、バハラタでのエピちゃんを見る限り頼りになるとは思えない。

 

(いや、一応頼んでおくのも手かな。「良い案が浮かんだら、スミレさん経由で知らせて」とかそういう感じで直接合わずアイデアだけ貰うなら)

 

 相手が強敵だと解った以上、打てる手は全て打っておくべきだろう。

 

「すまん、待たせたな」

 

「あ、いえ」

 

「その、待たせた上でこんなことを言うのもどうかと思うのだが……」

 

 モシャスが解け、ようやくエリザと合流した俺は謝罪をするなり、クシナタ隊への言づてを頼んだ。知恵を貸して欲しい、と。

 

 




底が浅そうに見えたのは、擬態だった。

思わぬ敗北を喫した主人公は、対策を立てるべく宿へと戻る。

次回、第三百十九話「ダーマの宿にて」

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