強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百十九話「ダーマの宿にて」

「お帰りなさい、ご主人様」

 

「お帰りなさい、お師匠様。あれ、エリザさんは?」

 

 伝言を頼んだエリザと別れ、ゲームでの記憶を頼りに宿屋にたどり着いた俺を出迎えたのは、元バニーさんとシャルロットだった。

 

「ああ、ただいま。エリザには知り合いへの伝言を頼んでな……さて、どこから話すべきか」

 

 相談相手としてリストアップした二名が席を外している状況とはいえ、最低でも、商人の手口と売っている品、予想される行動については話しておくべきだろう。

 

(初ダーマのシャルロットはごろつきに絡まれたりする可能性もある訳だし)

 

 商人が店で販売していた商品のラインナップについては特に二人が欲しいと思うモノはないと思うが、商売の仕方まで含めて説明することには、あの商人がいかに油断ならない相手かを伝え警戒を促すと言う意味がある。

 

「……という訳だ。品揃えなどは人をやって聞いてこさせたものだがな」

 

 当時モシャスしていた為、二人には通りすがりの人に小金を握らせて聞いて来て貰ったということにはしているが、嘘をついたのはその一点のみだ。

 

「うーん」

 

「どうした、シャルロット?」

 

 だと言うのに、一つ唸るなり何やら考え始めたシャルロットへ声をかけてしまったのは、嘘をついた後ろめたさのせいかもしれない。

 

「えっ、ええと……男の人ってやっぱり、そう言うのに興味あるのかなって……」

 

「……まぁ、人によりけりだな。需要が無いモノを売っていても商売にはなるまい」

 

 もっとも、返事からすると藪蛇だったが。少し間を必要としたものの、無難な意見を口に出来たのは、自分を褒めたいところだけれど。

 

(とにかく、このまま話題を元に戻そう)

 

 身長差から来る上目遣いでシャルロットが「お師匠様はどうなんですか」とか踏み込んで来ることもあり得る。

 

(そもそも、明かしたのも二人が被害に遭わないようにする為だし)

 

 自分からピンチに陥って自滅する為では断じてない。

 

(もういっそのこと、これからどうすべきかと言うところまで話を進めて、二人からも知恵を借りるべきかなぁ)

 

 下手にピンチに陥るよりは良いかと方針変更まで視野に入れた時だった。

 

「……あぶない、みずぎ」

 

 ポツリと元バニーさんが呟いたのは。

 

「どう」

 

「ご主人様、そ、その商人さんは腕に、右腕に何かに噛まれた傷痕はありませんでしたか?」

 

「うおっ」

 

 どうしたのかと問う間もなく詰め寄られ、思わず仰け反る。

 

(ちょ、ち、近いですバニーさん。近いですって)

 

 シャルロットのターンが終わったら今度はこっちですかとかとぼける余裕もない。

 

「い、いや……人に行かせた形だしな、わか……らん。ジロジロ、見ては……不審がら、れるだろう、し」

 

「ミリー!」

 

 後退りする俺を救ったのは師としては情けないが、シャルロットのあげた声だった。

 

「え? あ……す、すみません、すみません……私」

 

「い、いや。すまんな、敵情視察に行ったなら、俺ももっと色々見てくるべきだった」

 

 我に返ってペコペコ頭を下げる元バニーさんへ俺も謝罪しつつ、自己反省する。

 

(けど、まさか元バニーさんにお師匠様モードでタジタジにさせられることになるとはなぁ)

 

 それだけ、真剣だったと言うことだろうけれど。

 

「けどミリー、なんでそんな質問をしたの?」

 

 同時に生じた疑問をシャルロットが代弁する形になったのは、同じ事が気になったからだと思う。

 

「そ、それは……少し、お話しする……お時間を頂いてもいいですか?」

 

「ああ」

 

「うん」

 

「解りました。こ、これは、私がまだ遊び人になる前の話になります……」

 

 視線を彷徨わせつつ発した確認に俺達が首を縦に振ると元バニーさんは語り始めた。

 

「私の父が行商をやっていたことは、ご存じですよね? 父には商売の関係で知り合った友人が居たんです」

 

 元バニーさん曰く、親父さんとその友人が出会ったのはレーベの村だったという。

 

「意気投合した父がアリアハン出身と聞いて、おじさまは……その人は、アリアハンへ届ける商品の配達を父に頼み、そこから交流は始まりました」

 

 何でもイシス出身というその商人は、どうやってか大灯台からアリアハンに至る旅の扉を使用することが出来たらしい。

 

「届ける品のことは『ミリーちゃんにはまだ早い』と言っておじさまは教えてくれませんでしたけど……商売が上手く行きお金の貯まった父とおじさまは共同で防具を開発する事業へ手を出しました」

 

「防具を開発?」

 

「……はい。『アリアハン周辺の魔物は弱い、だが海域に出る魔物は比べものにならない程手強い。もし、海の魔物と遭遇しても生き延びることの出来る様な品が開発出来たなら、アリアハンの為にもなる』と」

 

 思わずあげてしまった声に元バニーさんは頷き、言う。

 

「それで、防具の機能を備えた水着を作ろうとしたのです」

 

 と。

 

「……最初は失敗の連続だったそうです。し、下着程の面積しかない布地に鎧並みの効果を持たせようとしたので」

 

 だが、失敗作を放置するのも勿体ないと、元バニーさんの言うおじさまは失敗作を再利用出来ないかと色々試行錯誤したらしい。

 

「その結果、おじさまは一着の水着を作り上げました」

 

「……皆まで言うな。そこまで聞けば解る。それがあぶない水着だったのだな?」

 

 よくよく考えるとあぶない水着はこっちの世界では販売されていなかった気もする。なら、何処で仕入れたのかという疑問が生じる訳だが、元バニーさんの話が本当であれば、販売されていないはずの品が存在することにも説明はつく。

 

「……はい。おじさまが……そ、その『大きくなったらミリーちゃんに着て貰おうか』と冗談を口にして父と大喧嘩になったので、私が知りうる限りで作られたのは一着だけでしたけれど」

 

「ふむ」

 

 ひょっとしたらそれがアッサラームで座長さんから貰ったあぶない水着だったのかもしれない。

 

「成る程、一度作れたなら商品として量産出来ても不思議はない訳か」

 

「はい。父とおじさまが最終的に目指したのは、並の鎧を寄せ付けない性能を持ち着ていれば徐々に傷が癒える力を持つ水着、だったそうですが……父が魔物に襲われ命を落とし、開発の為に作った借金だけが残りました」

 

「な」

 

 ちょっと待て、俺の立て替えた借金の話がここで出てくるのはまだいい。

 

「神秘の……ビキニ?」

 

 そう言えばメダルのオッサンが集めた褒美でくれる品の一つに着ていると徐々にHPが回復する上ゲームで二番目に高い守備力を誇る水着の防具があった気がする。

 

(何故アリアハン在住のオッサンがあんなモノ持ってるのかと思ったら)

 

 がーたーべるとの仕入れ先と繋がっていたとか予想外も良いところだ。

 

(おまけ に すいそく もと ばにーさん の おやじさん が はこんでいた しな って あれ だよね?)

 

 この流れからするとほぼ間違いなくがーたーべるとです、ありがとうございました。

 

(何、この展開? これであの商人の腕に噛み傷とか残ってたら、諸悪の根源って元バニーさんの親父さんのお友達と同一人物確定?)

 

 ひょっとして、友人が非業の死を遂げたことで身を持ち崩して悪の道に走った系だったりするのだろうか。

 

(元バニーさんの親父さんが借金を負ったなら、当然あっちも借金を抱えたのだろうし……うぐぐ)

 

 また一つ作戦を練り直す必要が生じて、俺は頭を抱えた。どうしてこうなった。

 




 いやー、辻褄合わせと伏線回収、ようやくできました。

 バニーさんの借金の伏線はあと二~三話先でも良かったんですけどね、そこまで引っ張ると先読みされる気がして。

次回、第三百二十話「「おじさま? おじさまなのでしょう?」「待て、その展開はまだ早い!」」

 実は元々いい人だったのか、悪徳商人。果たしてその真相は――?

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