強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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(けど)

 越えねば確認出来ないことも解っていた。

(そもそも、よくよく考えてみればオッサンの裸とか、旅行に出かけたりすれば温泉とかに入る時に高い確率で出くわす訳だし)

 見るべきは右腕だ。そこに噛み傷があるかどうかを確認し終えれば、良いだけの話である。

(とは言え、罰ゲームに近いものはあるしなぁ……さっさと終わらせちゃおう)

 籠に脱ぎ捨てられていた衣服は男物、男装した女性なんてオチでもない限り、衝立の向こうにいるのが女の子だった、なんてことはない。

(大丈夫、女の子が男装してるなら相応の理由が要るけど、男装して店の裏の居住空間に居る理由がまずないし)

 強いて言うなら、商人のオッサンが男装した女の子好きだったとか、ごろつきに絡まれたりしないように変装したとか、正体を隠す為異性装してこの店に潜り込んでいる、ぐらいだ。

(ほら、全然あり得ない……って、そんな訳あるかぁぁぁぁっ!)

 なんで ふみこもう と した ところ で、いかにもな りゆう に おもい あたるん ですか おれ。

(ちょっと待て、ここに来て社会的信用失墜トラップ?)

 つい先程まで簡単に終わると思っていたのに、オッサンの全裸に対して心の鎧を着込むことで心の準備が出来たというのに。

(流石は諸悪の根源、一筋縄ではいかないと言うことか)

 だが、俺には透明化呪文の効果がある。

(そうだ、声とかさえ漏らさなければ、気づかれない筈)

 むしろ、グズグズしていては呪文の効果がきれてしまう。

(南無三っ)

 俺は覚悟を決めて、間に見えぬ線を踏み越え、たどり着いた。衝立の向こう、そこは。


「ヒャッハー! 朝風呂だぜぇぇ!」

 世紀末だった。

 危ない水着を着たモヒカンが湯船に浸かっていたのだ。

「まったく旦那も気前がいい。俺達を交代で風呂に入れてく」

「イオナズンッ!」

 うん、とりあえず じゅもん ぶちかましても しかたないよね。

「ふぅ」

 この日、ダーマから一軒の店がイオナズンの爆発に消し飛んだ。



 先日お休みしたお詫びに没パート。
 ちなみに、このモヒカンさんはエリザに絡んだごろつきの一人でした。

 尚、モヒカンになったのは概ね銀魂°の影響です、たぶん。



第三百二十五話「いやん、主人公さんのえっちぃ(閲覧注意)」

(けど)

 

 越えねば確認出来ないことも解っていた。

 

(そもそも、よくよく考えてみればオッサンの裸とか、旅行に出かけたりすれば温泉とかに入る時に高い確率で出くわす訳だし)

 

 見るべきは右腕だ。そこに噛み傷があるかどうかを確認し終えれば、良いだけの話である。

 

(とは言え、罰ゲームに近いものはあるしなぁ……さっさと終わらせちゃおう)

 

 籠に脱ぎ捨てられていた衣服は男物、男装した女性なんてオチでもない限り、衝立の向こうにいるのが女の子だった、なんてことはない。

 

(大丈夫、女の子が男装してるなら相応の理由が要るけど、男装して店の裏の居住空間に居る理由がまずないし)

 

 強いて言うなら、商人のオッサンが男装した女の子好きだったとか、ごろつきに絡まれたりしないように変装したとか、正体を隠す為異性装してこの店に潜り込んでいる、ぐらいだ。

 

(ほら、全然あり得ない……って、そんな訳あるかぁぁぁぁっ!)

 

 なんで ふみこもう と した ところ で、いかにもな りゆう に おもい あたるん ですか おれ。

 

(ちょっと待て、ここに来て社会的信用失墜トラップ?)

 

 つい先程まで簡単に終わると思っていたのに、オッサンの全裸に対して心の鎧を着込むことで心の準備が出来たというのに。

 

(流石は諸悪の根源、一筋縄ではいかないと言うことか)

 

 だが、俺には透明化呪文の効果がある。

 

(そうだ、声とかさえ漏らさなければ、気づかれない筈)

 

 むしろ、グズグズしていては呪文の効果がきれてしまう。

 

(南無三っ)

 

 俺は覚悟を決めて、間に見えぬ線を踏み越え、たどり着いた。衝立の向こうへ。

 

(っ)

 

 最初に目へ飛び込んできたのは、自ら抱くようにして下半分を隠す褐色をした胸の膨らみ。大きさとしては掌ですっぽり包み込めるぐらい。

 

(えーと)

 

 一言で言うならば「割とぽっちゃり体系でした」とでも言ったところか。

 

(とりあえず、ビンゴ……というか昨日見た商人のオッサンその人だった訳だけど)

 

 肝心の右腕はお湯の中に沈んでいた。

 

(えーと、何これ? ひょっとして右腕を出すか湯舟から上がるまでウオッチングしなきゃ行けないの? このオッサンを?)

 

 かくご を きめて とびこんだ さき に まって いたのは くぎょう でした。

 

(いや、右腕確認しないと何の為にここまで来たのか解らない、解らないんだけどさぁ)

 

 この場で右腕が見えるまで張り込んでいた方が早く確認出来ると理解していても、俺は衝立の向こうに戻って湯上がりのオッサンを待ちたい気持ちで一杯だった。

 

(仕方、ないよね……うん)

 

 ただ、急がねばならなくなったのは俺自身のポカが原因だったから、自分自身に言い聞かせて留まり。

 

「……ふぅ」

 

 早く右腕を出せと心の中で呟いた回数が五十回に達しようとした時だった。

 

「ごめんよ、ミリーちゃん」

 

 腕の確認を待たずして、商人のオッサンが元バニーさんのおじさまであることがほぼ確定したのは。

 

(ごめん? ……これって、ひょっとして自分が悪いことをしてるというのは自覚してるケースだったり?)

 

 きっかけとなったオッサンの呟きに耳をそばだてた俺は、次の言葉を待つ。

 

(っと、拙い)

 

 だが、残念なことに追加の情報を得るよりも先に訪れたのは、透明化呪文の効果時間切れ。正確にはその前触れだったが、相手に声が届く位置で呪文をかけ直す訳にもいかない。

 

(衝立の向こうまで戻るか。で、問題はその後だよなぁ……すぐ戻ると言った手前、長居するのはどうかとも思うけれど)

 

 さっきの呟きは誰も居ないと思っての独り言だったのだろうが、あのこのオッサンが何を考えているのかが解ればこっちとしてはやりやすくなる。

 

(とは言え見つかる可能性も高くなるし、もう一回だな。あと一回レムオルの呪文をかけて呪文の効果がきれそうになったら、戻ろう)

 

 方針を定めつつ、忍び足で衝立の前、脱衣籠の隣まで戻った俺は小声で呪文を唱える。

 

「レムオル」

 

 求めるは、元バニーさんへあのオッサンが謝罪の言葉を口にした真意。

 

(さてと、何処まで近づくべきかな)

 

 小声でも聞き取れるように気づかれる危険性を承知で至近距離まで寄るか、それともすぐ離脱出来るように衝立の側で聞き耳を立てるか。

 

(うーむ、こんなことなら変装してくるんだった)

 

 覆面をしていつもと違う服を着ていれば、対して悩むこともなく前者を選べたと思う。

 

(まぁ、今更遅いはな……いや、応用は出来るかも)

 

 ただ、失敗は成功の母でもあったらしい。

 

(返品したがーたーべるとはこの建物の中にある筈。状況次第では「変装し、泥棒のふりをして盗み出し……処分する」って解決策も十分あり、か)

 

 商人のオッサンががーたーべるとの拡散を止めるつもりがなければ一時しのぎにしか過ぎないが、手元に在庫がなくなれば、広めることも出来なくなるだろう。

 

(位置的にバハラタも近いからなぁ)

 

 俺達が来るまではカンダタ一味という犯罪者集団が居たのだ、突然泥棒が現れたとしても大しておかしくはないと思う。

 

(壊滅したカンダタ一味の末端が逃げ延びてダーマで悪さを始めたとかだったら、説明も出来……ん? そう言えば、あのごろつき達――)

 

 考え方を変えて初めて気づくことというのは意外に多い。

 

(いや、何で気づかなかったのかとも思うけど、カンダタ一味の生き残りと言うことにするなら、あのごろつき達にカンダタ一味出身の奴が居ないか先に確認しないと)

 

 語りをしようとして、敵方にご本人が居たらアウトだ。

 

(もしくは、盗人のふりを諦めるか)

 

 後者の方が簡単ではある。

 

(けど、何というか泥棒のふりは思いついただけだもんな)

 

 そもそも、今はまだ情報収集中、元バニーさんの『おじさま』が何を言うかを聞き終えてから判断を下しても遅くはない。自己解決に至った俺は、衝立の影から顔を出し、再びおじさまの独り言が再開されるのを待つのだった。

 

 

 




「主人公がオッサンの入浴シーンを覗くとか知ったら、あの腐僧侶少女……黙ってませんね」

と言うか今回のお話で得しそうなのあの女僧侶さんだけですね、うむ。

次回、第三百二十六話「主人公、やはり変態か」

「オッサンの入浴を覗き続ける」とだけ書き出すとどう受け取られるかはねぇ、うん

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