強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百二十七話「衝撃の真実」

「しっかし、旦那は物知りだな」

 

「大したことはありませんよ」

 

 ごろつきからすればオッサンが博識なのは心強いのだろう。幾分浮かれた調子の声に平静さを崩さず、商人のオッサンは応じ。

 

「それよりも、相手が姿を変える呪文の使い手だとしたら油断は出来ませんよ? 味方だと思った相手が実は潜入者が化けたものかもしれなくなるのですから」

 

「そっ、そうか……わかったぜ、旦那。あいつらにゃ注意するよう言っておく」

 

 話題を変えるなりした注意喚起にごろつきは神妙な顔をすると頷いた。

 

(まずいなぁ)

 

 返品交渉時はアッサラームな商人のイメージが全力で前に出ていたからか気づかなかったが、ごろつきと話す商人はかなり切れ者のように見えた。

 

(バラモスみたいな相手ならつけいる隙はあるんだけど)

 

 やり辛さはエピちゃんのお姉さんと対峙した時に匹敵する気がする。

 

(ごろつきの方はまだ与しやすいかと思ったけど釘を刺されちゃってるし)

 

 とりあえず、モシャスで変身しての接触は通用しないと思って良いだろう。

 

(けど、残って正解だったなぁ。もしもう帰っていたら、あのオッサンのこともっと甘く見ていたはず)

 

 その場合、痛い目を見させられた可能性もある。

 

(これは、エリザが戻ってくるのを待つことも考える必要があるかもなぁ)

 

 今は残念なことになっていたような気もするが、知恵の回る者が相手ならこちらも智者を頼るというのは間違っていないと思う。

 

(まぁ、智者と言うより痴者になっていそうな気がヒシヒシするけど)

 

 エピちゃんのお姉さんがガーターベルトでお揃いを狙ってせくしーぎゃるっていることは覚えている。

 

(けど、好意の向く先は俺ではなくエピちゃんだろうし)

 

 せくしーぎゃるが問題なら、忌まわしいあの品を脱がせればいいだけだ。

 

(ま、それはそれとして……いつまでも長居する訳にはいかないよなぁ)

 

 呪文の効果にも残り時間がある。

 

(結局、ごろつき達の中にカンダタ一味出身の者が居ないかとか、知りたかったことはまだ残ってるけど……)

 

 あまり遅くなるとシャルロット達も心配するだろう。後ろ髪を引かれつつも俺はごろつきの横を通り抜け、外へと向かう。

 

(収穫はゼロじゃないし、解錠呪文を知ってるなら、透明化呪文を知ってる可能性だってあるもんな)

 

 下手に欲を出して見つかってしまっては元も子もないと自分に言い聞かせ、俺は宿への道を引き返し始めた。

 

(けど、本当に何ていい訳をしよう? 「返品の時には見られなかった素の様子を見て、情報収集の必要性を認識したから」とかかなぁ?)

 

 何にしても、あのアッサラーム商人もどきが侮れない相手であることを伝えるのは、ほぼ確定だ。

 

(贅沢を言うなら本当に呪文が使えるかも確認しておきたかったけど、知り合いだって言うなら元バニーさんも何か知ってるかも知れないし)

 

 戻ってから元バニーさんに質問するという手が、まだ残されている。

 

(うん、その前に遅くなったことを詫びる必要がある訳だけどね)

 

 やがて見え始めた宿屋を前に幾つかの謝罪パターンを頭に浮かべ。

 

「今戻った。すまんな、遅くなって」

 

 結局俺がチョイスしたのは、お師匠様モードでの本当に悪いと思っているのか微妙な謝罪。内心はどうあれ、これまでの接し方を考えると、急にへこへこするのは、いつもの俺らしくないというのが理由だ。

 

「お帰りなさい、お師匠様」

 

「お、お帰りなさいご主人様。あ、あの……どうでした?」

 

「おそらく、当人だろう。お前のことも口にしていたように思う」

 

 素直に白状したところで、元バニーさんに言及した部分の内、俺が聞けたのは一言二言。下手に突っ込んで尋ねられても答えようがないからこそ、俺は敢えて自分から話した。

 

「そ、そうでしたか。……おじさま」

 

「そこで、少々無神経なのは承知で幾つか聞きたいことがあるのだが」

 

 感傷に浸ってるところデリカシーがないとは自分でも思うが、敵の情報は出来るだけ詳しく手に入れておきたい。

 

「……聞きたいこと、ですか?」

 

「ああ。お前の『おじさま』はアリアハンへ旅の扉を使ってやって来たと聞くが、俺の記憶が確かなら旅の扉は鉄格子で閉鎖されていた筈だ」

 

 ならば、どうやって来たのか。解錠呪文を使ったのか。あのオッサンは呪文が使えるのか。まず気になるのは、その一点だ。

 

「魔法使いの高度な呪文が使えるとなると、作戦を練り直す必要も出てくるからな。知っているなら教えて貰いたい」

 

 言い終えた俺は、ただじっと元バニーさんの顔を見たまま答えを待ち。

 

「……そ、その、おじさまは――」

 

 こちらの視線から目を逸らしつつ元バニーさんが語り始めたのは、俺にとって予想外の話だった。

 

「おじさまは、呪文を使えなかったと思います。た、ただ、おじさまのお父さまが呪文の使い手で、呪文の知識は豊富でしたし、おじさまは呪文の効果を持つ道具や武器防具の扱いには長けて居ましたから」

 

「成る程、父親の呪文で旅の扉を利用した、と言うことか」

 

 ゲームではアリアハン側の出口は無人なのに訪れるたび鉄格子が閉まっているというミステリーが存在したが、あくまでゲームの話。一度開けて貰って、開けっ放しになっていたところを出入りしていたのかも知れない。

 

(あれ? けど、俺がポルトガに向かった時は鉄格子が閉まっていたような……)

 

 かえって謎が生じてしまった気もするが、今気にすべきはそこじゃない。

 

「それで、『おじさま』の父親は?」

 

「おじさまがアリアハンへ来るようになってから数ヶ月後、病気で亡くなったそうです」

 

「そうか」

 

 呪文を使ってくる可能性がなくなったことは、安堵すべきか。

 

(まぁ、一度来てしまえばキメラの翼があるもんなぁ)

 

 声には出さず、独り言ちると、俺はすまんなと元バニーさんへ詫びた。

 

「呪文を使ってくることがないとわかっただけでも助かった」

 

 後は、あの見た目に反した切れ者をどう相手にするか、か。元バニーさんに説得して貰うという手もあるだろうが、早々うまく行くとも思えない。

 

(そも、あれだけ早く昨日返品で張り合った相手がモシャスした別人って予想出来るところまで調べられたなら元バニーさんがダーマにいることもあのオッサン、もう知ってるんじゃ)

 

 むしろ、浮かんできたのは一つの懸念だった。

 




じゅもん は つかえなさそう、だけど めんどくさい あいて。

しゅじんこう は どう たいしょ するのか。

まだ わからない。

次回、第三百二十八話「残念才女・痴態あり」

まぁ、そろそろウィン何とかさん出したいってことだ。

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