強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百三十話「変態には変態を」

 

「はぁ、はぁ……お帰りなさい、お師匠様」

 

 ドアを開けたとたん、出会ったのは絶望だった。

 

「はぁ……そ、そのご主人様……似合い、ますか?」

 

 何か言葉を発するよりも早く、二人目が問いかけ。

 

「二人とも、はぁ……なかなかの素養を……すぅぅぅ、んっ、お持ちでしたよ」

 

 原因がパンツを吸引しつつのたまう。

 

(冗談じゃない、さっき部屋を出たばっかりだって言うのに)

 

 あの短期間で全員せくしーぎゃるってるとかおかしすぎるだろ。もっとも――。

 

(ここまではただの想像なんだけどね?)

 

 嫌な予感がしたせいか、最悪の状況というモノを脳がシミュレーションしてしまったのだ。

 

(最近想像しうるレベルをぶっちぎった状況とか変態に遭遇してるからなぁ)

 

 これを慣れと言ったら色々と大切なものを失ってしまう気がするが、そもそもそんな状況下におかれてる時点でもう、何かが手遅れなのかもしれない。

 

「スー様?」

 

「何でもない、急ごう」

 

 とりあえず、嫌な予感から想像してしまった悪夢は、非現実で終わらせたい。早足で進み、階段を下り、向かう先は宿の入り口。

 

「あれか。み」

 

 幾つかの人影を見つけ、そのまま駆け寄ろうとしながらも、途中でかける声と足が思わず止まる。何故ならそこにいたのは、フード付きのマントで全身を隠した怪しい集団だったのだから。

 

「……あれ、でいいのだな?」

 

「そうよ。流石にあの元エビルマージをあんな格好で外を歩かせる訳にはいかないから、色々考えた結果、『全員が上から羽織る』ことにしたのよ。あれなら『みんなが着るから』と言う理由で何とかなるでしょ?」

 

「成る程、あの格好でよく宿の主人が通したと思ったが」

 

「そう言うこと。入った時は、まだあの格好だったのよ」

 

 これをファインプレイと褒めるべきなのか、良くもあんな変態を持ち込みやがってと怒るべきなのか、俺は決めかねた。

 

(いや、知恵を貸してくれと頼んだのは俺だし、前者が正しいんだろうけど)

 

 即通報レベルの変態を持ち込まれては複雑な心境にならざるを得なかったのだ。

 

「それに、隠しておきたいのは一人じゃなかったし」

 

「え?」

 

 ただ、続くカナメさんの一言は形容しがたいモヤモヤに苛まれていた俺の耳にも聞き捨てならないものだった、ただ。

 

「お姉様ぁぁぁぁぁっ!」

 

 おそらくは、時間さえあれば自分でもその答えに到達していたとは思われる。

 

(あ、そっか)

 

 姉がああなら、血を分けたもう一人はどうなっているか。至極単純なことである。

 

「はぁ、はぁ……んんっ、お姉様ぁ、ご褒美をっ、ご褒美をぉぉぉっ!」

 

「こ、こら、大人しくしなさい!」

 

「んあっ」

 

 今にもこっちに駆け寄ってきそうだった変態二号は隣のお姉さんが何かを引っ張った瞬間につんのめる。

 

「放してっ、はぁ……はぁ、お姉様ぁぁぁぁっ!」

 

「……カナメが戻って来るって時点でもっと強く縛っておくべきでしたね」

 

「そんなことより、猿ぐつわの方が先だと思う、あたしちゃん」

 

 これはツッコミ待ちなのだろうかと思いつつ、床の上で身を捩る二号と押さえ込むお姉さん達を目撃した俺は、無言のまま視線をカナメさんへと戻した。

 

「ご覧の通りぴょん」

 

 なるほどよくわかりました、である、ただ。

 

「とりあえず、あのマントが二人の対策と言うところまでは理解した。ただ、自分で最終手段としておいてアレだが、あのエピニアを御せるかと聞かれたら自信がないぞ?」

 

 想像力がなかった、見通しが甘かったと非難されるのは甘んじるしかないと思うが、カナメさんならともかく、俺にどうこうできるようなシロモノには見えない。

 

(何というか、カナメさんのいうことなら喜んで聞くと思うけど、俺ってバラモスの城でも怖がられてるだけだったしなぁ)

 

 怖がるなら脅迫という手がありそうにも思えるが、エピちゃんのお姉さんを御すのが目的である以上エピちゃんにポーズだけでも危害を加えるように見える真似をするのは悪手だ。その後も考えてみたが良案は浮かばず。

 

「スー様、それなら大丈夫」

 

「っ、何時の間に」

 

 声に周囲を見回すと、すぐ横にいたのは、さっき捕り物に加わっていたスミレさん。

 

「まあ、それはいいか。何か良い案でも」

 

「一応あるよ? スー様なら気づくかと思っていたけど……とりあえず、お耳を拝借?」

 

「……わかった、聞こう」

 

 気づくかと思っていたと言うところへ微妙に引っかかりを覚えつつも、耳を寄せると、スミレさんは言った。

 

「スー様がカナメにモシャスで変身して、ご褒美をあげるだけ」

 

「えっ」

 

 確かに、効果的ではある。効果的ではあるだろう。

 

(いや、確かに思いついた可能性はゼロじゃないけど)

 

 かなり たかい かくりつ で ていそう の きき に なりません かね、それ。

 

(と言うか、モシャスするならエピちゃんに変身してお姉さんを説き伏せるでも良いような)

 

 わざわざ間接的にする理由も無いだろう。

 

「ちなみに、怪しまれないようにするには同じ格好をする必要があるので、スー様も晴れてせくしーぎゃるでびゅー?」

 

「待て」

 

 いっこう の よち あり と おもわせて おいて さいご に なげてくる ばくだん が ちょっと きょうあく すぎませんかね、すみれさん。

 

「せくしーぎゃるを何とかするには自分も体験してみる。そうすることで見えてくるモノがあるとあたしちゃんは思ったりする」

 

「一理はあるが、止めてくれ」

 

 シャルロットでさえ、再起不能になりかけたのだ。男の俺が体験したらどうなることか。

 

「はぁ」

 

 ただ、せくしーぎゃるの部分は論外としてもモシャスでお願いに関しては効果を否定出来ず、俺は頭を抱えた。

 




賢者スミレによってもたらされた、新たな可能性。

次回、第三百三十一話「俺、せくしーぎゃるになりません。」

いや、ならないからね?

冗談じゃなくて、本当に。

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