強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百三十三話「深謀遠慮」

 

「……そうか」

 

 知恵を借りるはずが、一足飛びどころか六つも七つも過程をすっ飛ばしてしまった感はある。だが、腑に落ちなさとかエピちゃんのお姉さんの変態っぷりを無視しても「おじさまの考えていること」は是非とも知っておきたい情報である、だから。

 

「流石お姉様」

 

 俺は恥を捨てた。

 

「え、ええと……お師匠様、ウィンディさんがその言葉を言って欲しいのって、エピニアさんじゃ」

 

「解っている。だが、俺はエピニアではないものの、あの商人が何を考えているかについては是非とも聞いておきたいからな」

 

 貴重な情報が得られるなら、変態を姉と呼ぶことぐらいどうと言うことはない。と言うか、お姉さんの要求にエピちゃんが応じる気がしなかったので、敢えてボケることで誤魔化したのだが。

 

「……話して貰えるか?」

 

「気持ちは嬉しいのですが、はぁ……私にはエピニアが」

 

 誤魔化しきれなかった、と言うべきかどういう気持ちだよとツッコんでおくべきか。

 

「ご、ご主人様……」

 

「それ以上言ってくれるな」

 

 何というか、慰められるとかえってダメージになることってあるよね、うん。

 

「つまり、エピニアの賞賛が欲しいと言うことだな?」

 

 もういっそのことエピちゃんの名札をつくって付けてから同じ事を言ってやろうかとも思ったけれど、実行しても無益だって言うのは解っている。

 

(結局、モシャスするかエピちゃんに賞賛して貰うかの二択か)

 

 人前でモシャスする訳にはいかないので一旦離席するのは必須だが、変態一号が縛られて何も出来ない今であれば、前言撤回してモシャスでエピちゃんに変身するのもありだとは思う。

 

(あのマントで首から下を隠してれば、がーたーべるとは付けなくてもいい訳だし)

 

 問題なのは一時とはいえ、不自然に俺が居なくなることぐらいだ。

 

(そう言う意味ではエピちゃんを説得した方が不自然さは無いんだけど、動かすとなると確実に代償が要るよなぁ)

 

 カナメさんか、カナメさんに変身した俺のどちらかが変態二号の要求を呑まないといけなくなると言うことでもあり。

 

(ん、ちょっと待てよ?)

 

 要求と言えば、カナメさんはエピちゃんのパンツによってエピちゃんのお姉さんを従えたのではなかったか。

 

「カナメ?」

 

「解ったぴょん」

 

 俺が視線を向けると、カナメさんはうさ耳を揺らして頷き。

 

「話して貰えるぴょん?」

 

「はい、んっ、承知居ました」

 

 カナメさんの命にあっさり従う変態一号を見て、ちょっとだけ泣きたくなった。

 

(おれ の どりょく って、いったい)

 

 何も考えず、最初からカナメさんにお願いしておけば良かったじゃん。

 

「はぁはぁ……いきなり、本題に入りますが……」

 

 脱力感と空しさに打ちひしがれる中、変態一号は語り出す。

 

「はぁ、そちらの方の『おじさま』の目的は、おそらく……あなた方と戦って負けることです」

 

「え? それはどういう――」

 

「まず、最初に誤解を解いておいた方が良いと思いますが、すぅぅぅぅぅぅ、はぁぁぁ……皆さんが対峙している相手は『がーたーべるとの普及を目指す商人とその一味』ではありません」

 

「なっ」

 

 俺の疑問を代弁してくれたシャルロットの問いを遮る形で、エピちゃんのお姉さんが明かした事実は、それだけで衝撃的だった。

 

「が、がーたーべるとを普及させていたんじゃなかったんですか?」

 

「はぁはぁ……あれにも意味はありますが、皆様が敵対しているのは……ふぅ、『イシスを救った二勇者とその仲間達』を敵と狙う者達の集合体……反勇者連合とでも言いましょうか」

 

「ちょ、ちょっと待て、反勇者連合だと?」

 

 いまわしい しな を ひろめるだけ の うさんくさい やから だと おもってたら とんでもない こと に なってきたんですが。

 

「はい……はぁ、一つ一つあげて行きますと『アジトを潰されたカンダタ一味の残党』『勇者一行の活躍を快く思わない貴族』『イシスで住民に襲撃され何らかの被害を被った商人』『勇者の師がアリアハン国王に請われ作成した交易網によって廃業に追い込まれるなどの損害を受けた商人』と言ったところです」

 

「うぐっ」

 

 幾つかは身に覚えがある。

 

「貴族が資金提供等でバックアップをし、二つのグループの商人が提供された資金を運用して増やし力を溜め、一味の残党と金で雇った者を使って復讐する……と言う筋書きでしょうね」

 

「どうして? どうして、イシスの商人さんが……」

 

「被害を受けた商人からすれば、イシスの国民は仇と言うことか? その仇を結果的に救うことになった二人の勇者とその一行もまた仇、と?」

 

「はい」

 

 半ば呆然とするシャルロットを横目に俺が問うと、エピちゃんのお姉さんんは縛られたまま首肯し。

 

「何らかの形で恨みのある相手、すうぅぅぅぅぅぅぅ、はぁ、はぁ……放っておけばバラバラに過激な手段に出る者も居たかも知れませんが、一人の男が纏めることで、暴走を防いだ」

 

「そこまで説明されると、俺にもうすうす相手の意図が解ってきたんだが」

 

 あの商人のオッサンがそんな連合の頭をやっているとしたらその目的は、元バニーさんが被害に遭うのを防ぐ為。

 

「こちらに被害を出させないように上手くコントロールした上で、機を見計らい」

 

「こちらが勝てるタイミングで、纏まってぶつかって、諸共滅び……友人の娘に危害を加えかねない者達を一掃する、か」

 

「……おじ、さま」

 

 元バニーさんに誤っていた理由も、推測がつく。不器用というか、何というか。

 

「はぁ、ご明察、です」

 

「……しかし、話を聞いただけでよくそこにたどり着いたな」

 

「自分の身に変えても守りたい相手が居ると言うところまでは……すぅぅぅぅ、同じですから」

 

 そこ で ぱんつ を きゅういん しなければ、わり と かっこう が ついた と おもう。

 

「エピニアががーたーべるとを身につけると聞いた時……はぁ、製造元のことを色々調べていたのもありますけどね。がーたーべるとを広めようとしてるのも、イシス出身の商人がいかがわしいモノを広めることでイシスの評判を下げようと言う意図があったようですよ……そちらの方のおじさまも、留守番を任せた家族がイシスで襲撃されているようでしたので」

 

「えっ」

 

「あちらの方が仰ったことも間違いではありません、ですが理由は……はぁ、そんな組織に身を置いた理由は一つだけではなかったと言うことです」

 

 呆然としていた元バニーさんが顔を上げるも、エピちゃんのお姉さんは淡々と続け。

 

「やれやれ」

 

 俺は嘆息した。自己犠牲の精神は結構だが、これが成功したとして残された元バニーさんはどう思うことやら。

 

「シャルロット、ミリー。情報は得た。作戦を立てるぞ?」

 

 情報は得た、ならばここからはそれを活かすターンだった。

 




 はっはっは、徐々に明らかになって行く展開の方が盛り上がると思ったのに、『おじさま』の目論見を全部暴露してくれたウィンディさん。

 ともあれ、実はイシスの商人襲撃が伏線でそこからも繋がって居た訳です。

 作者曰く、「汚いゼロレクイエム」と密かに名付けていた『おじさま』の計画の行方は?

 次回、第三百三十四話「こちらのやり方」

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