強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百三十七話「あーあ」

 

(うーん、どうしよう?)

 

 胸中で自分に問いかけつつ、上手い言い訳を探す。

 

(正直に「せくしーぎゃる封じに出来そうな防具を探していた」って言うのもありと言えばありなんだけど)

 

 肝心のエピちゃん達がまともな格好に着替えさせられている現状では、今更感がぬぐえない。

 

(下手に嘘ついたりでっち上げるよりは無難とは言えなぁ)

 

 これで良いのかと、問う自分が居るのだ。

 

(さっき格好悪いところ見せてしまってるし、こっから「流石お師匠様」と見直されるような答え方を……って、更にハードルあげてどうする)

 

 だいたい、シャルロットに見直して貰えるような着眼点からくるスカートの気になり方という時点で色々おかしい気がする。

 

(そんなもの存在する訳ないよね?)

 

 年頃の女の子の視点を理解出来るかと聞かれたら、NOと答える俺でもそれぐらいは解る。

 

(そもそも女の子の考え方とか理解出来るなら、今頃モテモテだったろうさ)

 

 ついでに墓穴を掘ったり地雷を踏み抜いたりもしないに違いない。

 

(まぁ、人の心が読めるとかそう言うレベルにまで至ると精神病んじゃったり人間不信になっちゃったりするって漫画とかで見た気はするけど)

 

 だからこそ、そこまでは求めないが、異性の心の機微とかにもう少し敏感にと言うか、空気の読めない人ではなくなりたいなと密かに思う。

 

(レベルが上がったら上昇した「かしこさ」の効果としてどうにかならないかな……って、そもそも俺、レベルはカンストだっけ)

 

 これはあれか、現在地がダーマだから転職しなさいと言うことなのか。

 

(……ないない。って、そんなこと考えてる場合じゃない!)

 

 というか、 なぜ しこう が だっせん したし。

 

(時間がない時に限って、ろくでもない方に思考が逸れるよな)

 

 そして、このままでは拙いと焦りだした、俺は聞いた。

 

「……ひょっとして、お師匠様、こういうスカート履いている女の子が好みだったりするんでつか?」

 

 じっと見つめていたスカートから顔を上げたシャルロットが投げかけてきた問いを。

 

(噛んだ……じゃなくて! シャルロット に かんちがい されつつある じゃないですか やだー!)

 

 失敗した、無言の時間が長すぎた。

 

「あ、いや、そうじゃなくてな」

 

 一応否定はしておくが、「じゃあどうして気になったんでつ」と質問された場合の答えをまだ用意出来ていない。

 

(スカートだ、スカート関連で何か、何かないか。豆知識とか、こうそう言うのでも何か……あ)

 

 必死に脳内検索を続ける俺は、気が付けば思い至ったそれをそのまま口にしていた。

 

「男がスカートを履くと言う人が何処かに居るらしくてな」

 

 現実のヨーロッパの何処かだった気がする。民族衣装だったかもしれない、ただ。

 

「じゃあ、スー様履いてみる?」

 

「え?」

 

 俺は忘れていた、この部屋にはスミレさんという悪魔が居たことを。

 

「ちょっと待て、どうしてそうなる?」

 

「賢者としてはさっきの言葉が気になったり。男性にスカートが似合うのか、後学の為に知っておく必要があるとあたしちゃんは判断してみた」

 

「……後学の為と言うが、本当のところは面白がってるだけだろう?」

 

 語尾に「キリッ」とかついていてもおかしくなさそうなスミレさんへ俺がジト目を向けてしまったのだって仕方ないと思う。

 

「だいたい、俺がスカート姿になって誰が喜ぶ?」

 

 とりあえず、アリアハンに残ってる腐った僧侶少女以外でお答え頂きたい。

 

「あたしちゃんが……と言いたいところだけれど、これにも理由はあるのです。ベッドで突っ伏してる二名もスー様がスカートを履いてくれたら『こんな辱めを受けても生きてる人が居るんだ』って立ち直るんじゃないかという深謀遠慮」

 

「とりあえず、深謀遠慮の意味を外に出て百人に聞いてこい」

 

 脊髄反射レベルでツッコんでしまったが、俺は悪くないと思う。

 

「確かにあの二人に立ち直って貰う必要はあると思うが、あくまでそれはお前の推測だろう。だいたい師匠の俺がスカートを履きだそうものなら、シャルロットがどう思うか」

 

「えっ、ボク?」

 

 ただでさえ、恥をさらした後なのだ。これ以上のイメージダウンは勘弁願いたい。

 

「すまんな、シャルロット……さて、そう言う訳だ」

 

 非常時とは言え、ダシに使ってしまったシャルロットに詫びると、俺はスミレさんに再び向き直る。

 

(ちょっと強引だったかな)

 

 とは言え、スカートは嫌だった。

 

(女物の服は嫌だ。おんなもの の ふく は いやだ。 おんなもの は いやだ。 おんなもの は いやだ。 おんなもの の したぎ も いやだ。 おんなもの の したぎ も いやだ。おんなもののしたぎもいやだ。おんなもののしたぎもいやだ。おんなもののしたぎもいやだおんなもののしたぎもいやだおんなもののしたぎもいやだおんなもののしたぎだイエァァァァァァァッ……あ?)

 

 拙い拙い、謎すぎる狂気の沼に沈みかけるところだった。

 

「ご、ご主人様?」

 

「何でもない、少し、考え事をな」

 

 心配そうにこっちを見つめる元バニーさんに頭を振って答えると、もうあのことは考えないことにした。女言葉の台詞とかしなを作ってのポーズだとか、イシスの夜とか、あんな事をこれ以上思い出していては、エピちゃん達の隣で寝込みかねない。

 

(って、考えないことにしたって決めた側からっ! ……駄目だ、もっと他のことを考えよう)

 

 何か、実りのあること、健全かつ生産的なことを。

 




嫌なことほど忘れたりするのに時間がかかるものだと思う。

ゲームとかアニメで急にやってきた鬱展開とかを忘れるのとか。

次回、第三百三十八話「うごご、健全とはいったい」

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