強くて逃亡者   作:闇谷 紅

380 / 554
第三百三十八話「うごご、健全とはいったい」

「ふむ」

 

 ここまではきっと考え方や、発想の元が色々駄だったのだと思う。

 

(発想が飛躍しにくいモノか、何らか別の事柄に派生しても問題ないような事柄を考えるなら、あんな自滅はしないんじゃないだろうか)

 

 例えば、横道に逸れるのが憚られるような重要な事案とか。

 

(となると、一番シンプルかつぶれそうにないのは――「俺がこれからどうすべきか」かな)

 

 流石にシリアスモードで今後について真面目に考えていれば、俺の想像力だって嫌がらせのようなことはしないはずだ。

 

(話を整理してみよう、まず俺は……)

 

 気が付いたらゲームでのパーティーメンバーの一人だった盗賊の身体に憑依する形で、ゲームの世界の中にいた。

 

(細部に差があるのは、ゲームと現実との兼ね合いの結果だと思うけど、この世界にも魔王が居て、平和が脅かされているのは間違いが無く)

 

 どうしたら元の世界に戻れるのか以前に、放置すれば魔王に世界が滅ぼされてしまう可能性もある状況下。

 

(頼みの綱の勇者がスライムに負けそうになってるところに遭遇、放っておけなくて助けたらお師匠様になって欲しいと請われ)

 

 引き受けてパーティーメンバーとして旅をし、なんやかんやあって今に至るという訳だ。

 

(まぁ、世界が滅ぶというか大魔王の支配下に置かれちゃったら半ば詰んだようなものだし、俺が小細工したせいで、バラモスが原作にない動きをして被害が出たのも事実、か)

 

 追い込まれたバラモスがイシスに侵攻したのは予想外だった。

 

(自身でまいた種なら、自らの手で清算すべきだよな)

 

 バラモスの件もだが、その余波でイシスの住民に襲撃され、今このダーマで敵対している商人達についても。

 

(後者で俺に出来るのは、悪事を曝いて商人達がしょっ引かれる時に情状酌量をして貰えるようにぐらいだけど)

 

 前者は違う。

 

(シャルロットと最初に会った時は、逃げだそうとしたのにな)

 

 もし、逃げ出したままならどうなっていただろうか。

 

(ま、いいや。考えても意味がないし)

 

 再確認は終了した。

 

(バラモスは倒す……俺の手になるかは、状況次第だけど)

 

 流石にシャルロットを置いてきぼりにしてという訳にもいかない、そうなってくると呪文の使えない縛りプレイにはなると思うが、勇者に魔法使いそして賢者が二人居れば問題はない。

 

(原作より一人多い戦力で挑む訳だしなぁ……あ)

 

 そこまで考えて、ふと思い出す。

 

(バラモス城の偵察もしないと拙いか、予想外の展開で流れちゃったし)

 

 ダーマでの騒動が片づいた後の話になると思うが、色々ありすぎてすっかり忘れていた。

 

(紙にチャートでも書いておいた方がいいかもな)

 

 何処のゲーム攻略メモだとツッコまれそうな気もするが、俺にはシャルロットと違って重要なことを心に刻みつけ完全記憶する能力はない。

 

(うん、思い立ったが吉日か。後日に延ばして忘れたら意味ないし)

 

 結局、どれだけ一人で考え込んでいたかは不明だが、再び元バニーさんが声をかけてくる様なことも無かったので、大した時間は経っていないと思う。

 

「シャルロット、ミリー、俺は買い物に出かけてくる」

 

「えっ、い、今からですか?」

 

「ああ。ここでじっと待っていても仕方ないし、男ならごろつきが絡んでくることもないだろうからな」

 

 返品に行った女性がモシャスで化けた相手ではないかとは言っていたが、その場合疑惑の目が向くのも普通なら魔法使い。盗賊がマークされる可能性は低いだろう。

 

「もし、欲しいモノがあれば言ってくれ。もっとも、男が買い物して違和感がないモノに限らせて貰うが」

 

 ただ、別の意味合いで追い込まれそうな気がしたので、釘を刺し。

 

「じゃあ、スー様、男性用スカートを一つ」

 

「却下だ。言うとは思ったが」

 

「えー」

 

「シャルロット、何もないか?」

 

 スミレさんのリクエストを突っぱね、不満げな声をさらりと流しつつ俺はシャルロットへ尋ね。

 

「え、ええと……それじゃ、ロープを買ってきて貰えますか」

 

「ロープ? あ」

 

 意外な注文だなと首を傾げてから、すぐさま理由に思い至った。

 

(そっか、エピちゃんのお姉さん縛って……)

 

 縛っただけなら解けば再利用出来そうな気もするが、おそらくは気持ち的な問題なのだろう。

 

「解った。まぁ日用品や旅に使う品ならおそらく何処かの店においてあるな」

 

 ゲームでは教会と宿屋しか無かったとは言え、人が暮らすなら必要となる品を販売する店ぐらいはないと不自然な訳で。

 

(まぁ、それどころか「がーたーべると屋」まで揃ってるんだけどね、今は)

 

「さてと、紙と筆記用具、ロープにそれから……ふむ、こういう時シャルロットのアレがあると便利なんだがな」

 

 無い物ねだりと解りつつ愚痴をこぼし、足を運ぶ先はがーたーべると屋やより幾分手前。

 

「まぁ、距離的には丁度良いか」

 

 目当ての店の前で立ち止まった俺の視界の端には、元バニーさんのおじさまの店もきっちりと入っていた。

 




サブタイの時点では不穏な予感しかしなかったのに、割とまともな展開になった件

次回、第三百三十九話「たぶん敵情視察を兼ねてると思う」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。