強くて逃亡者   作:闇谷 紅

383 / 554
せくしーぎゃる47さい「お客さんよ! あたしのお店へよくぞ来た! あたしこそはこの店のせくしー女主人! 見たところいい男だから色々とサービスつくしてやろう! お客さんよ! だからうちの常連となれい! いでよ、わが家族たちこのお客さんをもてなしその喜びで常連とせよ!!」

主人公「おことわりします」

 って言うか、台詞完全にゾーマのパロディじゃねぇか。



第三百四十一話「あの、ぼくはもうしつれいするので」

「おや、それは申し訳ないことをしたね。このまま帰したんじゃ、ワンさんにも悪いし、どうしたものかねぇ?」

 

 固まっている内に、後ろから再び声がして俺は声に出さず失敗を悟る。

 

(しまった、機先を制された)

 

 ここは、背後のせくしーぎゃるよんじゅうななさいに何か言われる前にこっちから言うべきだったのだ。

 

「あの、ぼくはもうしつれいするので」

 

 とか。

 

「そうですねぇ」

 

 相づちを打ち首を傾げた娘さんとで完全に挟まれたまま、俺はまだ振り向けない。

 

(落ち着け、落ち着くんだ俺。声は普通のおばさんだし、前にいる娘さんが平然としてるんだから、せくしーぎゃるとは言えそうぶっ飛んだ格好はしていない筈だ)

 

 身内がせくしーぎゃるった時に色々酷いことにはなっていたが、あれが一般人にも適用されているとは限らないではないか。

 

(とりあえず、振り向いて挨拶しよう。このままお尻向けてるのは失礼だし、挨拶からそのまま立ち去る挨拶に繋げてしまえば良いんだから)

 

 それに、このまま黙っていては主導権を完全に握られてしまう。

 

「すまん、挨拶もまだだったな。邪魔してい」

 

 俺は意を決して、振り返り。

 

「おや、いい男じゃないかい」

 

 その生き物を見た瞬間、石化した。壁か何かかと思う程白塗りされた顔に、隈取りのようなどぎついメイクをされた顔が、はでな服を着込んだぽっちゃりと言うよりぼっちゃりと言った感じの身体に乗っていたのだ。しかも頭にはうさ耳バンド。

 

「あぁ、驚いたかい? 実は二人目の孫ももう産まれそうだからね、一念発起して転職して今はご覧の通り遊び人をしてるんだよ。何でも遊び人として一人前になれば賢者になれるって話じゃないのさ……あ、語尾忘れてたぴょん」

 

 だれ も そんなこと きいてません と いうか おまえ も その ごび かい。

 

「よし、こうしようかねぴょん! もう買い物は済んじまったって言うなら、おまけって言うことであたしが色々さーびすしてあげようじゃないかぴょん?」

 

「おことわりします」

 

 完全に素の反応だったが、何を言われたかを理解するよりも早く口から言葉が出ていたと思う。

 

「もう、お母さん。いくら遊び人特有のジョークだからって、そんなことを言われたらお客さんが困るじゃないですか」

 

「いや、困ると言うか、逃げるのレベルだと思うんだが……」

 

 動じず笑顔で手をヒラヒラさせる娘さんに思わずツッコミを入れてしまったけど、仕方ないですよね。

 

(そもそも、何故こんな店を勧めたし、あの雑貨屋)

 

 嫌がらせか、ロープしか買わなかったのを実は根に持っていたりしたのか。

 

(ん? 待てよ……そうだ、雑貨屋だ)

 

 これがあの店主のオススメならそっくりそのまま返してやればいい。

 

「とにかく、そのサービスとやらは、あの雑貨屋にでもしてやってくれ。ここを勧めてきたと言うことは、そのサービスを素敵なものだと認識していたからだろうからな」

 

 たしかこのクリーチャーとあの雑貨屋は幼なじみであった筈、なら、年齢的にはご褒美なのかもしれないし、俺としてもさーびすという名の致死攻撃を回避出来るというもの。

 

(そもそも、まだ回らないといけない店が残ってるんだ)

 

 俺はこんな所で終わる訳にはいかない。

 

「おや、照れなくてもいいのにねぇ、ぴょん」

 

「お母さん……」

 

「とにかく、他にも回る所があるからな。俺はこれで失礼する」

 

 クリーチャーの戯言をスルーしつつ、歩き出した俺はそのまま横を通り抜け。

 

「ここから右手に三軒先のお店に行ってみなぴょん」

 

「っ」

 

 囁くようにすれ違い態かけられた声に、一瞬、足を止める。

 

「あたしの名前を出せば、悪いようにはしないさぴょん」

 

「……礼を言っておいた方がいいのか?」

 

「さぁねぇぴょん」

 

 振り返らず問えば、返ってきたのは肯定でも否定でもない言葉。

 

(と言うか、俺ってこのクリーチャーに何も言っていないんだけど)

 

 俺の疑問は見抜かれたのかもしれない。

 

「あんた、スー様だろぴょん? カナメさんには転職した時世話になってねぇぴょん」

 

「……そう言うことか」

 

「気をつけなぴょん。お客さんのことはまだあいつらには知られてないみたいだけどね、ぴょん」

 

 得心のいった俺に忠告をしたその生き物は次の瞬間、俺の背をポンと叩いた。

 

「カナメさんを泣かすんじゃないよ、ぴょん?」

 

「……ちょっと待て」

 

 たしかに いちど にげだそう と して おしおき されました が なんだか にゅあんす が おかしい き が しますよ。

 

「もう、あたしが後十年若かったらねぇぴょん。いや、ないかね。……カナメさんを幸せにしておやりぴょん」

 

「……何故そうなる」

 

 と いうか かなめさん、この いきもの に なに を ふきこんだんですか。

 

「あ、そうそう。カナメさんは何も言ってないぴょん? 話してくれたのは、何て言ったかねぇ、あのお調子者の娘……」

 

「そこの所は、詳しく」

 

 とりあえず、OSIOKIが必要なお姉さんがクシナタ隊には残っていたらしい。

 

(アッサラームとイシスで懲りたモノだと思っていたのに)

 

 二度あることはと言うし、お尻ペンペンされたあのお姉さんだったりするのだろうか。

 

 




ちなみにこのクリーチャー、カナメさんと同期です。

次回、第三百四十二話「三軒先の店」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。