強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百四十二話「三軒先の店」

 

「うーむ」

 

 とりあえず、言って拙い部分はわきまえていたと言うべきか。情報提供者であるクリーチャーが聞いたのは、恋の話だったという。

 

(何処かの盗賊が「この俺を射止められるモノなら射止めてみるが良い」と言ったことがきっかけで始まった盗賊Sの心争奪戦、ねぇ)

 

 まだ あきらめて なかったんですか、おれ を ひっかけるの。

 

(クシナタ隊を幾つかに分けて俺がシャルロットに付いていった時点で諦めたモノだと思ってたのになぁ)

 

 もっとも、世界各地に散らばったクシナタ隊を集めて、「あの時のはナシね」などというのは現実的じゃない。

 

(だいたい、あの商人のオッサンにもあまり時間はかけて居られないし)

 

 買い物ついでに情報を集め、持ち帰った情報と復活したエピニアのお姉さんの知謀プラスαで打開策を考え、実行、一件落着させて地球のへそに旅立つって流れなのに、簡単な情報収集で済ませるはずがどうしてこう予想しない方向に転がるのか。

 

「とにかく、今は回るところを全て回ってしまおう」

 

 気力的な問題で、反勇者連合の一員と思われる商人の店は後回しだ。距離的にも、あの生物が行ってみるようにと勧めた店の方が近い。

 

「邪魔をする。三軒隣の店の女店主から勧められて来たのだが」

 

「あいや、リさんからの紹介アルか? と言うことは……」

 

 さして時間もかからず、店先にたどり着き、声をかければ、ひょっこり顔を出した商人らしき青年は何やら考え込み。

 

「おっと、失礼したネ。入るヨロシ」

 

 すぐに我に返るとそのまま俺を手招きする。

 

「すまんな、では」

 

「はいヨ、いらっしゃいませヨ……さ」

 

 頷き足を踏み入れれば、俺を通した青年は店のドアに鍵をかけ、くるりと振り返った。

 

「それで、ワタシの店のことはどこまで聞いてるアル?」

 

「何処までも何も、あの女店主が『名を出せば悪いようにはしない』と言っていただけだが」

 

「エ?」

 

 素直に答えた後、沈黙は数秒続いたと思われる。

 

「お客さん、騙されるとか思わなかったアルか?」

 

「いや。ある程度なら単独で切り抜ける自信はあるし、転職した知り合いの修行仲間だったようなのでな」

 

 むしろ、馬脚を現して襲いかかってきたりしてくれた方が手っ取り早かったのだ。

 

(残念ながら敵じゃなかったっぽいけど、あのクリーチャー)

 

 この青年にしても騙す気なら、わざわざそんなことは聞いてこないだろう。

 

「……ああ、腕っ節には自信があるアルな。それなら、アイツらに絡まれても……と言うことは、あっち、アルか」

 

「ふむ」

 

 何やら一人で納得しているようだったが、こっちからすると全く話がわからない。

 

「出来れば説明して貰えるか?」

 

「あ、失礼したネ。今、このダーマでは新しくやって来た商人の一団が徐々に幅をきかせ始めてるヨ。奴らは用心棒に柄の悪そうな男達を雇っていたから最初は警戒してたアルが、その連中含めて金払いは良かったアルからな。転職を契機に店を畳もうとした人や、跡継ぎが居なくて店じまいをしようとしたお爺さんから店を買い取って商売を始めたけど、ワタシら最初はあんまり気にしてなかったヨ。ただ」

 

 それは暫くしてからのこと。ダーマにやって来る連中へ用心棒だったごろつきが絡む様になったのヨと青年は言う。

 

「そんなことされてお客さん逃げたら、ワタシ達困るネ」

 

「それは解る。と言うか、絡まれ助けられた所で商品を押しつけられたという話なら聞いている。気に入らなければ返しても良いというふれこみでな」

 

「あー、だったら話は早いヨ。けど、一応お客さんにもコレをあげるネ」

 

「これは?」

 

 差し出された羊皮紙を受け取りつつ俺が問うと青年は言う、要注意店リストだと。

 

「そこに書いてあるお店、アイツらの用心棒が常駐してるから、揉めると大変ネ」

 

「ほう」

 

 動揺せぬように出来るだけ平然とした態度で応じてみるが、何というか。

 

(ひょっとして、おれ が じょうほう しゅうしゅう する いみ はんぶん いじょう なくなったんじゃ ありませんか、これ?)

 

 よくよく考えると古参の商人からすれば、新入りが騒ぎを起こして客を追い払ってしまうようなマネをすれば反発するとは思っていたが、あのオッサンの切れ者っぷりからしてその辺りも懐柔するなり何なりして完全に押さえ込んでいると思った矢先にこれだ。

 

(いや、自滅する為にわざと隙を残しておいた……とか?)

 

 ともあれ、貰った羊皮紙はありがたい贈り物だと思う、だが。

 

「そして、ここからが本題ヨ」

 

「ん?」

 

 自分の思考に沈んだのは失敗だったかもしれない。気づくと青年が商品棚に手をかけており。

 

「ワタシの店、並んでる商品はカモフラージュ。お客さんついてるネ。リさんからの紹介なら、本当の商品お売りするヨ」

 

「な」

 

 俺の目の前で、棚が動いた。

 






次回、第三百四十三話「店の秘密」


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