「ああ、思い出したアル。あー、ただ、情報出すには条件あるヨ」
ポンと手を打ったところで青年がすぐに話してくれるかと思ったが、現実はそう甘くないと言うことか。
「条件?」
「簡単な質問に答えてくれたらいいヨ」
聞き返した俺へそう答えた青年が投げかけてきた質問は一つ。
「あなた、イエローオーブを手に入れたいと思ってるアルか?」
と言うものだった。
「そうだが、何故それを聞く?」
「ワタシの持ってる情報、思い出さなきゃいけないレベルだったアル。つまり昔のことヨ。時間経てば持ち主変わる、これ普通のことネ」
「成る程、今も知っている者が持っているとは限らないと言うことか」
情報屋として、不確かな情報を渡すのに抵抗があると言うのであれば、納得は行く。
「そういうことヨ。もし、古い情報で良いなら言うネ」
「構わん。手探りよりはマシだろうからな」
イエローオーブは交易網という網を張って補足しようとしたオーブだったが、結果として手に入れたのはレッドオーブ。このまま、派遣した商人達が原作通りに接触してくれるのを待つだけよりも情報を得てこちらも動いた方が獲得までの時間を短縮させることが出来る可能性はある。
(まぁ、その前に元バニーさんのおじさまと愉快な仲間達をどうにかしないといけない訳だけど)
すぐに動ける訳では無い上に、得られるのが過去の情報というのはネックだが、手がかりゼロと違ってそれなら動きようがある。
(カナメさん達、元々ダーマ探しと転職用に振り分けたグループだったからなぁ)
俺はシャルロット達と行動しないといけないだろうが、一班空くならイエローオーブ確保はカナメさん達に任せればいい。
(うまく行くかは、この青年の情報次第なんだけどね)
得た情報は持ち替えれば宿でカナメさん達に渡せるし、指示も出来る。
「では、話すヨ。ワタシがその人と会ったのは一年程前のこと、新たな販路を開拓してた商人で、そのオーブは商売していたらたまたま手に入れたモノだと言ってたネ」
「ほう」
「何で知っているかとかの説明は省かせて貰うヨ。ワタシにも守秘義務ってモノがあるアル」
「ああ、まぁ情報屋ならそう言うこともあるだろうな」
むしろ、守秘義務という言葉を持ち出してきたことで、この青年の客だったのではないかと言う気もしたが、おそらく言わぬが花なのだと思う。
(むしろ、直接言えないから匂わせる形にしたのかもしれないし)
原作では、イエローオーブはスーの東海岸へ町作りをしようとした老人の手伝いに勇者一行から派遣された商人が高い金を出して買い取ると言う流れだったと思う。つまり、原作通りなら、オーブの持ち主は金額次第では手放す相手でもあったのだ。
(高値で買い取ってくれそうなお金持ちは居ないかと話を持ちかけたなら、この青年と接点があっても納得はいくし)
このダーマは世界で唯一転職が許された神殿、世界中から人が集まってくる。
(集まってきた人から情報を拾うなら、情報屋の拠点としてもうってつけだもんな)
情報の信頼性もそれなりにあるとは思われる。
「その人の名はマルコ。ワタシの記憶する消息は、ポルトガに向かったのが最後ヨ」
「……なるほど」
原作で商人と老人が作った町からも割と近く、説得力はある。
(問題は情報が一年前のものだってとこぐらいかぁ)
一年あれば、人手に渡っていても不思議はない。何人かの手を経由した先、とはあまり考えたくないけれど。
(気になるのは、ポルトガなら俺の作った貿易網に引っかかっててもおかしくないのに、それが無いことだよな)
一年の間に別の場所に移動した可能性は否めないが。
(あの辺りで、交易網に引っかかって無くて、あの大陸に関わりのある場所……あ)
ふと思い浮かんだのは、一つの国の名。
「エジンベア……か」
「エジンベア?」
「いや、何でもない。こちらのことだ……ともあれ、助かった。そうだな、ついでにこれを貰っていこう」
独り言が聞こえたらしく問うてきた青年へ手を振ってみせると謝礼代わりにと近くの棚にあった商品を手に取りカウンターへ金貨を置く。
「あ、毎度ありヨ」
「では、俺はこれでな。あの女店主にはよろしく伝えておいてくれ」
出来れば二度と遭遇はしたくないが、助かったのは事実だ。そう告げて青年の店を後にし。
「さてと、後は紹介された店が二軒か」
もう、このまま宿に帰りたい気もするのだが、買うべきモノは揃っておらず、紹介された店を全部回っていない以上、買い物続行はやむを得ない。
「……どっちからゆくかな」
片方は明らかに敵だと解っている店。青年の渡してくれたリストにもきっちり記載されているので、黒なのはほぼ間違いないと見て良いと思う。
(気の抜けないところを最後に残すよりはマシか)
そもそも、今俺の手元には、丸められた要注意店リストがあった。
(流石にないと思うけど、後回しにしたあげく、これをしまい忘れて見られるなんてポカをやらかしたらことだしなぁ)
疲れるとミスは増加する。ボロを出さない意味でも先に行くべきだろう。
「……ふぅ、これでよし」
俺は羊皮紙を鞄の奥に突っ込むと歩き出した、一番警戒すべき店へと向けて。
次回、第三百四十五話「おつかいは続く」