強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百四十九話(仮)「真意」

「やれやれ、これでようやく二人きりで話せますね」

 

 それが問いに対するエピちゃんのお姉さんの第一声だった。

 

(え゛?)

 

 質問の答えになっていないとかそういうわけではない。言外に語る部分まで汲み取ればの話だが。

 

(と言うか、その言い回し)

 

 せくしーぎゃる が しゅうりょう したのに なぜ そんな こたえ が かえって くるんですか。

 

(そも、エピちゃん一筋じゃなかったんかいぃぃ!)

 

 おかしい、どこで選択を誤った。

 

(あれですか、変態シーンを見た唯一の異性だから責任とれとかそういうことですか?)

 

 ピンチを切り抜けて帰ってきた、ようやく帰ってこれたのにと思った俺は。

 

「勇者さんに隠しておく必要があることを語るには、席を外してもらわないといけませんし、それを私側から切り出すのは不自然ですからね」

 

 このウィンディの言葉で、自分がとんでもない勘違い野郎になっていたことを知った。

 

「あ、ああ。そう言うことか」

 

 つまり、エピちゃんのお姉さんは勇者に伏せて策の一部を俺に伝えたくてこんな回りくどいことをしたのだろう。

 

(そう言えば武将を個々に呼び出して指示を与えた軍師を何かの話で見た気がするな)

 

 同僚がどんな指示をされたのかさえ知らせないのは先走ったり勝手な判断で行動されないようにという面と間者に情報を持っていかれた場合の保険という両面があったのだと思うけれど。

 

(いったいどんな指示を……って、いけない、いけない)

 

 ウィンディの智将っぷりをある程度聞いているからか、不謹慎ながらどこかワクワクしている自分がいて、心の中でかぶりを振るとそんな自分に苦笑する。

 

(まぁ、無理もないか。名軍師な人物の策を身近で見られるとか――)

 

 こんな機会でもなければありえない。

 

「あなたには女装及び化粧をしてわが主、カナメさまと一緒にごろつきを引っかけていただきます」

 

「え゛」

 

 ありえない。

 

「ちょっと待、それはどういう」

 

「あなたが問題の商人の知人であるあの賢者……ミリーさんに『おじさま』は呪文が使えるかと訪ねたのでしたね?」

 

「あ、ああ」

 

「道具ではなく呪文が使えるという発想に至った時点でその『おじさま』にはかなりの呪文知識があると推定させていただきました。例えば、変身呪文のモシャスなど」

 

「っ」

 

 問いかけを遮る形の質問に頷いてしまった俺は、一見飛躍しすぎにも思える推測に息をのむ。まるでこっちの心を読まれてるかのようにほぼ真実を捉えられていたのだから。

 

「そんな知識があれば、相手は完全な変身によるいわば成り済ましに注意が集中するはず。ですから、些少無理のあるような変装の方が引っかかりやすい。もし、変装がある程度ばれても、モシャスでの変身を見抜かれたのと違い、まだ言い訳ができます。『ただの趣味だ』とか」

 

「発覚まで見越してるのか」

 

「まぁ、その辺りは想定しておきませんと。もっとも、ここまでしていただくというのにお任せするのは用意した策のうち一つの疑似餌に過ぎませんが」

 

「うち一つ?」 

 

 同時に複数の策を仕掛けると言うのか。

 

「ええ。相手も頭が回るようなので、目くらましの策は用意しておいた方がいいのです」

 

「なるほど」

 

「数の上で勝る相手に多数の策を仕掛けるのは、策一つ一つに割ける人員を考えても一見下策に見えるでしょうが、敢えてそこで裏をかきます。なにも一人に預ける策が一つでないといけないというルールもありませんので」

 

 凄いと称賛すべきか、驚くべきか。

 

「本当に智将だったんだな」

 

 とは間違っても言えない。それは、暗にエピちゃんのお姉さんの黒歴史を引っ張り出すようなモノだから。

 

(せっかく復活したのに、また使い物にならなくなったらなぁ)

 

 いくら俺でもそんな凡ミスはおかせない。

 

「それで、俺にできることはそれだけなのか? 女装なんてモノより他に優先してしないといけないようなことはないのか?」

 

 もういっそのこと何ができるかをこのウィンディにはぶちまけてしまうべきだろうか。

 

「……そこまで女装は嫌ですか?」

 

「もちろん」

 

 なぜ罰ゲームが策に盛り込まれてるんですかと抗議するレベルである、ただ。

 

「……仕方ありませんね。では、代わりのエサが必要ですから、伝令をお願いしてクシナタ隊の方にお越し願うとしま」

 

「その役目、私にお任せください」

 

「なっ」

 

 説明のさなか、乱入してきた人物に声を出されるまで気づかなかったのは、女装というキーワードに相当動揺していたからだと思う。

 

「へ、陛下!」

 

「そ、そのようなことを軽々しく」

 

「はい?」

 

 そして、引き連れていた男女の声でさらに驚く。

 

(へいか?)

 

 乱入者は旅装の黒い瞳で黒髪の女性。ぶっちゃけクシナタ隊にいた記憶があるし、見覚えもあるのだが。

 

(陛下って、まさか)

 

 あのお姉さんが同行していたのは、クシナタさん達のグループ。俺が知りうる限り一番ありうるのは、ロマリアの王。

 

「まさか、ロマリアの」

 

「はい、先日に即位を済ませてます、スー様」

 

「いや、ちょっと待て」

 

 じょおうさま が いっかい の とうぞく に あたま を さげるの は いろいろ まずい と おもうのですが、これ。

 

(というか、王位受け取ったのがクシナタ隊の一人とか)

 

 俺の予想と想定はいろいろ甘かったらしい。視線が遠くなる中、俺に頭を下げたのは想定外だったのか、お供の人達も固まっていた。

 

 

 




ちなみにこのダーマのお話、ウィンディさんの出番があまりにもなかったので用意したものでもあったりします。


次回、第三百五十話(仮)「乱入者+α」

女王様合流。

うむ、こう書くと別の意味にもとれそうだ。

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