強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百五十一話(仮)「主人公、ひらめく」

「……と、まぁ情状酌量の余地を含む相手や、こちらの為に敵対するものを丸ごと道連れに自らも倒されようとする者が居る訳だ。俺としては特に後者は救っておきたい」

 

 説明で外せなかったのは、当然元バニーさんのおじさまについてだ。

 

「勇者一行のお一人の」

 

「ああ、父の友人とも聞いている。同時に強力な防具を開発しようとしていたようだからな。心理的な理由以外でもどうやって救うかを考えていたところだ」

 

 このタイミングでロマリアの女王になった元クシナタ隊のお姉さんが訪ねて来てくれたのは、まさに渡りに船だった。

 

(問題があるとすれば、今俺が思いついたものなわけで、エピちゃんのお姉さんに話してもいない独断だってことだけど)

 

 穴は特にないはずだし、今のところウィンディが口をはさむ様子はない。

 

「問題ないよな?」

 

「そうですね」

 

 一応確認をとると、エピちゃんのお姉さんから返ってきたのは首肯。

 

「と、言うことだ。そも、イシスの城下町が襲われたのもバラモスが軍勢を派遣したことに起因する。罪人に手心を加えるのは間違っても褒められた行為ではないが、まげて頼む」

 

 これが通れば、後はあのオッサンが操ってる連中をウィンディの策で倒すだけ、ダーマを悪夢から開放するのに一歩近づく。俺は何の躊躇もなく頭を下げ。

 

「す、スー様」

 

「もっと自分のことを考えてもいいと思うと言って舌の根も乾かぬうちにする願い事だ。しかも相手が女王陛下ともなれば、これでもまだ手ぬるいとは思う、だが――」

 

「はい、そこまで」

 

「な」

 

 尚も言葉を続けようとしたところで、割って入ってきたのはスミレさんだった。

 

「女王陛下とお付きの方の手前、ってこともあってなんだろうけどやりすぎはよくないよ? あたしちゃん達クシナタ隊のメンバーがスー様のお願い断るはずがないし」

 

「えっ、あ、そ、そうです」

 

 助け舟を出された形のお姉さん、ことロマリアの女王は頷き。

 

「と、女王陛下も仰ってるご様子」

 

「……スミレは相変わらず、なんですね。職業訓練所で遊び人になった時の、あの時のまま」

 

 テンパっっていた女王はお道化るスミレさんに視線をやると微笑する。

 

「クシナタ隊に入るときに決めたからって言ってみる。所謂あたしちゃんなりの覚悟?」

 

 どういう覚悟だとツッコんではきっといけないのだろう。

 

「ふふふ、スミレらしいです」

 

「お褒めに預かり、恐悦至極」

 

 見る限り、そこは二人だけの世界であったから。

 

「女王様、大変そうだけど体に気を付けて。怪我とかなら、幼馴染価格で回復呪文させていただきます、キリっ」

 

「お金、とるんですか?」

 

「じょうだん に きまって ます」

 

 相変わらずぶれないというか、何と言うか。ただ、ここまではきっちりと不敬罪にならないように考慮していたように見えたのに、そこからは年齢の近い娘さん同士のふざけあいに見えて。

 

「へ、陛下」

 

「ごめんなさい。もう少しだけ、あと少しだけ……この子のスミレの幼馴染であるただの娘でいさせて」

 

 思わずお付きの人が上げた声に女王が頭を下げるのを見て、俺はスミレさん達へ背を向ける。

 

(さて)

 

 明らかに俺はお邪魔だった、だから。

 

「こっちはこっちで話をするか」

 

「そうですね」

 

 切り出す俺へエピちゃんのお姉さんが相槌を打つ。

 

「助けたい面々への措置はあなたの言うように、あの女王陛下にお任せする形でいいでしょう」

 

「ならば、俺は言われたとおりに策の一部として動くだけ、だな」

 

 どうやって元バニーさんの「おじさま」を助け出すかという問題はこれでほぼ片付いた。女装と言う一点がアレだが、ウィンディの策がうまくいくかについては疑っていない。

 

(それに、今なら約一名は取り込み中だし)

 

 女装がどうのと言った話を詰めてもスミレさんは首を突っ込んで来ないだろう。

 

(ただ、なぁ)

 

 一緒に行動する予定のカナメさんがこの場に居ないのが痛い。万全を期すなら、細部を詰めるのにカナメさんの存在は不可欠だ。

 

(かと言って、シャルロットが呼んでくるのを待った場合、シャルロットの前で女装する話になる上、その頃にはスミレさん達の話も終わっているという……)

 

 待った場合の弊害は多すぎた。

 

(うーむ、とりあえず、仮にだけでも決めておくかな)

 

 そして後でカナメさんにも話し、用意した案に問題があれば没にすればいい。

 

「ならば、この時間を利用して細部を詰めたものを(仮)としてでも用意しておこうと思うのだが」

 

「まぁ、そうですね。他の人が来たらできない話ですし」

 

「ああ」

 

 と言うか、シャルロット達の前で女装して同性を引っかける話なんてできてたまるかといいたい。

 

「確か、ごろつきをひっかけるんだったな?」

 

「はい、まぁ。女装を頼むのは、『ダーマでは見慣れない女性=ダーマに来たての女性』ということでごろつきにカモだと認識してもらう為でもあるのですが」

 

「となると、俺達が引っかけることになるのは――」

 

「はい、がーたーべるとを押し付ける男性を介入させるために女性へ絡む役割のごろつき達です」

 

 エピちゃんのお姉さんが確認へ頷いた時点でだいたいわかっていた。

 

「狙いは、とは聞かない方がよさそうだな」

 

 ただ、詳細を聞いてこっちが勝手な判断をして策が瓦解するのも拙いと敢えて踏み込んでは問わず、代わりに別の質問を投げる。

 

「それで、俺はごろつき達をどうすればいい? 捕らえればいいのか、それともどこかへ誘導するか?」

 

 実は介入してくる手はずになっているがーたーべると押し付け要員が本命の可能性も考えられるし、引っかけたごろつきをそのまま何か別の策に組み込むことだって十分考えられた。

 

(女装と言うところに目をつむれば、案外まともな策の一部ともとれる訳で……)

 

 実際、まともな策なのだろう。

 

「他の方々の成果次第と言う面もありますが……まず、作戦行動中に黄色い服を着たお仲間の姿を見かけた時は、捕縛を」

 

「承知した」

 

「そして、服が青の時は今から言う場所へと誘導してください。あなたにことを起こしてもらうのがこのダーマの入り口付近。そして――」

 

 エピちゃんのお姉さんからの指示を時に承諾し、時には疑問を口にしつつ聞き。

 

「スー様、お待たせぴょん」

 

「お師匠様、呼んできまちたっ」

 

 シャルロット達の声がしたのは。

 

 




主人公「国家権力と繋がれれば、裏から手をまわして恩赦とか捕まえた奴らの罰の軽減も思うが儘だ、ヒャッハーっ」

注釈:意訳です。

次回、第三百五十二話(仮)「説明され、個別に呼ばれて指示をされるだけのお話」

なんだか思いきりそのまんまなサブタイですね、うん。

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