強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百五十二話(仮)「説明され、個別に呼ばれて指示をされるだけのお話」

「そうか、すまんな」

 

 振り返った俺は、まずシャルロットをねぎらい。

 

「いえ、これぐらい当ぜ……お師匠様、そちらの方は?」

 

「ん? あぁ、そうか、紹介しよう。ロマリアの女王陛下とお付きの方々だ」

 

 照れたシャルロットに問われて退室中にやってきた面々を紹介する。

 

「こんにちは、イシスでお見かけして以来ですね」

 

「えっ?」

 

 初めましてじゃない女王の挨拶にシャルロットは面を食らったようだったが、無理もないとは思う。

 

(魔法使いと女王じゃ印象が随分変わってくるだろうからなぁ)

 

 ついでに言うなら、確かにイシスの防衛戦やその後の方賞授与の時に見かけたりはしてるかもしれないが、現女王は当時もう一人の勇者のお仲間の一人と言うポジションだったわけだ。

 

「勇者クシナタの仲間の一人だった、と言えば分りますか?」

 

「あ。じゃあ、エリザさんのお仲間で」

 

「ええ。イシスを出てからは別行動でしたけれど。それで、今日こちらにお邪魔したのは――」

 

 経緯を説明しだす女王を見る限り、俺の出番はなさそうだ。

 

(と言うか、策の説明とかだってエピちゃんのお姉さんが居るからなぁ)

 

 後は壁際に立って話を聞いてるだけで済む気もする。

 

「ん?」

 

 そんな時だった、わき腹に何かが触れたのは。

 

「ねースー様、暇してる?」

 

「……そこは、自分が暇だと言うべきじゃないのか?」

 

 感触の正体がこちらをつついていたスミレさんの指だったことに驚きはない。

 

(まったく)

 

 ついでに言うなら自分とは別の道を歩むことを決めた幼馴染とのやり取りの後であることを踏まえれば、そのおふざけが額面通りのモノでないことも解かっていた。ただ、下手に気遣うとスミレさんのことだこちらの意図など簡単に察されてしまうだろう。

 

「スー様」

 

「ん?」

 

「ありがとう、と言ってみる」

 

 まったく、これだからスミレさんは厄介だと思う。

 

(心を見透かすのが賢者だって言うなら、元バニーさんや元僧侶のオッサンにも同じことが出来るはずだけど、そんな様子はなかったし)

 

 賢者はすべからく心が読めますとかだったら、こっちがたまらない。

 

(カナメさんにしても遊び人になったってことは賢者を目指してるんだろうし)

 

 ダーマ到着組以外のクシナタ隊のお姉さんたちの中にだって、転職できたら賢者を目指したいって人はきっと居るだろう。

 

(そもそも、賢者が人の心を読めるなら、賢者を経て僧侶と魔法使いの呪文を全部覚えたこの体だって人の心が読める筈だし)

 

 うん、もう考えるのはやめよう。

 

「……と言う訳なんだが、俺たちへの指示は何かあるか?」

 

 問いかけたのは、当然ながらエピちゃんのお姉さんへだ。

 

「そうですね、二人一緒となると……ああ、スミレさんはロープの扱いが得意でしたね」

 

「んー、それ程でも」

 

「……まぁ、ある意味間違ってはいない、か」

 

 この時、ウィンディの言葉を否定しなかったのは確かだが、だからと言って俺は悪くないと思う。

 

「では、ごろつきを捕獲後の拘束と尋問をお願いしましょうか」

 

「任されました」

 

 こう、けっかてき に ごろつきたち が へんたいてきな しばられかた を すること が なかば かくていした と しても。

 

「おそらく女性に絡んでがーたーべるとを押し付ける面々は、一組二組では足りないでしょう。そういった意味では、割ときつい役目になると思いますが、よろしくお願いします」

 

「ああ、やれるだけのことはやろう……となると、ロープはもっと買い込んでおいた方が良いか?」

 

 答えつつも疑問に思ったことを問えば、エピちゃんのお姉さんはそれには及ばないと首を横に振る。

 

「相手は商人です。物流、つまりロープを大量に買い込んだ人物が居るという情報が相手を警戒させることにつながる可能性があります。ロープが足りないなら相手の服の端を引き裂くなどして対応して貰うことになるかと」

 

「なるほど、相手が商人だからこそ、か」

 

 まぁ、捕縛対象が女性なら服を引き裂いて即席の拘束紐を作るというのには抵抗を覚えるが、ごろつき相手であれば、問題ない。

 

「ともあれ、この件はこれぐらいにしましょう。向こうのお話も終わりそうですし」

 

「そうか……ほぅ」

 

 言われてシャルロット達の方を見れば、女王がシャルロットの手を取っているところだった。

 

「ロマリアにお越しの際はお立ち寄りください」

 

「ありがとうございまつ」

 

 噛んでるところは聞かなかったことにするとして、女王の方がダーマにやってきた理由は説明しているようだし、あとはエピちゃんのお姉さんが俺たちにしたような個別の指示を受け取れば第一段階は終了だろう。

 

(女王が国を長く空けたままは拙いし)

 

 俺が言い出したことによるデメリットだが、協力者の滞在可能な残り時間を鑑みると、作戦の決行もおそらく近い。

 

「お師匠様、これならいけますね」

 

「ああ、そうだな」

 

 女王の話を聞いて、元バニーさんのおじさまを助けられるメドが立ったからか、どことなくテンションの高いシャルロットに相づちを打ち。

 

「さて、俺はこれで失礼しよう。よくよく考えれば頼まれた品をこのままにはしておけんしな」

 

 買い物の荷物がそのままなことを口実に宿の自室へ引っ込むことにした。

 

 




次回、第三百五十三話(仮)「始動準備」

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