強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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主人公「そうか、今日は七夕か」

シャル「お師匠様、どうしたんですか……急に窓の外を見たりなんかして?」

主人公「いや、織姫はどこかな……とな」

シャル「織姫?」




そんな完全番外編の季節モノをかこうとしたこともありました。



第三百五十三話(仮)「始動準備」

「女装……かぁ」

 

 部屋に引っ込んで最初に口にした言葉がそれになってしまったのは仕方がないことだと思う。

 

(うん、後悔はしてない……と言いたいところだけど)

 

 後悔なんてしてはいけないというのが正しいか。

 

(前言を撤回した上に自分で言いだしたことだからなぁ)

 

 まぁ、だからと言ってノリノリにもなれない。

 

「何を着ようかしら、うふっ」

 

 とか鏡の前でしなを作っていたら一大事件である。

 

「けど、今の俺にできることと言うと、いかにしてエピちゃんのお姉さんの指示を遂行するかぐらいだからなぁ」

 

 ウィンディは策の全貌を俺にも話さなかった。時々ポカをやらかす俺としては、機密保持と言われれば何も言えない訳だが、それ故にやれることは限られてしまっている。

 

「ごろつきを捕獲した場合についてはスミレさんが居ないとどうしようもないし」

 

 とりあえず、鞄を漁ってすぐ使わないものを取り出しつつ、ポツリと呟く。

 

「うーん、着替えはこのスペースに押し込むとして」

 

 他に必要なモノは何か。

 

「あぁ、一応ロープは入れてゆくか」

 

 スミレさんなら嬉々として荷物に入れていそうな気はするけれど、多くて困るモノでもない。

 

「けど、この鞄を持ったまま動くなら、どこかに隠せる服装の方が良いかな」

 

 隠し場所としてまず思いつくのはスカートの中だ。

 

(……動きやすい服装、動きにくい服装、色々体験させられたしなぁ。うぐぐ)

 

 女性の服に詳しくなってしまった原因に思い至った時、心の傷が開いてしまったが、今更である。

 

「解かってた。こうなることは解かってたんだから」

 

 耐えるしかない。

 

「むしろ、ここはこの機会を利用してトラウマを乗り越えてしまうべきか。……そう言えば、モシャスの効果についても検証がいくつか残ってたような」

 

 死体でも実物がそばにあれば魔物には変身できた。おかげで短い距離なら海を渡ったり空を飛べて重宝したが、まだためしていないこともある。

 

「参考になる相手を見ない状態でのモシャス……出来ればこの呪文の価値が高まるんだけど」

 

 クシナタ隊でモシャスを覚えたお姉さんの誰かに協力してもらえればと言う前提になるが、スレッジと俺が同じ時間に違う場所へ居ることもできるし、同様の方法でマシュ・ガイアと俺が別人と言う偽装もできる。

 

「シャルロットに変身した俺がシャルロットと別の場所で行動することで大魔王とその軍勢をかく乱するとかだって――」

 

 おそらく可能だろう。

 

(と言うことは、勇者で無い俺でもデイン系呪文を放てるチャンスがくるかもしれないんだ)

 

 いや、まぁクシナタさんにモシャスすれば良いだけかもしれないのだけれど、別行動中の現状では難しい。

 

(そこでこの検証の出番と言う訳なのです)

 

 べ、別にこっそりシャルロットに変身して変なことをしようって訳じゃないんだからねっ。

 

「ま、まぁ……とにかく考えるより検証だ」

 

 謎のツンデレ風弁解をごまかすように頭を振った俺は、鏡の前に移動する。

 

「実物をじっくり見ることが出来ない魔物とは違う」

 

 一緒に旅をしたシャルロット達のことなら、瞼の裏にはっきりとイメージできる筈。

 

「後はそれを呪文で写し取れれば……」

 

「で、勇者様に変身するぴょん?」

 

「いや、どちらかと言うと、元バニーさんに……うん?」

 

「はぁい、スー様」

 

「え゛」

 

 不意に聞こえてきた声に返事をしてから目を開けると、鏡に映ったカナメさんがヒラヒラ手を振っていて、俺は石化する。

 

「頼まれていたものの受け取りと、明日のことの相談に来たぴょん」

 

「……ドアにカギ、かかってませんでしたっけ?」

 

「勇者様にこれを借りたぴょん」

 

 そう言ってカナメさんが俺に見せたのは、とうぞくのかぎ。

 

「魔法の鍵があるからもう使わないって話を聞いて、だったら貸してほしいと言ったら快く貸してくれたぴょん」

 

 ああ そういえば ぴらみっど こうりゃく したんでしたね。

 

「……俺のプライバシーは?」

 

「ノックなら何度かしたぴょん?」

 

「えっ」

 

「ついでに入っても良いって確認も。そしたら、『あぁ』って声が中から」

 

「……俺は許可を出したつもりは全くなかったんだが」

 

 ひょっとして、考えるのに夢中で生返事でもしてしまったんだろうか。

 

「えーと、どの辺りから」

 

「『けど、この鞄を持ったまま動くなら』の辺りからずっと居たぴょん」

 

 うわーい、こころ の きず が ひらいて もだえてた ところ とか ばっちり みられてる じゃないですか こんちきしょーめ。

 

「……冗談はこれくらいにして、スー様のその検証、してみる価値はあると思うわ」

 

「えーと」

 

「大丈夫、口外はしないから」

 

 これは、スミレさんじゃなかったことを幸運に思うべき何だろうか。

 

「とにかく、本題に移りましょ。何かに使えるかもしれないから検証を先にして、その後で打ち合わせをする流れでいいかしら?」

 

「そ、そう……だな」

 

 俺はこの後、カナメさんに外に出てくださいとお願いし、再び鏡の前に立った。

 

 念のため、服もゆったり目のモノにしてある。後は目を閉じ呪文を唱えるだけだ。

 

「モシャス」

 

 変身したい相手の姿を脳裏に浮かべ、呪文を唱えた俺は、ゆっくりと目を開く。

 

「な」

 

 そして、想定外の事態に固まった。

 

 




ドラクエⅣの二次創作だったか何だったか、勇者が鏡の前でシンシアにモシャスするのがあったような。

次回、第三百五十四話(仮)「失敗しちゃった」

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