強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百五十八話「くりかえし」

「……とりあえず、これで三回目か」

 

 がーたーべるとを押しつける為の前準備として絡んでくるごろつき達はエピちゃんのお姉さんが一組二組ではないと予想していたがまさにその通りだったと言える。

 

(しかし、しじやく を しゃるろっと に するの は やめてほしい のですよ)

 

 最初に退路から逃げ出してから俺は更に二組のごろつき達を誘き出し、退路を抜けたところで足を止めると遠くを見る。

 

(見かけた時の反応からバレていないとは思うけど)

 

 髪型も二度目からは出来るだけ顔が隠れるように弄ったりしてはいるものの、見かけるたびにバレないかと内心ヒヤヒヤしてるのだ。

 

(かと言って言いつけを破ってモシャスの呪文使う訳にもなぁ)

 

 効果時間の存在するあの変身呪文では、誘き出す途中で効果がきれてしまう可能性もある。そも、こっちで勝手なことをしてしまってはウィンディの計画が狂ってしまうだろう。

 

(……化粧とか髪型で誤魔化せてることを祈るしかないかな、うん)

 

 エピちゃんのお姉さんからは、このごろつきを引っかける活動を中止の指示があるまで繰り返して下さいと俺達は言われている。

 

(……ここまでは青が二回に黄色が一回)

 

 黄色はその場で捕縛という指示だが、拘束と尋問役のスミレさんがイキイキしすぎて何とも言えない気持ちになったのは二回目のこと。

 

(はやく赤服来ないかな……あ)

 

 作戦完了、もしくは中止の指示であるその服の色を待ちわびながら周囲を見回した俺の目に飛び込んできたのは、今まで引っかけたのとは別のごろつき集団だった。

 

「次は、あれか……え?」

 

 流石に求婚してくるような目のおかしい男は最初の一人だけだったが、あの後二人程にナンパされた俺としては、地味に心が折れ始めているのだが、青服のシャルロットを通り過ぎさせる辺りウィンディは容赦ない。

 

「……はぁ」

 

 出来れば今度は目の腐ったごろつきが居ないといいなと思いながら、ダーマの入り口方向へと回り込む。

 

(あの連中が注意を向けてるのは入り口オンリーだもんなぁ)

 

 絡む為の標的を見つける為なのだろうが、逆に言うとそれ故に他の方向からの警戒は疎かになっている。

 

(……問答無用で、捕縛したい)

 

 今なら不意をつくのも簡単だろう、だがそれでは指示に違反する。

 

「スー様、元気出すぴょん」

 

「あ、あぁ」

 

 そうして挫けそうになった時に励ましたり、化粧直ししてくれるカナメさんだけが唯一の癒しだ。

 

(すみれさん? むしろ とどめ を さし に きますよ、あのひと は)

 

 捕縛指示でやった来た時に顔を合わせ「あたしちゃんより美人」と絶賛してたのは、絶対にからかっていたのだと俺は確信している。

 

(いっそのこと「だったらあたしとお付き合いする?」とでも反撃してやれば良かったかなぁ?)

 

 いや、駄目だ。スミレさんなら平然とOK出して想定外の展開にあたふたする俺を見てお楽しみかねない。

 

(なら、いっそのこと……この作戦が終わったらエピちゃんのお姉さんに男装を強要するか)

 

 やると請け負ったのは俺だが、最初に女装と言い出したのはウィンディなのだ。このモヤモヤした気分をぶつけられても決して八つ当たりでないと今は言いたい。

 

(うん、何だか一瞬日本語が怪しくなった気もするけど、まぁいいや)

 

 今すべきは、指示に従うこと。ダーマの悪夢を終わらせ、元バニーさんの笑顔を取り戻す為にも。

 

(オッサン助ける為に、だとモチベーション上がらないからなぁ)

 

 大義名分に使った元バニーさんにはモシャス検証に続き申し訳ないと思うが、許して欲しい。

 

「さて……俺は俺でやれることをするか」

 

 それが、女装でごろつきを騙して誘き出すだけの何とも言い難いお仕事だとしても。

 

(ここをあっちに進めば、奴らの鼻先に出る筈……)

 

 とりあえずは連中の視界に入るところを横切って、寄ってこなければこちらから出向く。

 

(今回はおかしな趣味のごろつきが混じっていませんように)

 

 二度あることは三度あると言うので祈りつつごろつきの視界に入るよう足を運べば、あちらもこっちに気づいたらしい。

 

「おい、あれ」

 

「おおっ、久々の獲物だぜぇ」

 

 一人が指させば喜色を隠さず隣のごろつきが声を上げる。

 

「ようやく運が向いてきたなぁ、おい」

 

「ゴドバスんとこに最近はかっさらわれてばっかだったからなぁ」

 

 漏れてくる声を聞く限り、他に獲物を持って行かれてうだつの上がらない残念ごろつきと行ったところのようだが、まぁ、やることは変わらない。

 

(さてと)

 

 服の色が青だった以上、やるべきことは再び誘き出しだ。

 

「ちっ、気づかれたか。追うぞ!」

 

「おう」

 

 今ごろつきに気が付いたという態で慌てて踵を返し、小走りに来た道を引き返そうとすれば後方になったごろつき達の方から声がして気配が俺を追い始める。

 

(うん、ナンパしてこないだけマシかな)

 

 もっとも、女だと思われて追いかけられるというシチュエーションだけで俺の心の中の何かがすり減って行くのだが、これはどうすればいいのだろうか。

 

(あと、何回やればいいんだろ)

 

 そんな自問自答をした回数は数えるのもめんどくさくなる程。

 

「あ゛ぁぁーっ、ぎゃぁぁぁぁっ」

 

「んー、あたしちゃんが聞きたいのは悲鳴じゃなくて質問の答えだったり」

 

 スミレさんに捕まってあれこれされながら話を聞かれるごろつきの悲鳴は、なかなか耳の奥から消えてくれない。

 

(まぁ、元カンダタ一味なら同情の余地はないかぁ)

 

 やむなく一味に加わっていた者はジーンの様に解放している。よって、こちらに流れてきたのは、悪人のみの筈だ。

 

(と言うか、そう言えばカンダタはどうなったんだろ?)

 

 クシナタ隊のお姉さんの一人がロマリアの女王になっていると言うことは、金の冠を盗んだ頭のカンダタを含む一味と交戦し奪還したんだと思うけれど。

 

(順番逆でも問題無いのってFC版だっけ? まぁ、人攫いしてた方のアジトにはカンダタの姿は無かったわけなんだけど)

 

 これから落ち延びてくるのか、それともアレフガルドに流れ着くのか。

 

(この件が終わったら、念の為エピちゃん達に確認して貰おうかな)

 

 一時怪しい影になっていたアークマージや多頭のドラゴンまで倒した場所だ、調査の為にゾーマの手の者が派遣されてる可能性はある。そんな場所に人間を行かせるのは危険すぎるが、魔物となれば話は別だろう。

 

(全く、あの悪党め)

 

 要らない手間をかけさせてくれる。

 

(まぁ、それもこれもダーマの件が片づい……ん?)

 

 脱線した思考を軌道修正しつつ我に返った俺が視界の中に見つけたのは、赤い服のシャルロット。

 

(そっか、終わったのかぁ)

 

 女装するという前提があったからか、長い作戦だったと思う。

 

「帰ろうか、カナメさん」

 

 脱力感からか素の口調で俺は物陰に声をかけ、宿に向かって歩き出す。その先には新たな指示かもしくは今回の苦行の成果が待っているはずだった。

 

 




そうだ、モヤモヤするからおろちに八つ当たりしに行こう。

何てことにならない程度には主人公も成長してると思いたい。

ちなみに、ごろつきが名を出したゴドバスさんはスミレさんの尋問で今頃放送事故もかくやと言う顔をしていると思われます、合掌。


次回、第三百五十九話「一件落着を欲して」
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