強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百五十九話「一件落着を欲して」

「ふぅ」

 

 やっと戻ってきたという気がしてしまうのは、やはり長時間の女装を強いられたからだろうか。

 

「化粧は残ってないな?」

 

「大丈夫、綺麗に落としたぴょん」

 

「そうか。すまんな」

 

 カナメさんのお墨付きを貰うと礼を言いつつ宿屋の入り口をくぐる。

 

(とりあえず、まずはスミレさんと会わないとなぁ)

 

 借りた品をこのまま所持していてシャルロットや元バニーさんに知られたら目も当てられない。

 

(発覚って悪意を感じるタイミングでやって来るからなぁ、何故か)

 

 禍根になるぐらいなら最優先で返品して憂いをなくす。勿論口紅だけは後で買って返すつもりだけれど、直接唇で触れてしまっているので是非もない。

 

(さてと、スミレさんの部屋は……って)

 

 部屋が解らないならカナメさんに聞く方法もあった。とにかく女装の証拠隠滅が最優先だと考える俺は、一つ忘れていた。

 

「お帰りなさい、お姉様ぁ」

 

 カナメさんと一緒に帰ったならまず間違いなく待ちかまえていたエピちゃんと遭遇することと。

 

「お帰りなさい、お師匠様ぁ」

 

 シャルロットが師の帰還をお出迎えする良い子であることを。

 

(うわぁい、よてい へんこう かくてい)

 

 それは、迂闊に鞄を開けられなくなった瞬間でもある。

 

「ただいま、シャルロット」

 

 ともあれ、出迎えられては挨拶を返さない訳にもいかない。

 

「ところでシャルロット、ミリーと『おじさま』はどうなったか知ってるか?」

 

「えっ? あ、ちょっと聞いてきまつ」

 

 気を取り直し、そのまま情報収集することにした俺へ言われて気づいた様子のシャルロットは慌てて宿屋の奥に引っ込み。

 

「……知らないなら知らないで良かったんだが。いや、まぁ、その方が良いのか」

 

 残された俺は、呟く。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、お姉様ぁっ」

 

「ああ、結局いつものパターンぴょんね」

 

 別に一方的に懐いて行くエピちゃんと懐かれるカナメさんを見て現実逃避したくなったからではない。

 

「エピニア、待ちなさい。お姉様ならここにもいるのですが?」

 

「……やっぱりか」

 

 この流れでエピちゃんのお姉さんが介入してくるのは簡単に予想出来たことであったから。

 

(まぁ、俺達の行動の結果を聞くには筋書き書いた人が出てきてくれたって意味ではある意味好都合なんだけどさ)

 

 エピちゃんが居るのが拙い、カナメさんと一緒に居るのは尚悪い。

 

(脱線、するよなぁ? いや、脱線は違うか)

 

 脱線というか、本題を切り出してもスルーされそうな気さえする。

 

(かと言ってここでカナメさんやエピちゃんにお引き取り頂くと、絶対そっちについていくだろうし)

 

 とは言え黙って事態が落ち着くのを待っていればいいかと言うと、それも微妙だった。

 

「丁度良いところに来た、ウィンディ。お前の策とやらは結局どうなった?」

 

 故に、俺は無視されるのを半ば覚悟しつつ、エピちゃんのお姉さんに問い。

 

「ん? ああ、それならあれを見て頂ければ」

 

「あれ? ……な」

 

 普通に答えられて半ば面を食らいつつ、ウィンディが示した先を俺は視線で追い、驚きの声を上げた。

 

「この度はご迷惑をおかけしました」

 

 ほっぺたに手形を付けて頭を下げてくる元バニーさんのおじさまこと先日がーたーべるとの返品で対決した商人のオッサンが居たのだから。

 

「いや、その台詞は俺よりミリーにこそ言うべきだろう。それより……」

 

「端的に言うと、掠いました」

 

 視線をもどし、目で説明を求めれば、ウィンディの言は簡潔だった。

 

「は?」

 

 ただ、即座に理解出来るかは別の話だったけれど。もっとも、その辺りまでエピちゃんのお姉さんは読んでいたのだろう。

 

「あなた方がごろつきを引っかき回してくれたから向こうの警備に隙が出来ましてね。

女王陛下とお付きの方に逃亡貴族と関係のある商人達の元を訪れて貰ったんです、あちらの方が自滅用に用意していた罪状と証拠つきでね。ちなみに、証拠と罪状は尋問されたごろつき達が快く提供してくれましたよ」

 

 ウィンディ曰く、それで何人かをしょっ引けば後は簡単だったらしい。

 

「元々自分を含めて一網打尽にされるおつもりだったようですから、半分はそれに乗っけて貰うだけで良かったんです」

 

「……そうか」

 

「もっとも、あなた達の攪乱がなければ、商人達をしょっ引くのに手こずってここまで短時間では終わらなかったでしょうが。用心棒の居る、先方の息がかかった店の近くで騒ぎを起こしたからこそ、そちらの商人さんもこちらが敵対勢力壊滅に動くと見て自滅のお手伝いを始めて下さったのですよ」

 

 ただし、最後の最後で欺かせて頂きましたが、と続けたエピちゃんのお姉さんは、徐に二歩横へ動く。

 

「そう言う訳ですので、どうぞ先にお進み下さい」

 

「先に?」

 

「私は既にお礼を言われてますので。今頃、勇者様も感謝の言葉を受け取っている頃でしょう」

 

 そうか、そう言うことか。

 

「俺は俺の目的があってしたこと、ましてやったことがアレではな……」

 

 まして、モシャス検証の一件もある、どんな顔で元バニーさんに会えばいいのやら。

 

「スー様、ここはあたしに任せて先に行くぴょん」

 

 かなめさん、それ は なん の ふらぐ ですか。

 

(だいたい、任せても何もエピちゃんが襲いかかるのはカナメさんだけだと思うんだけど)

 きっと、ツッコんでは負けなのだろう。

 

「確かに、全員揃わないと話も纏められんな」

 

 ため息一つと引き替えに色々受け入れることにした俺は、かなり遅れてシャルロットを追う形となったのだった。

 

 




もうこれでダーマ編が終わっても良い。

だから、ありったけを。

とか、勢いで書きそうになりましたが、うん。

ともあれ、主人公が動いているのと同時に他の面々も動いていた結果、めでたしめでたしとなった模様です。

次回、番外編21「おじさまと私の(元バニーさん視点)」

この番外編できっとダーマ編は終了。

ちなみに出番のないエリザとサラ&アランはイシスに向かって、今はマリクと一緒に修行中だと思われます。

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