強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百六十話「忘れ物の回収、そして出来たら改修」

「どうしてこうなった」

 

 そう、出来るものなら声に出していただろう。

 

(とりあえず、シャルロットを追いかけてきたら、元バニーさんと一緒に向こうからやって来てくれた……元バニーさんの顔はちょっと直視出来なかったけど、私情を除けばむしろそこまでは丁度良かった……筈だよな)

 

 問題は、二人を連れてカナメさん達の元へ戻った後のこと。

 

(や、フラグっぽいもの立ててた風味だったし、心配は……してましたよ?)

 

 ただ、エピちゃん達のせくしーぎゃる時間は終了してるし、あの場には今回の作戦で助け出した商人のオッサンが残っていた筈だ。

 

(いくらエピちゃんとは言え、第三者がいれば自重するだろうし)

 

 それでも血迷ってカナメさんに何かしようものなら、スミレさんとか女王陛下が現役と元のクシナタ隊メンバーとして止めに入るとも思う。

 

(だからさ、大まかな経緯を明かされた後、捉えたごろつきや商人の処分を決めて解散とか、そんな流れって普通は考えるよね?)

 

それが、どうしたら。

 

「大切な相手の為に全てを投げ出せるところに感銘を受けましてね。私もエピニアに何かあれば、同じ様なことをしたかも知れませんし」

 

 どうしたら。

 

「どうか、私と結婚し――」

 

 どうしたらエピちゃんのお姉さんが元バニーさんのおじさまにプロポーズするとか言う超展開にたどり着くんだ。

 

(おかしい、ですよ?)

 

 ウィンディも結構残念だったり変態だったりしたものの、頭の切れる才女であり、ローブを脱いだ今の容姿はそこそこ美人で通る筈だというのに、何故、プロポーズの相手が商人のオッサンなんですか。

 

(おれ なんて ぜんぜん もてないんですよ? からかわれる のは しょっちゅう ですけど)

 

 勿論、本気で告白なり求愛をされても責任をとれない今の俺では困るだけなのだけれども。

 

(世の中、間違ってる。……と言うか、エピちゃんのことはどうする気なんだろう、ウィンディさん)

 

 徹頭徹尾エピちゃん第一主義だと思っていたからこそそう言う意味でも意外だったのだけれど。

 

(まさか、この求婚自体がエピちゃんの気を惹く為の策略だったりするとか? いや、けどそんな手にエピちゃんが引っかかるとも思えないしなぁ)

 

 むしろ、過剰に構う姉が卒業してくれることを喜び、祝福するのではないだろうか。

 

(わからない。……とは言え、直接それを面と面と向かって直接聞ける程空気読めない男のつもりもないし)

 

 何より、元バニーさんのおじさまの、つまり告白相手の返事がまだだ。

 

(……って、返事というか……そもそもあのオッサン幾つなんだろう?)

 

 エピちゃんのお姉さんが付き合って下さいという告白でなく、結婚して下さいとプロポーズしたところからして、独身なのだろうとは思うけれど。

 

(まぁ、その辺詮索するのはやりすぎだし)

 

 プライバシーの侵害かもしれない。そも、当人に尋ねられるような空気ではない上、他に唯一知っていそうな相手である元バニーさんにはまだ話しかけづらい。

 

(折り合い付けなきゃいけないのは解ってるけど、思い出しちゃうんだよなぁ)

 

 自分のやらかした失敗モシャスという失礼を。

 

(とりあえず、元バニーさんからおじさまを助けた件の協力についてはお礼を言われたし、あのオッサンは元バニーさんからすれば家族同然っぽいみたいだから――)

 

 俺に構ってる暇なんてないと思った。ない、筈だった。

 

「あ、あのご主人様……いいですか?」

 

 だが、事実は反した、と言うか話が終わった後、帰った俺を待ち受けていたのはドアをノックする音と続く、少し緊張を帯びた声。悪戯で誰かが声真似してるのでなければ、それは元バニーさんのものに違いなく。

 

「どうしてこうなった」

 

 ドアの向こうには聞こえない大きさの声で俺は呟いた。

 

「ああ」

 

 継いでそう答えてしまったのは、仕方ないと思いたい。流石にここで帰れとは言えないし、元バニーさんへは負い目があった。

 

「す、すみません……突然」

 

「いや……それより良いのか? あの商人とは久しぶりの再会なのだろう?」

 

 だから、迎え入れるなりの第一声は、建前でもあったが本音でもあり。

 

「すみません、気を遣って頂いて。そ、その……おじさまにはウィンディさんが居ますから」

 

「そ、そうか」

 

 淡い期待は、元バニーさんの口から出たエピちゃんのお姉さんに粉砕された。

 

(確かに、言われてみればその通りだよなぁ)

 

 ウィンディが求婚した時点でこの展開は予測しておくべきだったのかも知れない。

 

「し、しかし……まさか、あの求婚をうけるとはな」

 

 エピちゃんのお姉さんのプロポーズをあのオッサンが承諾した時点で。

 

「そうなってくるとウィンディは『おばさま』と言うことになるのか?」

 

 ことさら冗談めかして元バニーさんへ問うたのは、この場にいないあの女エビルマージへの意趣返しでもある。

 

「そ、それは流石に」

 

「冗談だ」

 

 残り半分は、後ろめたさを誤魔化す為。

 

(尋ねてきたってことは、何か用事があるってことなんだろうし)

 

 元バニーさんが尋ねてくるまでは何か忘れていることが会ったような気がして、それを思い出そうとひたすら考えていたのだが、訪問者を放置して一人考え事、と言う訳にもいくまい。

 

(途中までは出てきてるんだけど。何だったかなぁ……確か直さないといけないもの、だったような)

 

 例え脳内で歯がゆいことになっていたとしても。

 

「時に、訪問の理由を訊いても良いか?」

 

 だからこそ、俺は意を決し、切り出した。

 

 




ぎゃあああっ、ダーマ出れなかったぁぁぁぁぁぁっ。

次回、第三百六十一話「すれ違いは発覚するのか」


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