強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百六十一話「すれ違いは発覚するのか」

「っ」

 

 俺の言葉に元バニーさんは息を呑んだように見えた。

 

(単刀直入だったのが意外って訳ではないと思うけど)

 

 息を呑むと言うことは、話しにくいことだったのだろうか。

 

(……もう少し優しく聞くべきだったかな)

 

 今更ながらに少し後悔するが、お師匠様モードというかこの身体での通常モードが人に優しくないのは今に始まったことではない。

 

(優しく聞いたなら優しく聞いたで逆に心配されそうな気がするのは――)

 

 できれば きのせい だと おもいたい。

 

(しかし、聞いた直後に後悔するとか俺も……こうかい? そうだ、船だ。オリビア岬で改修すれば使えそうな船を見つけたんだっけ)

 

 何でよりによってこのタイミングで思い出すんだと自分で自分にツッコミを入れたくなったが、思いだしたモノの方は軽視出来るシロモノではない。

 

(船、かぁ)

 

 モシャスで魔物に変身すれば川や海を横断することは出来るが効果時間の都合上、長距離の移動は不可能。元親衛隊のスノードラゴンを足に使う場合でも魔物とは言え生物なので行軍には休息を挟む必要がある。

 

(ランシールと言うか地球のへそのある陸地までは休めるところのない大海原を進む必要があるからな)

 

 モシャスやスノードラゴンでどうにか出来ない以上、次の目的地までは船が必須という訳だ。

 

(となると、サイモンの使ってた船を使うか、あの廃船を直して使うかの二択なんだけど)

 

 サイモンはほこらの牢獄で蘇生させた人を運ぶ為ルーラで何処かに飛び去りそれっきりだったと思う。

 

(シャルロットの話を聞く限り、不可能を可能にした蘇生で生き返らせたあの……ロディさんとかはかなりの間ベッドから起きあがることも出来なかったようだし)

 

 となれば、今も生き返らせた人に付きっきりという可能性があった。

 

(サイモンの許可無しではあっちの船を使うのは難しい……よな)

 

 せめて居場所がわかれば、許可を貰いに行けるのだけれど。

 

(ん? だったらあの情報屋にサイモンの場所を聞きに行けばいいかも)

 

 知らないアルと言われてしまう可能性もあるが、聞きに行くのにダーマから出て別の町に行く必要がある訳でもない。

 

(それに、迷惑な新参者が一掃されたことも伝えておいた方が良いだろうし)

 

 出向く予定があるなら、もののついでだ、ただ。

 

「あ、あの……ご主人様?」

 

「ん? あ」

 

 声をかけられてようやく我に返る程心ここにあらずだったのは、明らかに失敗だった。

 

(やらかしたあぁぁぁっ)

 

 何か用があって尋ねてきたと言うのに。

 

「……すまん!」

 

「ご、ご主人様?!」

 

 失敗モシャスのこともある。土下座が相応な気もするが元バニーさんへ失敗モシャスのことなど話せるはずもない。故に、相手の話を聞き逃したことに対しての謝罪で不自然がない程度に抑えた謝罪にはなってしまったが、俺は頭を下げた。

 

「……聞いていなかった。わざわざ足を運んでくれたというのに、すまん」

 

 考え事をしていたから、と言うのも弁解しているような気がして理由は述べず、ただひたすらに詫びた。

 

「あ、あの頭を上げて下さい。その、す、すぐにお答え出来なかった私も悪いのですから」

 

「いや、明らかに非は俺にある」

 

 謝罪合戦へ突入してしまいそうな雰囲気は感じていたものの頭を上げなかったのは、我ながら卑怯だと思う。

 

(許して欲しかったんだろうけれど、浅ましいというか何というか)

 

 己が罪を隠したまま許して貰おうとは、なんと都合の良い。もっとも。

 

「何か、俺に出来ることはあるか? 埋め合わせをさせてくれ」

 

「え」

 

 罪悪感からそう申し出てしまったのは失敗だったと、言った直後に気づく。

 

(よくよく考えたら、話を聞いていなかっただけの埋め合わせとしては――)

 

 必死すぎる。何か隠し事していますよさあ疑って下さいと言わんがばかりである。

 

(とは言え、言い切っちゃった以上、取り消せない)

 

 俺に出来るのは、ただ元バニーさんの反応を待つことだけ。

 

「あ、あの……で、でしたら、許して頂けますか?」

 

「許す?」

 

 ただ、申し出に対する要求は想像を超えていた。許しを請うたのにあちらも許しを求めてきたのだ。

 

(と言うか、何かされたっけ?)

 

 胸を押し当てられたことはあるが、あれは責任がとれないというこちらの事情がなければ、ご褒美の類であるし。

 

「は、はい……その」

 

 こちらとしては心当たりがないのに、元バニーさんはもじもじして煮え切らない。

 

(まぁ、態度からすると言いづらいことなのだろうけれど)

 

 俺の失敗モシャスに匹敵する当人にはとても言えないことがあるとは思えず。

 

「……ならこうしよう、お互いに許すと言うことでどうだ?」

 

 記憶にある限り、元バニーさんがフォロー不能な大ポカをやらかしたことはない。

 

「……良いんですか?」

 

「ああ。俺もミスは数えるのが嫌になる程してきたからな」

 

 人目が無ければ今からでもベッドにダイブして枕に顔を埋めたくなる程に、とは続けず俺は肩をすくめるに止める言った。

 

「それに人に言えないことというのは誰にでもある。言えないなら無理に聞こうとは思わんさ」

 

 まぁ、いま きかれて こまる のは どちらか と いえば まちがいなく おれ ですけどね。

 

「ご主人様……あ、ありがとうございます」

 

「礼には及ばん。今の俺はお前に許しを請う身でもあるからな。……ただ、何かフォローが必要になるようなことなら取り返しがつかなくなる前に言ってくれ」

 

 この時の安易な妥協案が元で詰みました、なんてことは無いと思うが、一応念を押しておく。

 

「は、はい」

 

「では、この件はこれで終わりだ。今日は色々あっただろう、ゆっくり休むようにな」

 

 こうして何とか元バニーさんの来訪を乗り切った俺は、訪問者を送り出すとその後宿を抜け出すこととなる。

 

(思い立ったが何とやら、ってね)

 

 目指すは例の情報屋。まず、サイモンの所在を知ろうと思ったのだ。

 

 




船が手に入れば、いよいよランシール、そして地球のへそへ挑戦だ。

次回、第三百六十二話「再来訪」
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