強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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 先日買ったシレン5+プレイ中、「シャルロットが睡眠中に不思議のダンジョンへ迷い込む夢を見る」スピンアウト作品とか面白いんじゃないかと出来心が湧いた今日この頃。


第三百六十二話「再来訪」

「さてと、確かこの辺りだったはず」

 

 記憶を頼りに俺は昨日訪れた先日訪れた店を探していた。

 

(昨日の今日だし、あっさり見つかると思ったんだけどなぁ)

 

 周囲を見回し、未だ発見に至らぬ理由は単純明白、一つの要素を失念していたのだ。

 

(これは、あれか。昼と夜で印象が随分変わったりするって言う……)

 

 以前通ったはずの場所が、まるで見知らぬ通り。おそらく夜しか営業していない店やその逆に昼しか開いていない店があったりする関係ではないかとも思う。

 

(今更気づいても、遅きに逸したけど)

 

 来た方向は覚えているので、この年で迷子という恥ずかしい展開だけは今のところ避けられそうだが、店の場所をもう少ししっかり覚えておくんだったという後悔からは逃れ得ない。

 

(幸いだったのは、店の名前は覚えていることかな)

 

 確か、水鏡堂と言う店名だった。

 

(おそらく複製品と言うか偽物を扱ってるからこそなんだろうなぁ、あの名前は)

 

 モノを映す水鏡と、そっくりな偽物を作って売る店。皮肉なのか冗談なのかは解らない。

 

(水鏡に見たいモノを映し出す占い師が出てくるファンタジー小説とかあったけど、そう言う発想から情報屋って暗喩も含んでるのかな)

 

 店主の青年に確認しないことには、ただの推測だけれど。

 

(ともあれ、最悪店名を出して通行人なり目についたお店の人に店の場所を聞くだけで良いし)

 

 カナメさんのお陰で彼女持ちと誤解されているから、あのせくしーぎゃるの群れと遭遇したとしても追いかけ回されることはないだろう。

 

「勿論、自力で見つけた方が良いに決まっては居るがな」

 

 ポツリと呟いて、周囲を見回す。

 

(とはいうものの、本当に昼の顔と夜の顔が全然違うや)

 

 修行でダーマに滞在している人だけでなく、この辺りで商売してる人も客として見込んでいるのであろうアルコールの類を出す飲食店や、入り口に遊び人のお姉さんが立って呼び子をしてる明らかに大人用のお店があることに転職を司るダーマ神殿にこんな施設があって良いのかとちょっとだけ頭を抱えたくなったが、見なかったことにしておく。

 

(この手のお店はどんなところにもあると何処かの本で読んだ気もするしなぁ)

 

 ただ、思わず遠い目をしてしまうのは、許して欲しい。

 

(とりあえず、あの辺りには近寄らないでおこう)

 

 情報屋と言う裏の顔を考えると、いかがわしいお店の近く程怪しいのだが、アッサラームで聞き込みをしたことがあるとは言え、俺にあの手のお店への免疫が突いたとは思えない。

 

(そもそも元バニーさんのおじさまがせくしーぎゃるを広めてくれやがりましたからなぁ)

 

 呼び子のバニーさん(あそびにん)がせくしーぎゃるに汚染されていた場合、敗北を喫して店に引きずり込まれる可能性だってゼロじゃない。

 

「君子危うきに近寄らず、だな」

 

 真顔で俺は自分の言葉に頷いた。わざわざリスクを犯す必要もあるまい。

 

(探しても見つからず、人に聞いた結果その店だったらあのお店の隣だよといかがわしいお店を指さされでもしない限りはね……って、あるぇ? これ、フラグって奴じゃ――)

 

 胸中で呟いてから気づいたそれは出来れば気のせいであって欲しいと思う。そんな願いが、通じたのか。

 

「ん? アイヤー、誰かと思えばアナタ昨日の……」

 

「あ、あぁ……奇遇、だな?」

 

 離れようとしたいかがわしい店から出てきたのは、探していた店の主である青年だった。

 

(大丈夫、踏み込む理由が無くなったんだから、セーフ、セーフ)

 

 胸の中のモヤモヤを宥めつつ、俺は思わず引きつりかけた表情を直すと、用件を切り出す。

 

「丁度良かった。実はお前の店に行こうと思っていた所でな」

 

「ワタシの店アルか?」

 

「ああ」

 

 聞き返してきた青年へ首肯を返し、だったらこっちヨと言う情報屋の店主に先導され、たどり着いた先は、先程立ち止まって周囲を見回していた場所の真横。

 

「留守にしてたから明かりも消して閉店の看板出してたアル、本来なら今日はもう店じまいネ。ただし、お客さんワタシらの恩人だから特別ヨ」

 

 おそらく恩人というのは元バニーさんのおじさまが立ち上げた例の組織を潰したことを指すのだろう。

 

「そうか、すまんな」

 

 思うところはあったが、敢えてポーカーフェイスのまま俺は青年の好意を受け取り、店へ入るなり欲しているのは、一つの情報だと明かした。

 

「勇者サイモンの所在が知りたい。話があってな、急いでいるので出来れば手紙ではなく直接出向いて話がしたいと思っている」

 

「ふーむ、勇者サイモンアルか。サマンオサ解放後、バラモスの軍勢に侵攻されつつあったイシスを救援する為旅立った、と言うところまでは知ってるアルか?」

 

「ああ。と言うか、その後一度直接あってるからな」

 

「それは失礼したネ。そう言えば、結局救援は間に合わなかったとも聞いていたヨ。むぅ……となると、お客さんが欲しがってるのは多分アレアルな」

 

 こちらに頭を下げてから考え込みつつ唸った青年は、まだ裏がとれていないと前置きしつつも、こう言った。

 

「勇者サイモンは今ポルトガに滞在中ヨ」

 

「ポルトガに?」

 

「キメラの翼でダーマまで荷物を運んできた商人の一人が見たという話しネ。何でも病人の面倒を見てるらしいネ。勇者が病人の看病をする理由が不明なこともあって眉唾ものの情報ヨ」

 

 確かにこの青年からすれば、謎だろう。だが、病人の看病をする理由を知っている俺からすれば、ほぼ確定と言ってもいい有力情報だった。

 

「こんな情報しかなくて申し訳ないアル」

 

「いや、得難い情報だった、感謝する」

 

 恐縮する青年店主に頭を振ると、俺は情報料を支払って店を後にした。

 

 




サイモンの居場所を知った主人公。

ダーマを立つ一行は、果たしてサイモンと再会出来るのか。

次回、第三百六十三話「ダーマ出立」

出立、それはいくつかの別れも意味していた。

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