「出発は早くて二日後、おそらくバハラタまでルーラで船を運び、そこから船旅になるだろう」
一応レーベの西にある海岸から出発するルートも考えては見たのだが、地図で見る限り最短距離に違いはほぼ無く、ポルトガからの距離を考えただけでもバハラタの方が明らかに近い。
(それに、クシナタ隊のお姉さん達とレーベに立ち寄った記憶がないんだよね)
アリアハンへ連れて行った覚えなら有るのだが、レーベにした場合、アリアハンまでルーラで移動し、そこからレーベまで徒歩と言う余計な手間のかかる可能性が大いにある。
(ダーマとの距離を考えても、レーベはないな、うん)
アリアハンへ寄ることになるなら、メダル収集家のオッサンに挨拶をしてこられるという利点もあるのだが、今回は縁がなかったと言うことだろう。
「要請ばかりで申し訳ないが、出来るなら航海の為の物資準備も頼みたい。ダーマでロスした分、何処かで取り返さないと拙いからな」
「足を引っ張ろうとする輩を一度に処分出来たと思えば、無駄とは言い難いけれどスー様達によるバラモスの討伐には直接関係してこない一件だったものね」
穴埋めしたいと言うところは理解出来るわ、とカナメさんは言い。
「幸いにもあの商人達から没収した資金の一部をあの子が――女王陛下が今回の捕り物に協力した謝礼と言う形で回してくれたから、物資の代金はそれを当てさせてもらうけれどいい?」
「ああ。もし余った時は、そちらで使ってくれ。お前達にも世話になりっぱなしだからな。この身体が空けば何らかの形で礼をしたいところだが……バラモスに時間を与えぬ為に出来る限り急いでいる今は残念だが」
ひっくり返しても出てこない。
「ふふ、それは解ってるぴょん。ただ、必要経費以上のお金は要らないぴょん」
「しかし」
「オーブを集めたら、ラーミアを復活させてバラモスと決戦なのでしょ? スー様が居て負けるなんて欠片も考えては居ないけれど、先立つものが必要になる機会はまだ何度か残ってる訳だから」
「……カナメ」
一度食い下がっては見たが、カナメさんの静かな目は譲る気はないと言っているようで、俺は続く言葉を探そうとし途中で諦めた。
(そして、結局借り分ばかりが増えて行く、か)
カナメさんの言うことは間違っていない。バラモスはこの世界の人々にとって脅威であり、実際幾つかの国には爪痕も残している。
(勇者一行、か)
サイモンは幽閉され、
(こっちでは俺が小細工したせいか、シャルロットは勇者の一人という形だけど)
大魔王バラモスの魔の手から世界を救ってくれる希望として人々が認識していたっておかしくはない。
(ゾーマのことを知ってるのはアークマージのおばちゃん……アンさんを始めとした魔物達と俺が直接明かしたクシナタ隊のみんなだけだもんなぁ)
バラモスが倒れた後、ゾーマの存在を当人から知らされたらシャルロットはどうするだろうか。
(すぐさまアレフガルドに乗り込もうとするか、それとも……って、先のことを考えるのも良いけど)
とりあえず、地球のへそのオーブはこの後入手しに行くとして、未入手のオーブはまだ一つ残っている。
(イエローオーブかぁ)
情報屋の青年は最後に所有者の足取りで最後に確認出来たのがポルトガだと言っていた。
(そして、次の目的地もポルトガ)
交易網に引っかかってこなかったからもうポルトガにはないとは思うが、行方を追う手がかりはあるかも知れない。
(エジンベアはあくまで交易網に引っかからなかったと言う理由で導き出した俺の推測なんだけど)
一応、カナメさんには早くて二日後と言った。
(ポルトガで有力な手がかりが手に入ったなら)
距離次第では先にイエローオーブを追うことも考えておくべきだと思う。
(なら、連絡要員も居るな。ルーラの使える魔法使いのお姉さんに俺達とは別にポルトガまで飛んで貰って……)
首尾良く船を借りられ、かつイエローオーブの所在が近場だと解れば、ルーラでカナメさん達への報告に飛んで貰えばいい。
(行き先がエジンベアなら、船に密航して貰ってエジンベアへルーラで飛べる人員を増やすのも悪くないよね)
幸いにも今はまだカナメさんとの会話の最中。
「それで、ポルトガに向かう訳なのだが、実は……」
俺はイエローオーブの行方が解った場合、寄り道する可能性があることと連絡要員が居ることを告げて、予定に幾つか修正を加えてからカナメさんと別れた。
(さてと、後はシャルロットにポルトガへ連れて行って貰うだけ、か)
サイモンを探したり話をするのにくわえて、イエローオーブの手がかりを探すにも時間はかかる。だから連絡要員のお姉さんが俺達と同時にダーマを立つ必要はない。
「お師匠様、準備はいいでつか?」
「ああ、待たせたな」
カナメさんと話し込んだ関係で少し遅れてシャルロットと合流した俺は確認へ頷きを返し。
「ではいきますっ、ルーラっ」
完成したシャルロットの呪文で天高く飛び上がる。
(ポルトガ、かぁ。そう言えば、以前休暇を楽しんだことがあったっけ)
以前お忍びでバカンスをしたのが随分昔のことのように感じる。もっとも、流石にまだ見えては来ないが。
(……しかし、本当に縁のある国だよな)
実際にポルトガが見え始めたのは、色々思い出した後のこと。
「シャルロット、着地の準備を」
「はいっ」
やがて高度が下がり始め、徐々に大きくなる城と城下町の前へと俺達は降り立つことになるのだった。
こうして無事ポルトガにたどり着いた主人公とシャルロット。
何度も足を運んだこの国でいったい何が待っているというのか。
次回、第三百六十五話「人捜しと手がかり探し」