強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百六十六話「そう簡単に見つかれば」

 

「悪いねぇ、竜像の台座にはまった宝珠ってのは、ウチに持ち込まれたこともなければ聞いたこともないよ」

 

 そして、足を踏み入れた店で尋ねた結果は、ご覧の通りである。

 

(まぁ……なぁ)

 

 一軒目からアタリなどと都合の良いことを考えてはいない、だからやっぱりなと言うのが正直な感想だった。

 

「そうか。そう言った品が持ち込まれそうな同業者や好事家に心当たりはあるか?」

 

「うーん、知ってるかも知れないけれどこの国は交易が盛んだからねぇ、同じ商売をしてる仲間は多いし……そうだ。お客さん、お城には行ってみたかい?」

 

「そちらはこの後向かうつもりだ。東にある城下町の入り口から来たからな」

 

「あぁ、そっちから来たんじゃ仕方ないね」

 

 相手は地元の商人。城に向かうには、城下町を抜ける必要があるとまで説明する必要もない。

 

「そう言うことだ。行くにしても最後だな」

 

 近い場所から順に回った方が効率的だし、何処を回って何処がまだ聞き込みをしていないかという意味でもわかりやすい。

 

「そうなると私に紹介出来るのは幾つかのお店と……やっぱりお城関係になるけれどここの国王陛下は他国と交易網を作ろうという人達に協力してい」

 

「悪いが、交易網の方は良い。あちらには知り合いが居てな。何かあれば知らせてくれることになっている」

 

 知り合いが居るどころか、交易網を広げた張本人である訳だが、それはそれ。

 

(正直に話す必要はないし、話してもめんどくさいことになるだけだろうしなぁ)

 

 ともあれ、ここで目の前の骨董屋に聞いておくべきは、幾つかのお店と称した同業者の方だろう。

 

(俺の作った交易網が絡んでくるようなら、とっくに何らかの情報は入ってきてると思うし)

 

 もちろん、時間差で情報が入ってきている可能性もあるので、この国の窓口にも足を運ぶつもりではいるが、それも城下町の店を当たった後だ。

 

「じゃあ、私が紹介出来るのはこの通りにある一軒と通り一つ、向こうの二軒、それにここから随分離れた場所にある一軒だけだね」

 

「そうか、出来たら地図を書いて貰えるか?」

 

 骨董屋の言葉に俺が差し出すのは、ダーマで買っておいた羊皮紙と筆記具。つくづく補充しておいて良かったと思う。

 

「あぁいいよ……この通りの店がこれで、こっちの線が一つ隣の通りだ」

 

「すまんな。世話になった」

 

「いえいえ、毎度あり。捜し物が見つかると良いですね」

 

 返した貰った筆記具をしまうと、礼を述べた店主に見送られ、店の外に出た直後。

 

「おう、あんた知ってるかい?」

 

「……何をだ?」

 

 主語も無しにいきなり聞かれ、ツッコミを返しつつ声の方を振り向く。

 

「おっと、こいつは失敬。何でもこの辺には馬の嘶きが聞こえてくる家があるらしいぜ」

 

 ぺしんと頭を叩いてお辞儀をした男は、更に問うた。

 

「旦那は気にならねぇか?」

 

 おそらく、何を言いたいかは解る。だが、俺は敢えて問い返した。

 

「何がだ?」

 

 と。

 

「だからさ、何で家の中から馬の嘶きがするかってよ?」

 

 先に結果だけ言うなら、俺の予想は正しく。

 

(屋内から、馬……馬かぁ、ひょっとすると)

 

 原作の記憶の中に、条件に合いそうなものが有ったことを思い出した。

 

(バラモスの呪いで馬にされた人が何処かに居るんだっけ)

 

 この男が気になっているのが、もしそれならこの男は放置出来ない。呪われて馬にされた人からすれば、好奇の目に曝されるなどたまったものではないだろう。

 

「ならんな。俺は馬が門番をする城を訪れたことがある。あれに比べれば馬が家に居たところで驚くようなものではなかろう」

 

 故に否定した上、比べものにならない情報を投下する。

 

「は? 馬が城の門番? んな城有る訳ねーだろ!」

 

「つまり、俺が嘘をついていると?」

 

 男の反応はある意味仕方ない、だが真実を話して嘘つき呼ばわりされるのは不本意極まりない。

 

「や、そうじゃねぇ! その、何だ……」

 

 睨み付けると、男はあたふたし始め、それを見て俺はふんと鼻を鳴らした。

 

「疑うようなら連れて行ってやろう。ただし、俺は探しモノの最中でな。他にもやらねばならないことはあるが、まず、そのものが見つからない場合でも品物も行方に関した手がかりぐらいは見つけておく必要がある。嘘つき呼ばわりされては捨て置けんのでな。馬の鳴き声がどうのと好奇心を発揮出来る程度には暇なのだろう? ならば、俺の探しモノに付き合って貰おうか」

 

「ひ、ひぃぃ」

 

 少々強引な気もするが、男に別の仕事を押しつけてしまえば呪われた人が好奇の視線に晒されることもなく、こっちとしてはオーブの行方を捜す人手も増える。

 

(それに、首尾良くオーブの情報が手に入って竜の女王の城に連れて行けって言われたら、次の用事を口実に出来るからなぁ。「じゃあその前にバラモス倒しに行くから同行しろ」って言っても着いてくるつもりがあるなら、俺の威圧ぐらいじゃああも怯えないだろうし)

 

 ちょっと悪どい気もするけれど、そこは勘弁して貰おう。

 

(オーブに関しちゃそう簡単に手がかりにたどり着ければ苦労しなかった訳だしなぁ)

 

 今のところ収穫ゼロのまま空を仰いだ俺は、肩をすくめるとこっちを怯えた目で見ている男へと視線を戻すのだった。

 

 




しゅじんこう は げぼくA を てにいれた。

次回、第三百六十七話「聞き込みは続く」


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