強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百六十七話「聞き込みは続く」

「丁度そこの店で捜し物を扱いそうな店を教えて貰ったところでな。全部一人で回るのは骨が折れると思っていたところだ」

 

 だからこそ、男に出合えたのは丁度良かったとも言える。

 

(あちらからすれば、とんだ災難かもしれないけど)

 

 そこは、呪いにかかって苦しんでいる相手を好奇心から探し出そうとした無神経さへの罰、と言うことにしたい。

 

「この地図からすると、一軒だけ離れた店がある。お前にはここへ言って竜の台座にはまった黄色い宝珠を見かけたり持ち込まれたりしたことはなかったか、そう言う宝珠の話を何処かで聞かなかったか、聞いたとしたらどんな話かを聞き込み、報告して貰おう。俺はこの通りにある店を訪れた後、一つ隣の通りを順に訪ねるつもりだ」

 

 担当する店が多い分、聞き込み終了はおそらく俺の方が後になると思うが是非もない。わりと強引に手伝わせることにした上で紹介された四軒の半分をノルマとして課すのには流石に抵抗があったのだ。

 

「聞き込みが終わったならこ三軒を近い店から順に訪ねていけばいい。いずれかの店か、店に至る道で鉢合わせるだろう。報告は再会した時に聞く」

 

「あ、えっと……」

 

「不満か?」

 

 一方的に指示を出した上、まごつく男を睨み付けたのは、捜し物の最中声をかけられ、イラッとしたこともあるが、理由はもう一つ。

 

「と、とんでもねぇ。わ、解った。その黄色い宝珠(イエローオーブ)ってのの行方か現物が見つかりゃ、いいんだな?」

 

「ああ。有力な情報が手に入れば礼はしよう。城への同行とは別に、な」

 

 こちらの視線に屈した男へ頷き、最初の条件とは別のニンジンをぶら下げてやる。

 

(勝手に動き回られて呪われた人、と言うか馬にされた人が見つかっちゃったら強引にこっちの捜し物に巻き込んだ理由が半分くらいなくなるもんなぁ)

 

 確かバラモスを倒せば解ける類の呪いだった気もするが、それはうろ覚えながらも原作知識のある俺だからこそ解ること。呪われている当馬からすれば、いつ解けるともしれぬものなのだ。

 

(ただでさえ呪いに苦しんでる相手の心にずけずけとい土足で踏み込むような真似はさせられない……)

 

 踏み込む側に悪意など全くないにしても。

 

「ほら、ひとまずこれをやろう」

 

「うおっ、え、な、これは……金?」

 

「聞き込みをするにも先立つモノが必要だろう? 有力な情報が手に入れば余った分は懐に入れても文句は言わん」

 

 ダメ押しとばかりに小袋に入れた金貨を放った俺は、受け取るなり、中身を見て驚く男へ言う。

 

「へ、へへっ。そっか。黄色い宝珠(イエローオーブ)だったな? 待ってなとびっきりの情報を見つけてくるぜ!」

 

 現金と言うか、何というか。

 

(まぁ、やる気になってくれたなら良いか……さて)

 

 口元を綻ばせ踵を返すと走り出した男の背中を苦笑しつつ見送ると、俺もまた歩き出す。

 

「まわる店はこちらの方が多いからな。些少は急ぐか」

 

 一軒目の距離ならば、男に指示して聞き込みに行かせた店よりも遙かに近い。

 

(と言うか、看板だけならもう見えてるし)

 

 迷う可能性はゼロに等しい。

 

(問題は聞き込みの礼ぐらいだけど)

 

 話を聞くにしても、店の品を一個買うのと何も買わないのとでは店主の反応が変わってくる。

 

(出来ればかさばらないモノで手頃な値段のモノがあると良――)

 

 良いなぁとこえには出さず続けようとした瞬間。

 

「……ヒーン」

 

「っ」

 

 俺の足は、止まった。

 

(よりによってこのタイミングでそっちかぁぁぁぁぁ!)

 

 聞こえてきたのは明らかに馬の嘶きだった。

 

(誤魔化したとは言え、一応忠告しておくべき……か)

 

 戻ってきて俺を捜すあの男がこれを聞いてしまったら誤魔化した意味がない。

 

「寄り道になるが、是非もないな」

 

 一つ嘆息すると、通りを二軒目以降の店がある東ではなく西側へ一つ外れ。

 

(確か、こっちだったような……)

 

 先程の立ち位置と声が聞こえてきた方角の記憶を頼りに、進んだ先。

 

「ヒヒーン!」

 

「……あそこか」

 

 よりはっきり聞こえた嘶きに目的地を特定すると、俺は招かれざるお宅訪問を敢行すべく民家の入り口目掛け歩み寄り。

 

「あ」

 

 ドアに鍵穴を見つけて立ちつくした。

 

(そっか、そりゃそうだよね)

 

 呪われたなら、その姿を晒すことを嫌って施錠し、引きこもる。別段おかしな所は何もない。

 

(ゲームだったらとうぞくのかぎかまほうのかぎで解錠して上がり込む流れなんだろうけれど)

 

 鍵がかかってるなら、わざわざ忠告に来る意味はなかったかも知れない。

 

「……一応、紙に忠告文を書いてドアの隙間から入れておく、か」

 

 ついでにバラモスに呪われて打倒バラモスを誓い、城に乗り込んで手傷を負わせた猛者が居ることも記しておこう。むろん、言わずと知れた怪傑エロジジイのことであるが。

 

(これに少しは希望を見いだしてくれると良いけど)

 

 最初は勇者の名を出そうかとも思ったが、あのバラモスのことだ。

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃ、この大魔王バラモスさまに逆らったりするからバラモス」

 

 とか呪われた者の姿を覗き見て悦に浸っている可能性もある。なら、シャルロットの名を出して警戒させるのは良くない。

 

(それに、エロジジイはバラモスに唯一手傷を負わせた男と言うところまでは事実だしなぁ)

 

 バラモスの中のネームバリューとしては、あちらの方が上だと思う、警戒度も。

 

(覗き見してる悪趣味野郎なら牽制になるし)

 

 そうでなくても、手傷を負わせた猛者が健在だという情報は良いニュースになると思う。

 

(けど、結局の所根本的な解決とは行かない訳で)

 

 隙間から羊皮紙を押し込んだドアを一度だけ振り返ると俺は再び歩き出した。

 

(……行こう。オーブを見つけてバラモス城へ乗り込む為にも)

 

 当初の予定にあった一軒目の骨董屋に向かって。

 





「私はサブリナ。こうして出番を待っています。でも待てど暮らせど……」

 登場フラグが立ちかけたのに、出てきたのはカルロスの鳴き声のみという罠。


次回、第三百六十八話「思わぬ出会い」

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