強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百六十八話「思わぬ出会い」

「邪魔をする」

 

「いらっしゃいませ」

 

 時間を些少ロスしつつも一軒目の店に辿り着き、入り口をくぐれば出迎えたのは店の主の声。

 

「今、竜の像を台座にした黄色い宝珠を探しているのだが、この店には置いていないか? 扱ったことがあるとか、そうでなくても話を聞いたことがあるとかその品について知っていることが有れば教えて欲しいのだが?」

 

「うーん、黄色い宝珠ですか……すみません。聞いたこともありませんね」

 

 無駄にした時間を少しでも取り戻そうと、即座に用件を告げると骨董屋は唸り、次いで首を横に振った。

 

(まぁ、想定内の反応か。ここで有力情報が出るようならとっくに俺の耳に入ってる筈だし……ん?)

 

 驚くには値しない。ただ、話を聞いた以上適当に小物でも買っていこうと商品を撫でた俺の視線はとある一点で、止まる。

 

「店主、これは?」

 

「ああ、それですか、お目が高い。それは先日入ったばかりの品でしてね」

 

「と言うことは、売り物でいいんだな?」

 

 拾いあげて店主に示し、確認した品は以前別の場所でも見たことのある、星の意匠が施されたメダル。

 

「はい」

 

「では、全部貰おうか」

 

 まさかこんな所で小さなメダルを見かけるとは思わなかったが、売り物であるというなら遠慮する必要はない。

 

(こいつのコレクターしてるオッサンにはシャルロットが随分世話になったんだよね)

 

 誘き出す餌にするも良し。元バニーさんのおじさまの名前を挙げてから「まずは一人目、次はお前だ」と記した怪文書と一緒にアリアハンの井戸の中に放り込むのも良し。

 

(すっかり忘れてたからなぁ、何処かでお礼しないと)

 

 イシスでシャルロットが味わった精神的な苦痛を考慮すると、考え得る限り最高のお礼をするべきなのは明らかだ。

 

「いや、良い買い物だった。邪魔をしたな」

 

 ゴールドを支払い、笑顔で数枚のメダルを受け取った俺は、店を出ると通りを一つ横にずれる。

 

「ふむ、情報収集だけのつもりだったが、扱う品を鑑みれば掘り出し物と出会う展開も考えておくべきだったかもな」

 

 そもそも原作には登場しなかったお店だ。そう言う意味で、良くも悪くも原作知識は通用しない。

 

(もちろん、骨董屋である以上置いてある品は、美術品や道具の類に限られる訳だけど、ひょっとしたら性格を変える装飾品の類だってあるかも知れないし)

 

 まともな性格に変える品なら持っていて損はないと思う。

 

(あの女戦士にしてもおろちにしても性格を変える本が落ちてたとか落ちてきたとかそんな話だったし)

 

 備えあらば憂い無しとも言う。

 

(もっとも、掘り出し物探しに気をとられて初心を忘れたら目も当てられないから程々にしないといけないだろうけれど)

 

 目的はあくまでイエローオーブそのものかオーブの行方に関する情報を得ることなのだ。

 

「さてと、二軒目は確か……」

 

 俺は首を巡らせて二軒目の店を探し。

 

「おう、居た居た。おーい」

 

「っ」

 

 聞き覚えのある声を投げかけられて足を止めた。

 

(寄り道した上、羊皮紙に忠告文書いたりしてたからなぁ)

 

 自分が想像したよりも時間をかけてしまっていたのだろう、ただ。

 

(にしても、何故ああもテンションが高いんだろ?)

 

 手を振りつつこっちに駆けてくる男の様子が不思議というか腑に落ちず。

 

(まさか……いや、まさかね)

 

 いや、正確にはちょっとだけ心当たりはあったのだ。もの凄く都合が良すぎて、即座に脳内で否定できるものが。

 

「手がかり、見つけたぜ」

 

「な」

 

 だから、否定した筈のそれが男の口から出た時、俺は絶句した。

 

「いやー、苦労したぜ全く。黄色い宝珠(イエローオーブ)ってのだけどよ、もうこの国にゃないらしいぜ? 売りに来たマルコって商人がふっかけたらしくてよ、いや、あの店に売りに来た訳じゃねぇんだけど――」

 

 そして、黙り込んでいるこっちを尻目にしゃべった男の話によると、売りに来たものの希望する値段で引き取って貰えず、諦めてポルトガを後にしたと言う。

 

「それで、向かった先は?」

 

「あー、すまねぇ、店で聞けたのはそこまでだ。行き先についちゃ、『港の船乗りとかの方が詳しいでしょうな』だとよ」

 

「……まあ、仕方ないか」

 

 ダーマの情報屋の話では、この国に来たのは一年前の筈。しかも自分が取引相手でなかったなら、それだけの情報でも持っていてくれたことが奇跡だ。

 

(交易網の方には情報も上がってきてない訳だし)

 

 とりあえず、船乗りの方が詳しいと言うことは、船で何処かへ向かったのだと思う。

 

(しかし、これでは掘り出し物探しは諦めざるをえないよね)

 

 ついでに、この男を竜の女王の城へ連れて行くと言う約束もある。

 

「ならば、俺は港に向かうが、お前はどうする? 俺の目的はイエローオーブだからな、手がかりがあるなら追わねばならんが」

 

「ああ、あの話ならもういいぜ? こうして金をもう貰っちまってるからな」

 

「そうか。ではな」

 

 ゴールドの袋を見せて笑う男に、手間がかからなくて済んだと思いつつ俺は背を向け、歩き出す。

 

「おう、あんたがオーブを無事見つけられることを祈ってるぜ」

 

「ああ」

 

 背にかかる声に軽く手を挙げて応じ、向かう先は、この国の港。

 

「……さて」

 

 潮の匂いを感じながら遠くに見えるは、帆船の帆。上を飛び交うのはカモメか何かの海鳥だろうか。

 

(思ったより距離があるなぁ)

 

 未だにゲームだった時のイメージを何処かで引き摺っていたのだろう。だが、この世界が妙なところでリアルだったりするのは今に始まったことではない。

 

「あ、またお会いしたでありますな」

 

「ん?」

 

 港までそれなりにかかりそうだなぁと思いつつ歩く俺はかけられた声に振り返り。

 

「ひょっとして、イエローオーブをお探しでありますか?」

 

「お前は――」

 

 訪ねてきたのは、以前レッドオーブを届けてくれた軍人口調の女魔法使いのお姉さんだった

 

 




祝・再登場。

次回、第三百六十九話「残りの二人に出番の多さで妬まれてないと良いけど」

と言うか、残りの二人どんなキャラだったか覚えていない人の方が多そうな気がする。

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