強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百七十四話「で、海路を選択したら幽霊船とばったりとかないよね?」

「中々、大きい船だな」

 

 ひょっとしたらオリビアの岬で動かした廃船の一.五倍はあるのではないだろうか。

 

(……うーん、オリビアの岬で見つけたあの廃船、回収して直してもこの船の代わりは無謀だったかな)

 

 ゲームでは容量の都合とかによるグラフィックの使い回しとかで船は一律同じサイズだったかも知れないが、現実となれば単一規格で統一なんてされているはずがない。

 

(同じ造船場で浸かられた船とかなら別だけど、統一規格なんてなさそうだもんなぁ)

 

 周囲を見回してみれば、埠頭に停泊している船の大きさはまちまちで、流石に国王所有の船より大きなモノは見あたらなかったが、迫る勢いの大きさをした船は何隻か停泊していた。

 

(流石に元々交易を行っていた国だけあるな)

 

 時間に余裕があるなら、見物するだけでも色々発見があったかも知れない。

 

(ま、言っても仕方ないことだけど)

 

 それに今の俺にはやるべきことがあるのだから。

 

「勇者シャルロット様ですね」

 

「あ、はい」

 

 船の側で番をしていたらしい兵士とシャルロットのやりとりを横目で見た俺はこれから登るであろう甲板へと視線をやり。

 

「どうぞ、船へ。お話はサイモン様より伺っております」

 

 直後だった、兵士がシャルロットと俺を促したのは。

 

「すまんな。だが、乗る前に一つ聞きたいことがあってな」

 

 もし、この船で行くより陸路の方が目的地に早く着くようならば、従う訳にはいかない。

 

「聞きたいこと、と仰いますと?」

 

「あの、急ぎの用があってロマリアに行きたいんですけど、準備が出来るなり出港するとしてどれぐらいかかりますか?」

 

「風向きやら天候の都合で船自体を出せぬと言うこともあろう? 最悪陸路を行くことも考えているのだが」

 

「ああ、そう言うことでしたか」

 

 訪ねる兵士に二人がかりで事情説明を行えば、返ってきたのは、船の方が早いとの答え。

 

「嵐と遭遇する可能性もゼロとは言いませんが、この季節であればまずないかと。馬を使ったとしても陸路は距離がありますので、出航までの準備を加味しても船の方が早く着くと思われます」

 

「そうか、助かった。……シャルロット」

 

「はい、お師匠様」

 

 微笑んで言外に何とかなったようだなと言ってみれば、伝わったらしくシャルロットも笑顔で頷き。

 

「船室は一つで良いって伝えてきますね」

 

「待て」

 

 流石に背を向けようとするシャルロットにツッコんだ。

 

「え?」

 

「これだけ広い船だ、船室も複数有るだろう。何故わざわざ一つにする?」

 

 この国で別れた時に釘を刺した意趣返しだろうか。

 

「だって、航海中に魔物が出るかも知れませんし、戦える人員は同じ部屋にいた方がいざというときに対応しやすいかなぁって」

 

「……すまん、言われてみれば確かにそうか」

 

 原作では魔物と遭遇しても対応は勇者一行のみで行っていた。となると、乗組員は戦える程強くないか、勇者達とは別の魔物と戦っていたのかも知れない。

 

(何にせよ下手に勘ぐった俺が悪いな、今回は)

 

 即座に詫びた俺は自己反省しつつ、今度こそ去って行くシャルロットを見送ると船縁に向かって歩き出す。

 

「さてと。出発前にすることはせんとな」

 

 ロマリアまでの航海が終わったとしても、次はランシールまでの航海でお世話になるのだ。

 

(色々やっちゃったから船のお世話になるのは、あとラーミアを目覚めさせる為にグリーンランド……じゃなくて何だっけ? あの凍土に覆われた島に行く時ぐらいだけど、お世話になるって時点で挨拶は必須だよね)

 

 最初へ船長に挨拶と言いたいところだが、船長が今どこにいるか解らない。

 

(船長室に出向いて空だってことも有る訳で)

 

 それなら挨拶ついでに近くの船員さんに聞いてしまおうと言う訳である。船縁に近づいたのも、そこに人影を見たからに他ならない。

 

「済まないが、ちょっと良いだろうか?」

 

「あん?」

 

「今日から世話になる客の一人なんだが、まず挨拶にと思ってな。船長が何処にいるか教えて貰えるか?」

 

「おう、何だ兄ちゃん客なのか。そいつぁ、案内してやりてぇところだが、俺は荷の積み込みがあってな」

 

 尋ねた船員からの答えがつれないモノであったのはある意味仕方なかったとは思う。

 

「そうか、手間をとらせた。これは酒代の足しにでもしてくれ」

 

 当人への挨拶も仕事の邪魔と見た俺は数枚の金貨を取り出すと、男の掌にのせ、挨拶の代わりにして背を向けた。

 

「って、おい。悪ぃな、兄ちゃん。おぅ、そうだ。船長に挨拶するって言うなら副船長にも挨拶するんだろ? その時に変わった骨について聞いてみると良いぜ」

 

「変わった骨?」

 

 ただ、投げられた声に立ち去ることが出来ず、もう一度振り返ることとなったが。

 

「おう。実は前に幽霊船と出くわしてな。仲間が度胸試しに勇者様の後をつけて拾ってきたモンなんだけどよ。紐で吊すと奇妙な動きをするらしいんだ」

 

「……成る程、それは船乗りの骨だな。幽霊船に囚われた魂の宿った骨は吊すと、己が乗る船の在処を指し示す、と聞いたことがある。元々嵐に沈んだと言われる船だ。財宝を求めて幽霊船を探す冒険者から聞いた話だったような気もするが」

 

 船員の説明に俺はとりあえずそれっぽい説明をしてみるものの、うん。

 

(なに ひろって きてるんだ その せんいん)

 

 借りることが出来れば、とりあえず幽霊船とランデヴーなんて展開は避けられそうだから、無駄ではない様な気もするけれど。

 

(幽霊船自体にはもう用はないんだよね、ただ)

 

 いつまでも海原を彷徨わせるのも微妙に気の毒な気はする。

 

(とは言え、成仏のさせ方とかは解らないし)

 

 いっそのこと船ごと引っ張ってきて船体を解体、残ってる遺体に日の光を浴びさせた上で聖水をかけてから埋葬してみるか。

 

(うーん、何か違う気がする)

 

 一応、蘇生呪文を試してみるという方法もあるには有るのだけれど。

 

(記憶が確かなら、あの船に乗っていた幽霊の半数以上は犯罪で奴隷に堕とされた人っぽいからなぁ)

 

 蘇生させて良いモノかという問題もある。

 

(って、いけない。また脱線を)

 

 とりあえずは船長へ挨拶へ行くべし。出航準備の始まる船の中、俺は再び歩き出した。

 

 




グリンラッドの老人「解せぬ」

次回、第三百七十五話「私が船長です」



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