強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百七十六話「ロマリア到着」

「作戦会議、と言ってもな」

 

 気を取り直してシャルロットを探し始めた俺が、ポツリと呟いたのは、見つけた当人の口から防音に部屋を加工してくれと船長に依頼した理由を聞かされ後のこと。

 

(現時点で決めておくことなんてないからなぁ)

 

 一応、カンダタを捕まえる為になら打ち合わせは居ると思うが、現状では参加者と情報が足りない。

 

(ゲームとこっちじゃ建造物の構造にも結構差異があるし)

 

 一度も行ったことのないお城を原作の知識のみで侵入者への対策を練るとか無謀も良いところだ。

 

(女王になった元クシナタ隊のお姉さんとか向こうの人達も居ないんじゃ決められることにも限りがあるし)

 

 ロマリアに着いてから打ち合わせするなら、船の防音設備は全く無意味になる。

 

(ついでに言うなら、防音にしたら外で何か異変があっても気づくの遅れるよな)

 

 内密の話をするにしても部屋の外で見張りをしている人員が一人は居ないと航海中に問題の部屋を使うのは拙いと思う。

 

「と、言う訳で俺は別の部屋を使う。聖水を使っているから今回は魔物と遭遇することは無いと思うが、快適に慣れてしまうと問題だからな」

 

 シャルロットへはそう理論武装して説き伏せ、船室を出て向かう先は船の甲板。

 

(陸の側だし、まだ波は穏やかみたいだから良いけど……陸地から離れたとたん本格的に揺れるかも知れないし)

 

 船旅はこれが初めてではない。バハラタからアッサラームまでは交易船に乗せて貰って辿り着いたし、オリビアの岬では廃船を動かしたことだってある。

 

(とは言うものの、過信は禁物なんだよね。シャルロットの前で師匠の俺が酔ってリバースとか、そんなのあり得ないし)

 

 念には念を入れる。甲板で景色を見ていた方が酔う恐れは少ないと思うのだ。

 

「っ、甲板か」

 

 差し込む日の光に手をかざし遮る動作へデジャヴを感じつつ階段を上がれば、視界に広がるのは青い空と海。

 

「……こういうのも悪くはないな」

 

 カモメか海猫か、鳥の鳴き声が後方からは聞こえ。

 

「フシュオオオ」

 

 少し離れた場所で、急に水しぶきが上がると、海面に顔を出した大きなイカが方向転換して離れて行く。

 

「……聖水の効果は覿面、か」

 

 呪文でこんがり焼くにも、備え付けの大砲で砲弾をお見舞いするにも去って行くイカは遠すぎ、出来たのは見送ることのみ。もっとも、シャルロットが一緒に乗り込んでいる船で攻撃呪文なんて使えるはずもないが。

 

(……しかし、こんな距離でも魔物って出没するんだなぁ……ん? あ)

 

 港を出てからそんなに経っていない状況で魔物を目撃したことで密かに驚きを感じた俺は、魔物の向こうに見える景色に引っかかりを覚え、唐突に思い出す

 

(最初にポルトガルに行こうとした時も、こっちが口笛で呼んだとは言え、あっさり魔物と遭遇した気もするし、そんなに不思議でもないのか)

 

 あの大きなイカにしても倒して命の木の実を手に入れたような気がする。

 

(……あの時は酷い目に遭ったよなぁ)

 

 魔法使いのお姉さんが誤解をしたのだったか。僧侶だったアランの元オッサンにロクでもない誤解もされた覚えもある。

 

「……ん? そう考えてみると二人っきりの船旅っていろんな意味で拙いんじゃないか?」

 

 有らぬ誤解を生むという意味では。

 

(防音仕様だとか船長の言いようとか、あれを魔法使いのお姉さんが耳にしたら、また誤解されるんじゃ?)

 

 考えてみると船旅はこれが最後ではないのだ。勿論ランシールまでの船旅もシャルロットと俺だけだろうが、オーブを全部揃えてラーミアを復活させる為卵の安置されたほこらへ向かう際は、元バニーさんと魔法使いのお姉さん、アランの元オッサンも加わった五人でと言うことになるはずだ。

 

(はぁ、今気づいて良かったぁ)

 

 本当に良かったと思う。イシスで修行してるであろう三人を回収し、船であの何とかランドにあるほこらへと出発する直前でなくて。

 

「予め可能性に気づいてれば、勘違いは防げるからな」

 

 船長とシャルロットには申し訳ないが、合流するまで防音部屋に一度も足を踏み入れなければ、疑われることもあるまい。

 

(ま、勘違い対策は後回しだけどね)

 

 今すべきは、ロマリアに着いてからどう動くかを決めておくこと。

 

「まず……カンダタを警戒させるのは拙い、な。シャルロットには変装して貰う必要が有るだろう。イシスで式典に出たことを鑑みれば俺もだが」

 

 ただ、変装してしまうと、ネームバリューでロマリアの女王へ謁見することが難しくなってしまう。

 

(うーん、やっぱりここはシャルロットには変装したまま宿に残って貰って俺が単独で城に潜入するか)

 

 あの国にはカンダタが王冠を盗まれたと言う失態ある。

 

(警備は当然厳しくなっているよなぁ)

 

 敢えて捕まった上で、女王の前に引き出されて接触するなんて手もあるが、流石にそれは格好悪いし、人目についてしまう。

 

(……となると、あれか。可憐なメイドさんに変装して潜入かぁ)

 

 下着のつけ方まで覚えているし、モシャスの呪文だってある。

 

(うふ、これで完璧ぃ……って、ちょっと待てぇぇぇぇっ!)

 

 何だ今の発想は。そもそも、脳内に浮かんだメイド服が竜の女王の城で見たモノだったのも解せぬ。

 

(いかん、ダーマで開いた心の傷は浅くなかったのかも)

 

 潜入なら兵士に変身で良いというのに、何故あんな発想になったやら。

 

(……きっと疲れてるんだな。ロマリアについた時間帯によっては、宿で仮眠を取ろう)

 

 出来たら到着後、忍び込むまでに仮眠の時間があったらなと思う俺を乗せたまま、船は進み。

 

「あれか」

 

 やがて見えてきた半島に確認出来たのは、幾つもの建造物。

 

「お師匠様ぁ、そろそろ着くって本当ですか?」

 

「ああ、見てみろ」

 

 甲板に出でてきたシャルロットへ頷くと、俺は大きくなりつつある街と城を指さした。

 




「っ、甲板か」

 差し込む日の光に手をかざし遮る動作へデジャヴを感じつつ階段を上がれば、視界に広がるのは青い空と海――。


主人公「あおーい空、ひろーい海……こんなにいい気分にひたっている私をじゃまするのは……だれだー!!」

シャル「お師匠様?」


主人公「……いや、何でもない」

 ちょっとだけ、パロディ刷るところだった、危ない危ない。

次回、第三百七十七話「ロマリア潜入」



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