強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百七十八話「カンダタ疑惑とまほうつかい」

「さてと」

 

 優先して確認すべきはまず生きているかどうか、続いて性別だと思う。

 

(おばちゃんの時みたいなことは無いといいなぁ、うん)

 

 もうシャルロットとて人工呼吸でパニックに陥るようなことはないと思うが、もし救える状況で倒れているまほうつかいが女性だった場合スルー出来るかと問われると答はNOだ。

 

(我ながら甘いとは思うけどさ)

 

 おばちゃんと違い倒れているのは、推定まほうつかい。使えるのは攻撃呪文の初歩の初歩的なのみな上、二回使うと精神力が枯渇するという残念仕様である。ぶっちゃけ、仲間にして欲しそうにこちらを見られても、戦力的には全力で要らない子にしかならないし、ナジミと塔であった事を思い出すと仲間に加わったとしても非常に接しづらい。

 

(それでも、多分助けようとするんだろうなぁ)

 

 助けた後どうするかを考えると頭痛しかしなかったとしても。

 

(だいたい、俺が助けなきゃおそらくシャルロットが助けるだろうし)

 

 見よう見まねで人工呼吸などされた日には、きっと俺が平静でいられない。

 

(……問題は、男だった場合だけど)

 

 おそらく、一番問題になる自体がそれだ。とりあえず、体つきがある程度確認出来るところまでは近寄ったのだが、黒いローブの人物は仰向けではなくうつぶせに倒れているのだ。

 

(ここまで近寄って分からない、かぁ)

 

 ローブに包まれた身体はおばちゃんの様に自己主張の強いプロポーションで無ければ、判別が難しい。

 

(自分で助けるのは地獄、シャルロットに助けさせる……なんて出来る訳がないし)

 

 地獄の二択問題を想像してしまうと、それだけで顔がひきつる。

 

(ええい、悩んでても仕方ない。それならいっそのこと、女の子であることを願って――)

 

 不意打ちでメラの呪文を唱えられたぐらいなら、大したことにはならない。俺は意を決すと倒れている黒ローブの横にしゃがみ込み手をかけて身体をひっくり返した。

 

「うっ」

 

 その時漏れた声は男のモノ。

 

「ふむ。おそらくは、気絶していただけか」

 

 声が漏れるということは人工呼吸の必要が無くなったという非常に喜ばしい事なのだが、問題が一つ。

 

(何故、気絶してたんだろう?)

 

 通りすがりの旅人を襲って返り討ちにされたとしたなら、死体として転がっているのが普通だ。

 

「危ねぇ!」

 

 一瞬考え事で気が逸れた直後だった。警告の声と後方から駆け寄る気配を察知したのは。

 

「っ」

 

 我に返って、目の前のまほうつかいを見るが、まだ意識を取り戻した様子はなく。

 

「うおおおっ」

 

「ちっ」

 

 感じた違和感に、気が付けば身体は動いていた。倒れ伏したままの黒ローブの男を引き寄せると言う形で。

 

「な」

 

「お師――」

 

 警告を発した押しかけ用心棒があげる驚きの声と、うっかりお師匠様と呼びかけたシャルロットの声を耳に俺自身も身体を横手に投げ出せば、見えた。用心棒になると言い出した男がまほうつかいの頭があった辺りの地面に棒きれを思い切り叩き付けている姿が。

 

「な、何してんだ? 何で魔物を庇ったりしてんだよ?」

 

「……前半までならこちらの台詞だ。何故、気絶したままの魔物にトドメを刺そうとした?」

 

 半ば抱き起こすような姿勢を取ったままの俺へ男は塔が、俺も逆に問いかける。

 

(ピチピチの旅人の服、気絶しただけのまほうつかい……か)

 

 仮定であれば一つ出来ていたし、それが正しいかもおそらくはじきに判明すると思った。

 

「そ、そりゃ、だまし討ちにするつもりだったかもしれねぇだろ?」

 

「……確かにその可能性はあったな」

 

「おう、だろ?」

 

 だからこそ、俺は旅人の服ピチピチ男の話に敢えて乗ったフリをし。

 

「……いいなぁ」

 

 ポツリと漏れたシャルロットの理解不能な呟きは敢えて聞かなかったことにしつつ、立ち上がると、ピチピチ男へ武器を向けた。

 

「お前にだまし討ちされると言う可能性が、な」

 

「なっ」

 

「簡単な話だ。まず、旅人を襲い気絶させて服を奪う。そして、気絶させた旅人には予め倒していた魔物の服を着せて地面に寝かせる」

 

 次に通りかかった者へ先程のように声をかけ、同行を求める。

 

「この時、交渉が成立すれば良し。しなければ、隙を見て襲う」

 

 もっとも襲いかかろうとしても隙が無い場合だってあるだろう。

 

「魔物の服を着せて放置したこの男は、そんな時、他へ意識を逸らさせる為のもの」

 

「ちょ、ちょっと待てよ。そいつの服を俺が奪ったんだとしたら生かしておけば服を奪ったことをバラされるじゃねぇか! 何でそん」

 

「そこまで計算済みだからだろう? お前の言う通り、生かしておけば拙いことになるからこそ怪しまれても疑いは晴れると。実際、意識を取り戻そうとしたりした時は、今のように魔物がだまし討ちしようとしたからと言う理由で始末すれば死人に口なし、だ」

 

 とりあえず、この推測が当たっているかどうかは、気絶中の黒ローブが意識を取り戻せば分かることだ。

 

「そもそも、旅をするのにそんなサイズの合わないピチピチになった服を着る筈がなかろう。魔物に遭うこともあれば、木の枝に引っかけることとてあるというのに」

 

 そんなたび に みずぎ を きてゆく おんな の こ が いる のは どうして ですか と いう しつもん は うけつけない。

 

「ぐっ」

 

「納得出来る反論が有るなら、聞かせて貰おう」

 

 呻くピチピチ男の前で武器を構えたまま俺は言いはなった。

 




シャルロット「(お師匠様に抱かれてるなんて)……いいなぁ」

まほうつかい(?)「……(へんじ が ない、きぜつちゅう の ようだ)」

主人公「犯人はお前だ!(キリッ)」

 だいたいこんな感じ。

次回、第三百七十九話「で、結局こいつはカンダタなんですかい?」
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