強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百七十九話「で、結局こいつはカンダタなんですかい?」

「ええい、こうなればもうままよ! うおらぁっ!」

 

 反論は物理だった。と言うよりも言い逃れ出来ぬと見て強硬手段に訴えたのだろう、だが。

 

(まさに語るに落ちるだな)

 

 俺としては、話が早くて返って都合が良かった。

 

(かけ声に紛れてスカラの呪文を自分にかけても、まだ一撃見舞える)

 

 このピチピチ男が原作のカンダタと同程度の強さを持っていたとしてもスカラの呪文で守備力を高めた身体に傷を作れるとは思わない。例え、変装の為着込んでいるのがただの服だったとしても。

 

「でやぁっ」

 

「な」

 

 呪文の詠唱を誤魔化す為の叫び声と共に一閃させた手刀は振り下ろされる斧の柄を斬り飛ばす。

 

(えっ)

 

 弾き飛ばそうとしたら切断してしまい、ピチピチ男だけでなく俺自身も実は驚いたのだが、それはそれ。

 

「ふっ、どうする? そこそこ物騒なモノを隠し持ってた様だが、棒っきれ同然になったそれで続けるか?」

 

 内心の動揺を誤魔化しつつピチピチ男を煽ると再び武器を装備したままの利き腕を向け。

 

「それなら、今度はこちらも武器を使わせて貰うが」

 

 最後通牒を突きつけた。

 

「うぐっ」

 

「どうした? こんな所で時間を無駄にする訳にはいかんのでな。言いたいことがあるなら、さっさと言え」

 

 棒きれになった手元の斧と俺が腕にはめたまじゅうつめを交互に見て呻く男へ冷たい視線を向けつつ、先程手刀を放った手で鞄を漁る。

 

(この状況なら、シャルロットが用意してくれるかも知れないけれど、まほうつかいの格好させられた人の手当を優先するかも知れないし)

 

 探しているのは、ピチピチ男が投降したり俺の手で倒された場合、捕縛する為のロープだ。

 

(とりあえず、身体の自由を奪ってしまえば、こいつがカンダタか確認する方法には心当たりがあるし)

 

 投降しようと破れかぶれになって向かってこようといっこうに構わない。

 

(俺が留意すべきは勢い余って殺さないようにすることだけ)

 

 この男がカンダタであった場合、荷物の中からイエローオーブが出てくれば良いが、何処かに隠していたり他人に売り払っていた場合、入手には口を割らせる必要がある。

 

(うっかり殺っちゃって、その後荷物を改めて何も出てこなかったってのだけは避けないとね)

 

 蘇生呪文は勇者一行ににしか適用されないのだから。

 

(おばちゃんのザオリクだったら死亡直後なら効果があるかも知れないけれど、ほこらの牢獄で別れて、それっきりだもんなぁ)

 

 少し一人にしておいてくれるかしらという言葉に従った結果、別れたのだが、別れた時の状況が状況だけに迎えに行くタイミングが難しいのだ。

 

(元々あのおばちゃんが同行した理由は、子供が勇者一行の戦いで命を落とすのを避ける為だし、シャルロットがアレフガルドに向かう前に拾わないといけないとは思うんだけど)

 

 出来うる限り長く時間を取るなら、バラモス撃破後、アレフガルドに突入前の寄り道して合流と言うことになるか。

 

(これについては後でシャルロットとも話し合っておこう、オーブが集まったりラーミアが復活してハイテンションになり「うっかりおばちゃんのこと忘れてた」とか、俺だけだったらやりかねないからなぁ。節目節目で忘れたあげく、バラモス撃破で一仕事終わった間にもう一度忘れるとか、充分あり得るし)

 

 これまでにやらかしてきたことを思い出すと冷や汗が出るが、だからこそ、これ以上ミスは重ねられない。カンダタを捕らえ、後顧の憂いを立ちつつイエローオーブを手に入れようと動いている今も同様に。

 

(イエローオーブとあのお姉さんの未来がかかってるんだ、手段を選ぶつもりもない)

 

 相変わらずピチピチ男は突っ立ったままだったが、逃げる機会を窺っているのか、それとも考え事をして俺が一言も声を発さなかったからか。後者だとするなら、ただ問うてやればいい。

 

「どうした? 言いたいことがないというなら、それでいい」

 

 と。ぶっちゃけ、目の前のピチピチ男は以前一人で殴ったバラモスに比べればただの雑魚なのだから。

 

「こちらはこちらのやりたいようにやら」

 

 ただ、俺は油断することなく更に言葉を続け。

 

「っ、まいった! あんたにゃかなわねぇや……」

 

 斧の残骸を投げ出し、両膝を地面についたピチピチ男が負けを認めたのは最後まで言葉を言い終える前だった。

 

「ふ、命拾いしたな。まあいい……負けたというなら、ここからは俺に従って貰おうか」

 

 このまま先まで続けさせると、原作通りなら命乞いを始めるので、敢えて俺は要求を突きつけ、更に命令する。

 

「まずは……服を脱いで、尻を出せ」

 

 酷い要求であることは分かっていた、だが必要なことだったのだ。

 

 




主人公「カラミティエンド(キリッ)」

ステータスによるごり押しで威力の上がってるただの手刀なんですけどね。


次回、第三百八十話「イェ○ーオーブ」

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