強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百八十一話「後始末」

「まったく、つくならもっとマシな嘘をつけ」

 

 原作にそんな残念アイテムは存在しない。実在して噂の方がねじ曲がっている可能性もゼロでは無かったかも知れないが、敢えてそっちの可能性は無視して悶絶する元ピチピチ男に質問したところ、あっさりオーブの在処を吐いた。

 

「……いざないの洞窟、か」

 

 旅人から奪った服と所持金以外の荷物、自身が着ていた覆面マント、そして盗品。それらをカンダタは洞窟に隠したらしい。ロマリアに潜入した時、所持品検査をされても困らないようにと言う理由なのだろう。

 

「シャル、これからどうするかだが、選択肢は幾つかある。一つはここで二手に分かれ、一方がそこの嘘つきをロマリアの兵士に引き渡し、もう一方が盗まれたオーブを探しに行くと言うモノ。二つめは別れずまずオーブを探しに行き、その後こいつを兵士に引き渡すと言うモノ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。さっき嘘をついたのは悪かった。けど、もう悪いことは

しねぇ! たのむ! これっきり心を入れ替えるから許してくれよ! な? な?」

 

 引き渡すと言われたからだろうか、起きあがった元ピチピチ男は許して欲しそうにこちらを見始めるが、俺は知っているのだ。原作では二度見逃したこいつと三度目に再会する場所が牢屋であることを。

 

「おしばな様……どうします?」

 

「まぁ、一応カンダタ(こいつ)を解放するという選択肢もある。ただ、な……」

 

 シャルロットの問いかけに俺は肩をすくめて見せた。そもそも、この男の目的は囚われた部下の解放。ここで釈放すると、もう一度部下の救出を試みてもおかしくない。

 

「解放するとしても暫くは監視を付けるべきだろう。嘘をついた舌の根も乾かぬうちにこれだからな。信用して貰えると思えたなら俺はこいつの頭の出来を疑うぞ?」

 

「わ、わかってるって! 逆らわねぇ、あんたにゃ絶対逆らわねぇから」

 

 釘を刺す為にも俺はお前など信用出来ないと言うポーズを取れば、元ピチピチ男は尻を庇いながら割と必死に訴えてくる。さっきの一撃が余程堪えたのかもしれない。

 

(とは言っても、割とすぐ復活してるんだけどね)

 

 ギャグキャラ補正が存在するのか、それとも原作同様タフなのか。

 

「……まあいい。あれも折れてしまったことだしな。その時はちゃんとした武器を使わせて貰う」

 

 呟いて視線を落とした先、フルスウィングの一撃に耐えきれず折れ飛んだ棒が大きく威力を削いだのも原因なのは明らかだったから、俺はそう宣言すると腕を組んだ。

 

「さて、壊しても問題ない武器は何があったか……」

 

「ひ、ひぃっ」

 

 盛らした独り言は当然ながらはったりだ。だが、カンダタらしき男の怯えっぷりをみるとやってみたかいはあったらしい。

 

(とりあえず、これだけ脅しておけば当面は大丈夫だよな)

 

 萎縮しすぎて役立たずになられてもそれはそれで困る。この男にはアレフガルドに行って貰わないと原作から外れてしまうのだから。

 

(今の原作乖離っぷりを思い返すと今更感あるけど、そもそもこのピチピチ男をこっちの世界に残しておいてまた悪事を働かれたら困るし)

 

 アレフガルドでも何かやらかして牢屋に入れられた気はするが、こちらの世界には捕縛されているとは言え、部下や支援者が残っている。

 

(全員処刑されてるならともかく、今は防げてるけど、捕まってる支援者や部下を解放されたら何やらかすかわかんないもんなぁ)

 

 世界単位で分断してしまえば、悪事も働きにくくなるだろう。アレフガルドでも牢屋に入っていたと言うことは、結局何かやったのだろうけれど。

 

(うーん、そうすると、部下と同じロマリアの牢屋に押し込むのは危険か)

 

 わざと捕まって部下と一緒に逃げ出す計画だった、とは思えないが油断をしていいと言う理由にもならない。

 

「そうだな、まずはオーブを回収しよう。この男の処遇については、オーブを回収した後で決める。それこそ『イェア゛ー』と鳴くまがい物を掴まされてはかなわんからな。共に行動していれば、言い逃れもできまい」

 

 もし、下手な誤魔化しをしようとした時は、さっきのはったりが現実になるだけなのだから。

 

「さて、これでこの男については良いとして……あとはそっちの旅人だな。シャル、まだ目を覚まさないか?」

 

 だからこそ問題はあともう一つ。

 

「はい、ホイミの呪文はかけてみたのでつけど」

 

「そうか」

 

 シャルロットの言葉に出来るだけ落胆の色を出さないように短く応じると、俺はシャルロットとその向こうに見えるロマリアの城下町を交互に見てから言った。

 

「やむを得んな」

 

 と。

 

「このままその旅人を放置は出来ん、かといってこの犯罪者を連れてロマリアには行けん。となれば、ここは二手に分かれるしかあるまい。お前はその旅人を背負うか、棺桶に放り込んでロマリアへ向かってくれ」

 

「え?」

 

「その旅人の搬送はどう考えても、いざというときルーラの呪文で逃げられ、回復呪文も使えるお前が適任だからな。そして、隠した品を探すとなると、レミラーマの呪文が使える俺が適任だろう?」

 

 分担はこれが一番理にかなっているし、心情的にも元ピチピチ男とシャルロットを一緒にしたくはない。たとえその選択が、半裸の男と二人きりになることでもあったとしても。

 

「……わかりました」

 

「頼むぞ」

 

 旅人とこちらを交互に見て短い沈黙を挟んだ後、承諾したシャルロットへと俺は頷きを返した。

 

 

 




主人公は選んだ、半裸の男と二人きりになる道を。

次回、第三百八十二話「続・後始末」

言い方次第で、実際の内容とはかけ離れた誤解を生ませる方法ってあるんだなぁ。

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