強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百八十二話「続・後始末(閲覧注意)」

「さてと、こちらも行くとするか」

 

 旅人をおんぶしたシャルロットを見送ると、呟いてロマリアに背を向ける。

 

(元ピチピチ男と二人、かぁ)

 

 別におんぶされた旅人のことなんてちょっとだけしか羨ましくない。

 

「わ、わかってるって。歩くから、そんなに睨まないでく、ぐうっ」

 

 だから視線に憤りを乗せたりなどしていないのに、元ピチピチ男はビクついて歩き出そうとし、尻を押さえて膝をついた。

 

(はぁ)

 

 ギャグキャラ並の早さで復活を見せたと思って居たが、尻のダメージは想像以上に大きかったのか、それとも。

 

「何を遊んでいる? 生まれたての子鹿の真似か?」

 

「ち、違、がっ、ぐうぅ」

 

 プルプル震えつつ、立ち上がろうとしては失敗し、四つ足になった男を冷めた目で見つつ、俺は考える。

 

(間違ってはいなかったよね)

 

 あの一撃は必要だった。一度痛い目を見せなければこの男はすっとぼけたままだった筈だ。

 

(「イェア゛ー」なんて鳴き声をあげるオーブ、あるはずがないし。その辺り、じゃあ実物を出せって言われた場合、どうするのか、ちょっと気になりはするけれど)

 

 そこで二度目の言い逃れが始まって、結局イラッとした俺が全力で尻に一撃入れて現状みたいなことになっていた気がする。

 

(まぁ、先にオーブを隠した場所まで歩かせようとしても正直に案内したかどうかが疑問だからなぁ)

 

 素直になったのも一撃を見舞ったからだと思うのだ。だから、フルスウィングしたこと自体は間違っていない。

 

(満足に歩けない様に見えるこの状況だって、考えようによっては逃げ出されるおそれがないとも言えるし)

 

 それに、歩けないと言うのはこの元ピチピチ男だけだ。

 

(いや、だからってシャルロットがやったみたいにおんぶする気はないけどね)

 

 むろん、だっこする気もない。

 

(こんな きんにくしつ の おとこ を だっこ とか なん の ばつげーむ ですか?)

 

 喜ぶ人間が居るとしたら、これから向かう洞窟の向こう、アリアハン大陸で腐った愛を筆に乗せる僧侶の少女ぐらいだろう。

 

(ああ、腐少女が歓声を上げつつ色々なポーズを要求する幻覚が見える)

 

 アリアハンに居るまま、遠く離れたロマリア半島に居るこの俺に精神的ダメージを与えるとか、ラスボスはゾーマじゃなくてあいつなのではないだろうか。

 

「……はぁ、仕方あるまい」

 

「な、おい、待、待ってくれよ! 何だよ、そのロープ! ぐ、あ、歩く、今立ち上がるから――」

 

 このまま男の回復を待っていても、お姫様だっこを要求されるとか嫌なイメージが漏れ出る一方。少々葛藤はあったが、時間を無駄にも出来ない。

 

「や、やめあア゛ーッ!」

 

「……結局の所、こうなるのか」

 

 直接身体が触れるような形で持ち上げたくなかった俺が選んだのは、ロープで縛り上げ、ロープ部分を持って持ち上げると言った方法だった。

 

(何でだろう、ジパングでジーンを縛った時と縛り方は同じなのに……)

 

 尻にロープが当たるからなのか、獣の様な咆吼を発したかと思えばビクンビクンと痙攣したり、芋虫か何かのように身体をねじったりとビジュアル面では変態的に凶悪極まりない仕上がりになっていると言えた。身体が覚え込んでいた、遊び人由来のものと思われる縛り方にも原因の一端ぐらいはある気がするけれど。

 

(結局あの僧侶少女が喜びそうなモノが出来上がっちゃう、とかなぁ)

 

 とりあえず、出来るだけ尻を刺激しない持ち方をするしかないとは思う。

 

(これを運ぶ理由って隠し場所を案内させる為だし)

 

 ナビゲーションが機能しないなら、手で持って俺がぶら下げているのは、縛られた変態と言う名の武器でしかない。

 

「仕方ない、もう一度薬草を使うか」

 

「おお、ありがてぇ! って、ちょっと待、ロープを解い、上からは、あ、ロープが食い込ぎゃぁぁぁぁぁっ」

 

 汚い悲鳴が辺りに響いた。

 

「まったく、世話をかけさせてくれる」

 

「うぐ、が、ぐ」

 

 魔物が出没する場所で悲鳴をあげるなど、襲ってくれと言うようなモノだ。聖水の効果が残っているからこそ、何も出てくることは無かったのだけれど。

 

「とりあえず、回復はしただろう? さっさとオーブの場所へ案内しろ」

 

「があ、あ? わ、分かった。案内するからもう薬草はやめてぐで」

 

 何故か元ピチピチ男が急に素直になってくれたのは収穫だったが。

 

「こ、このままぞっちに真っ直ぐだ。近くなったら教え゛る」

 

「こっち、だな」

 

 変態をぶら下げた俺のオーブ回収はすんなり進み始めた。だからだろうか、素直になった今なら聞けると思ったこともある。

 

「ところで、何故オーブを売らずに隠した?」

 

「う、売らなかった理由? そ、ぞれはっ……」

 

 俺が問えば、縛られた変態は時々身を捩りつつ、答えた。何でもアッサラームにはひいきにしている商人が居て、他の店よりも高く買い取ってくれる為、高く売れそうな盗品はいつもそこで売り払って居たらしい。

 

「成る程な」

 

 金の冠を売り払わずシャンパーニの塔にたむろって居たのも、冠を盗まれたロマリアから追っ手が出てアッサラームに抜けづらくなっていたからほとぼりを冷まそうとしていた、とすれば説明が付く。

 

(原作では冠が返ってきてロマリアが警戒を解いたからこそバハラタに帰還出来た、とすればそれはそれで皮肉だけど)

 

 同情はしない。

 

「さてと、この近くだったな? レミラーマ!」

 

 魔法の玉でアリアハンとを隔てた壁は破壊されていないこともあり、今の誘いの洞窟は途中で行き止まり通行人がやって来ることもない。

 

(隠し場所としては妥当なところだったんだろうなぁ)

 

 ただ、あたりを付けた上で呪文を唱えれば、簡単な偽装はあってなきがごとし。

 

「これがイエローオーブ、か」

 

 縛られた変態男を床に転がし、俺は竜の台座部分へ手を伸ばした。

 

 




しゅじんこう は かんだた を しばった!

かんだた は にくたい と こころ に おおきな だめーじ を おった!

どうする? こまんど?

次回、第三百八十三話「これであと、一つ……だったよね?」


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