強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百八十五話「原作より立ち寄る回数遙かに多いよね、バハラタ」

「とりあえず、宿に行くぞ? 荷物の分まで宿泊代を取られるのは癪だが仕方あるまい」

 

 立ち話では人に聞かれる恐れもあるし、筋肉質の男にいかがわしい縛り方を施し、吊して歩くとどうしても悪目立ちする。

 

(カナメさんと再会するのは、織り込み済みだったし)

 

 地球のへそへ行く為、このバハラタを立つ前にどこかで打ち合わせする必要はあった。

 

(こっちとしてもカンダタのことは話しておかないといけないだろうからなぁ。それに……)

 

 奇しくもこのバハラタは原作でカンダタが勇者に二度目の敗北を喫し、見逃されたあのアジトに近い。

 

(クシナタ隊の誰かに見張りだけはお願いする形でリリースすれば、原作通りアレフガルドに渡ってくれるかも知れないし)

 

 確か、あちらの世界にはジパングから来た鍛冶屋の夫婦が居た覚えがある。

 

(このバハラタとの位置関係からすると、カンダタが向こうに渡ったというか落ちたのって、その鍛冶屋夫婦がアレフガルドに渡ったのと同じ場所を通った可能性が高いと思うんだけど)

 

 ただ一つだけ気になる点もある。ジパングが原作とかけ離れた国になっていることだ。

 

(おまけに意に染まず仲間をやらされていたジーンみたいなさつじんきも住んでるからな、あそこ)

 

 リリースした変態(カンダタ)がジーンと鉢合わせると面倒なことになる。

 

(悪事をはたらく心配だけは不要なんだけどね)

 

 元バラモス親衛隊とやまたのおろちが居る国で何かやらかすなど、自殺行為だ。

 

(うーむ、監視を付けて逃がすか、それとも暫く、カナメさん達に見ていて貰うか、悩ましいなぁ)

 

 ランシール、つまり地球のへそに向かう航海に同乗させる訳にもいかない以上、選択肢は二つ。

 

(一人で悩んでもどうしようもない、か。カナメさんと相談して決めた方が良いのはわかりきったことだけど)

 

 原作知識が絡んでくる内容なだけに、シャルロットの前では話し辛い。

 

(カンダタを別室に置き、シャルロットに見ておいて貰ってその間に話せば――)

 

 良いとは思う。シャルロットに見張りをしていて貰えるよう話を持って行く必要が出ては来るが。

 

「さてと、そろそろ宿屋か」

 

 とりあえず、半ば現実逃避を兼ねていた考え事もそろそろ終了すべきらしい。

 

(そりゃ、縄で縛られた変態ぶら下げてたらどんな視線が向けられるか何て、想像するまでもない事だけどさ)

 

 町の入り口に放置する訳にもいかなかったんだから仕方ないじゃないかと、出来るモノなら主張したい。

 

「こんにちは、旅人の宿屋へようこそ」

 

「部屋を二つ借りたい。犯罪者の護送中でな」

 

 妙な誤解をされると困るので、宿の入り口をくぐるなり、俺は宿の主人の口上に割り込む形で主張すると、荷物を示した。

 

「……成る程、変質者ですか。ご苦労様です」

 

「そう言ってくれるか、ありがたい。どうも露出狂のケがあるようでな、自分の姿を隠そうとすると嫌がるのでこのままぶら下げてきたが、まるでこちらまで変質者扱いだ」

 

 ついでに、ここぞとばかりに愚痴っておく。

 

(これで町の人が何か言ってきたとしても、大丈夫っと)

 

 第一段階はクリアとでも言ったところか。

 

「それでこいつだが……他国でも余罪があってな、ここの町の牢にぶち込んでおしまいという訳にもゆかず、今に至る訳だ。借りる部屋の一つは出来ればしっかり施錠出来る部屋がありがたいな。むろん、俺達の一人が見張りにつくから逃がしたりこの宿に迷惑がかかるような真似はせん。……最初の見張りは頼めるか?」

 

「え、あ、はい。わかりまちた」

 

「すまんな」

 

 そして、宿の主人への説明から繋ぐ形で、シャルロットの承諾を取り付け、第二段階もクリアする。

 

「では、お部屋にご案内しましょう」

 

「ああ、頼む」

 

 カウンターを回り込んで出てきた主人へ頷きを返すと、俺は変態(カンダタ)を持ったまま後に続いた。

 

(端から見ると酷い光景かもな、これ)

 

 宿の主人のあとを縛った変態をぶら下げた俺が真顔で歩いているのだ。宿泊客とすれ違おうモノなら、硬直されるか、二度見されるか。

 

「……で、ああ言う再会になった訳だ」

 

 その後、カナメさんに事情説明をする段でポーカーフェイスを一時投げ捨ててげんなりした顔をさらしたのも仕方ないことだったと思う。

 

「それは本当に大変だったわね」

 

「ああ、全くだ」

 

「けど、良かったわ。あの子の治めるロマリアがまた大変な事にならなくて……」

 

「……そうだな」

 

 労いの言葉への首肯を半ば勢いに任せて行った俺は、一呼吸置いてからもう一度、別の言葉に同意した。

 

「俺としては、クシナタ隊の皆に幸せになって貰いたいと思っている。そう言う意味でも今回の件はすて置けなかったからな。原作に近い形に修正したかった、とかイエローオーブを回収したかったと言う理由もあるにはあるが」

 

 イエローオーブは無事入手し、変態がロマリアへ潜入するのも防いだ。

 

「あとは、あの男の処遇だけな訳だが……俺としてはクシナタ隊に見張りを頼みたい。先程説明したとおり、監視を付けて解放するか、暫く捕まえたまま様子を見るかで悩んではいるが、どちらにしても人手が居る。あいつが何か企んでも阻止出来る程度に実力があり、信頼できて口の堅い人材が、な」

 

 そして、ロマリアの女王やクシナタさん達に今回の事を伝える連絡役も必要になる。

 

「ダーマに引き続き手を借りっぱなしで申し訳ないとは思っ」

 

「はぁ、もうそこまでで良いぴょん」

 

「だが」

 

「放置したらあの子の国に何かしかねないとなれば、こちらの問題でもあるぴょん」

 

 頭を下げようとする俺を止めたカナメさんは、頭を振ると悪戯っぽく笑って見せた。

 

「勇者一行の活動を影ながらサポートするのが、クシナタ隊のお役目ぴょんよ? だったら、これもお役目の内ぴょん」

 

 と。

 




ぎゃぁぁぁ、出航できなかったぁぁぁぁっ。

すみませぬ。

次回、第三百八十六話「お話はおわりましたか、お師匠様?」


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