主人公「バシルーラッ!」
遊び人男「ああぁぁろぉぉぉぉっ?!」
うん、何となく思い浮かんだんだ、すまない。
(しかし、まるっきり接触しないわけにもいかないよなぁ)
おそらくは、考え方を変えるべきなのだろう。
(一人になれるタイミングは大きく分けて二つある。一つはシャルロットが一人になりたい場合、そして俺が一人になりたい場合だけど)
ハプニングを避けるなら、予めシャルロットと話し、着替えるなら何処でどうするかなどと言うことを取り決めておけばいい。
(朝、どっちがが寝ぼけて異性がいるのに着替え出すなんてことが無ければ――)
それで事故の確率は減るだろう。
(あとはトイレかぁ)
この世界に来てから知ったのだが、帆船の先端は乗り心地が最悪で、トイレはたいていこの場所に設置されている。
(うん、元の世界程の快適性が確保されてないのは、仕方ない訳で……って、そうじゃなくて!)
どちらかが用を足してる時にうっかりという事故なら、声かけで回避出来ると思う、せっぱ詰まってから駆け込んでくる場合以外。
(世界の悪意が働くというなら、働きようのない状況を作り出せば良いんだ)
着替えの場所を決め、着替える旨を相手から伝えられれば、そこに近寄らないようにする。
(で、ついてきてくれたお姉さんとの接触はこの手の確実に一人になれる時間に固執はしない方向でいこう)
例えば夜、寝付けないという理由で寝室を出て接触を試みたり、船員を手伝うと言う口実で単独行動し、この時に接触を試みたり。
(とりあえずは、相変わらずの様子のシャルロットと話すところから、かな)
船内での指針を決めなくては動きようがない。地図で見る限り、バハラタからランシールまでの距離はポルトガからロマリア間の四倍以上なのだから、一度か二度は確実に船上で夜を過ごすことになると思う。
「さてと、シャルロット。今回は前より長い船旅になるだろう。そこで、色々と決まり事を作っておこうと思うのだが」
「えっ」
「着替えをする場所と時間、とかな」
考え得る中で明らかにハプニングに繋がる可能性が高そうなものを俺は真っ先に挙げ。
「ええと……ボク、お師匠様になら見られても」
「待て」
想定外の返答に、ツッコんだ。
「何故そうなる?」
一体、何をどう解釈したらそんな答えが飛び出すのだ。
(がーたーべるとを付けてる様子はなさそうだし)
一言で言うなら「解せぬ」の一言に尽きる。
(まさか、さっきの着替え云々を遠回しに「俺は弟子の着替えが見たいんだぜ、げへげへ」とか脳内変換したとか?)
一瞬、酷い仮説を組み立ててから、ねーよとばかりに放り投げる。
「……ボク、思ったんです。魔物が跋扈し、いつ襲いかかってくるかもわからない世界を旅するのに、着替えぐらいで恥ずかしがってるのは問題なんじゃないかって。魔物は着替え中でも待ってくれませんし」
「あー、いや、否定はせんが……嫁入り前の娘がそう言う割り切りの仕方は、どうかと思うぞ?」
何やら力説し始めたシャルロットへ、視線を泳がせつつ応じてみるが、わかっていた。
「こんな反論じゃ、止められない」
と。
「ありがとうございます、お師匠様。けど、大丈夫です。一緒にいるのは、お師匠様だけですし」
「いや、大したことはしていないと言うか、別の意味で大変なことをしようとしているというか、な?」
確かに、魔王討伐という過酷な任務を帯びた旅では、色々と諦めなければいけないことも多いとは思う。だが、何故今更なのだ。
(ゾーマの事を知ってればバラモス撃破までで半分って思うかも知れないけれど、シャルロットはゾーマの存在知らないよね? もうすぐバラモス倒してめでたしめでたしだと思ってる筈だよね?)
このタイミングで、女の子として大切なモノを投げ捨てちゃうと言うのは、いかがなものなのか。
(俺が世界の声だったら「それ を すてるなんて とんでもない!」って言ってるところだよ?)
どうした、どうしたんだ、シャルロット。
「っ、そうか! メダパニか!」
何処かの魔物が対象を混乱させる呪文を唱えたに違いない。何せ俺達が立っているのは、甲板だ。魔物と遭遇してもおかしくはない。
(って、あれ? 今は聖水の効果で魔物は近寄ってこないんじゃ?)
ただ、俺の閃きを状況は全否定していて。
(あるぇ? ってことは、これってごく普通にシャルロットが割り切っただけ?)
立ちつくしつつ、心の中で顔を思い切りひきつらせ。
(来てくれ、早く来てくれ、ランシールっ!)
声には出さず、全力で叫んだ。シャルロットの割り切りがやばい、数日間このシャルロットと一緒とか色々な意味でやばい。
「お師匠様? え、ええと……それに、お師匠様のだけ見て、ボクのは駄目とか不公平ですから」
「は? 不公平だと? まさか、それは……」
あー、そういえば いちど しゃるろっと には きがえ を みられたこと が ありましたね。
(って、良いって言った気がするのに、まだあれ気にしてたの?!)
驚愕の中、俺は助けを求め思わず視線を彷徨わせた。
「おうっ!」
親指を立てて、「が・んば・れ・よ」とでも顔で語る船員と目があった。
(殴りてぇ……じゃなくて!)
頭を振ることで、暗黒へと向かいかけた思考を引き戻した俺は再び視線を巡らせ。
「あ」
樽の中から少しだけ蓋を開けてこちらを見ている、お姉さんと目があったのだった。
主人公「ランシール、早く来てくれぇ! 間に合わなくなっても知らんぞーっ!」
出航から一日目、早くも大ピンチの主人公。
あっさりランシールにつけると思ったのになぁ。
次回、第三百九十話「あらぁ?」
「つい、やっちゃうんだ」だと誤解されそうな気がしたので。
らん・しー・るー☆