強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百九十五話「スー様がロープであんな事をしてしまう話」

「ハンモック、ですか?」

 

 首を傾げるお姉さんの態度は、明らかにあのロマン寝具を知らない様子に見えた。

 

(まぁ、ジパング出身なら無理もないか)

 

 と言うか、俺自身、ロマン寝具と呼称しつつもそれが何処で発祥したモノなのか知らない訳なのだけれど、それはそれ。

 

「知らぬなら説明し……いや、見せた方が早いな」

 

 幸い材料になりそうなモノは揃っていたし、長く戻らなければシャルロットが訝しむかも知れない。

 

(夜風に当たって聖水撒いてくるだけにしては、時間かかってるもんなぁ)

 

 説明と作業を同時進行で行えるなら、その方が良い。

 

「……こうしてロープを編むことで網状にし、両側を吊すことで人が寝られる寝具が出来る訳だ」

 

「これは……」

 

「このぶら下げる寝具を船倉の天井近くで使うなら、荷物が崩れてきて下敷きになることもない。天井に叩き付けられる危険性だけは残るが、天井に張り付けるような形で固定してしまえばそれも防げる」

 

 樽に使っていた鋲が再利用出来そうなのが幸いだった。

 

「天井は意外と見ない場所だからな。場合によっては、板を使って天井に偽装することも考えたが、樽に使った木片では量が足りん」

 

 かといって、木箱をばらしたりして材料を集める訳にもいかない。

 

「色々不便な思いをさせてすまんが……」

 

「わかっております。スー様が出来るだけ快適な空間を作ろうとして下さったこともわかっていますから」

 

「……そう言ってくれるか」

 

 クシナタ隊のお姉さんは本当に良い人が多くて、参る。

 

「なら、このハンモックをすぐにでも設置してしまおう」

 

「はい」

 

「あそこの木箱を積めば足場が作れそうだ」

 

 周囲を見回して比較的大きな箱の固まりに目を留めた俺は近寄って最寄りの一個に手をかける。

 

「っ、そこそこ重いか」

 

「だ、大丈夫ですか、スー様?」

 

「ああ。持てない重さでもない」

 

 恐るべきはこの身体のスペックなんだろうけれど。

 

「さて、少し離れて見ていてくれ。俺は持てるが、この重量、魔法使いの手には余る」

 

「え? あ」

 

 手伝うと言われて、無理に持とうとすれば、きっと腰などを痛めるし、最悪下敷きになってしまう可能性だってあった。

 

「ふむ、ここは二段になったままなのを利用して、ここに一箱継ぎ足し、上を半分ずつずらして階段状にして……」

 

 あまり動かすと、ズレで違和感を覚えられるかも知れない。

 

「これぐらいの段差で登れるか?」

 

「はい、それぐらいなら」

 

 俺の言葉に従って少し離れた場所で見ているお姉さんと確認をとりつつ、ハンモックの設置と設置したハンモックへ至る為の足場を作る。ちなみに完成後は木箱を戻し、ロープで上まで上り下りして貰うつもりでいる。

 

(上に登りっぱなしじゃ、トイレとか食事はどうするんだって話になるからなぁ)

 

 実を言うとその問題に気づいたのは、先程お姉さんをトイレまで運んでいったからでもあるのだけれど。

 

「こんな所だろう。強度も申し分ない」

 

 念のため引っ張ってみたが、ハンモックのかかっているフックは元々重い荷物をつり下げたりする時に使うモノだ。

 

(お姉さんの体重だって、直接聞くのはアレだから推測だけど、俺と大して変わらないだろうし)

 

 ハンモックの横にぶら下げた上り下り用のロープは俺がぶら下がっても何ともなく。

 

「念の為、箱の上に柔らかい積み荷を載せておこう」

 

 下から見て死角になるような配置なら、問題も無いと思う。

 

「すみません、お手を煩わせてしまって」

 

「いや、詫びるのは俺の方だからな。気にするな」

 

 頭を振りつつ木箱を直せば、俺のすべき事は、ほぼ終わり。

 

「さて、あとは向こうに着いてからの打ち合わせだな。俺は先程使った透明化の呪文を入れ替わりに使おうと思う。大まかな流れは、こうだ。『まず、地球のへそに挑むシャルロットを、先頭にし並び替える』」

 

 この後、徐々にシャルロットとの間を開けて行き、曲がり角など視界から外れるタイミングで、密かにパーティーを離脱。

 

「レムオルの呪文を併用して透明になり、お前と交代する」

 

 ただし、受け答えだけは透明になったままの俺が行う。

 

「あとは、現地に着いた時、透明になった俺がシャルロットについて行くだけだ」

 

 地球のへその中で何事もなければ、また同じ方法で交代し、何食わぬ顔をしていればいい。

 

「問題は中で何かあった場合だが、その時はおそらく変装してシャルロットの助けに入ることになるだろう」

 

 お師匠様のまま現れては、留守番してたのが誰だと言うことになってしまうから。

 

「変装というと、スレッジ様に?」

 

「いや、おろちの婿の件を鑑みるとスレッジは拙い」

 

 変な方向に話が転がってフォロー出来なくなったら、目も当てられない。

 

「マシュ・ガイアーもサイモンとの口裏合わせナシで使うのは若干の危険が伴う」

 

 となると、新キャラを作るのも一つの手ではあるが、ぶれないキャラ作りというのは意外と大変なのだ。

 

「そこで、俺は考えた。丁度良い人物が目の前に居る、とな」

 

「え?」

 

 そう、このお姉さんだったと言うことにすれば、ランシールの中でばったり出くわしても問題ないだろう。

 

「あ、あの時の人だ」

 

 と、シャルロットは思い、助けてくれたことを感謝してそれでおしまいである。

 

「唯一の問題点は、女装しなきゃいけないというとこだな」

 

 ただ、そう付け加えた時、俺の視線はここではないどこか遠くを見ていた。

 

 




倉庫とかで木箱を移動とか、某パズルを思い出して知恵熱が出ないか?


次回、第三百九十六話「その後何もなく目的地に着きましたって感じにしたいっぽい」

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